実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 52 | テクノファ

投稿日:2021年3月28日 更新日:

今回はキャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書に関して述べます。平成28年にスタートしたキャリアコンサルタント国家試験制度は今年令和3年には約5万人の人が資格保有者となり、キャリアコンサルタント国家資格制度は10万人保有者登録に向けて順調に進んでいると評価できると思います。一方で、数が増えると質が落ちるというすべての世界に共通の現象がキャリアコンサルタント国家資格制度にも忍び寄っているのではないかと危惧します。前回に続きキャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、既存のスーパーバイザー養成等の実態把握の、スーパーバイザー養成の考え方、養成方法の部分から記述します。

(4)スーパーバイザー養成の考え方、養成方法
・スーパーバイザー養成プログラムを実施している機関のほか、スーパーバイザーの養成のための研修は行わず、経験と実績がある優れた会員の中から選任している機関がある。
・養成プログラム受講の条件として、キャリアコンサルティング実務を5000時間以上積んでいること、スーパービジョンを受けた経験が一定時間以上あること等、実務経験を条件にしている機関がある。これとは別に、養成講習プログラムの受講資格を設けて事前選考試験(面接およびキャリアコンサルティング実技)を行う等により、受講者を選別している機関がある。
・養成プログラムの受講期間は、実施機関によって異なるが、概ねスーパービジョン実施のための必要な視点を学ぶカリキュラムと、スーパービジョンの実践力をつけるための演習カリキュラムを組み合わせたプログラムを、1日概ね5時間~8時間、14日~18日程度の期間で実施している。
・その他、1年かけて集合研修、個別指導、個別学習、グループ学習を実施している機関、養成講習終了後にメンター制度を設けて長期間(2年程度)にわたるスーパービジョンメンタリング(※)によってスーパービジョン経験を重ねた後に資格認定している機関がある。
(※)スーパーバイザー認定委員会が認定した2名のスーパービジョンメンターが、スーパーバイザー養成講座修了者の実際のスーパービジョン場面についてスーパービジョンを行う。
・いずれの機関もスーパーバイザー養成プログラム修了者をすべてスーパーバイザーとして認定するのではなく、スーパーバイザーの資格試験を設けて一定基準をクリアした場合に認定したり、有識者から構成される審査委員会で審査したうえで認定する等、独自の認定方法を設けている。
・認定後は、3年~5年を目安に更新制度を設けている機関がほとんどである。

(5)更新講習受講者の成長モデルの考え方、指導のポイント
多くの機関に共通する考え方
キャリアコンサルタント自身の主体的な学びと成長
キャリアコンサルタント自身が、自ら課題や目標を設定し、主体的に学び成長する能力を育てることが重要であり、養成講座においても、多くの資料を主体的に学習し、考えを取りまとめ表現する過程を重視している。
・自他の相違や多様性に気づく
自他の相違や多様性に気づくことが、学びの意欲となり、関係構築能力を高めるので、グループワークや対話を重視したカリキュラムを編成している。
・試験合格後の継続的な学び
キャリアコンサルタント養成講座では、ロールプレイ経験で受験資格が得られ、また国家資格試験に合格しても、専門家を目指して継続的に育成する必要があり、養成講座以降の学習支援(更新講習など)に力をいれている。

以下のような考え方を明示している機関がある。
・定期的に実力診断を受ける
自分に本当に必要な講習を選択するためには、まず実力診断によってキャリアコンサルタントとしての成長課題を明確化することが前提になる。
・「実践⇒実力診断⇒学習⇒実践」の成長サイクルをまわす
実践(D) ⇒実力診断・課題明確化(C)+効果的な学習メニューの選択(P) ⇒講習受講(A)⇒実践(D)のサイクル(持続的成長のためのD-CPADサイクル)をスパイラルに繰り返すことで、持続的な成長サイクルを実現することができる。
・科学的なスーパービジョンを受ける
スーパービジョンは、教育プログラムとして科学的で標準化された技術の元にシステマティックに実施されるものを受講する必要がある。またスーパービジョンは事例指導 (クライアントの見立てと支援の指導)にとどまらず、スーパーバイジー自身の課題に隹占を当てた教育的指導でなくてはならない。
・3つの学習を視界に入れる
継続的な学びに不可欠な学習は、「専門領域ごとに必要となる知識・技能・技法」「キャリアコンサルティングの土台であるキャリアカウンセリング基礎技術の練磨」「基礎コンピテンシーとしての『見立て』や『セルフモニタリング』を行う能力の向上」の3つである。

(つづく)木下 昭

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