昨年世間を騒がせた「年金以外に2千万円必要」という話題から、高齢者の就業について考えてみたいと思います。日々の相談を受ける中で、高齢者の就業相談が以前と比べて増加してきました。そうした方の中で、「年金だけでは生活が厳しいから、何か出来ることがあるかと思って来ました」また「年金満額受給まで仕事をしないと困るから」と年金受給額と生活費のギャップを口にする方もいます。
最近シルバー人材センターのTVコマーシャルを目にした時、皆さん、現在の時代背景を読んでいるなあと驚きました。相談ではシルバー人材センターの案内もさせていただく中で、お仲間が既に入会しているような方や、活動を見て請け負っている仕事に関心のあるような方は前向きに検討されます。しかし、個々に事情がそれなりにあったり、仲間との交流に苦手意識を持っている方も少なからずいます。
終身雇用が当たり前と考えられていた時代は過去のものとなり、長年誇りをもって勤め上げてきた人であっても、生き方の再構築を迫られている現状があります。こうした転換期を迎えたとき、思考力に柔軟性があるかないかが判断結果に大きく作用する事実を目の当たりにすることがあります。長年の経験から習得して来た知識や能力を潜在的に蓄えている方、多様なコミュニケーション力を持っている方からは、ご本人の言葉以上に気持ちが伝わることを感じます。円熟味とでも言いましょうか、自己を理解し受け入れているので、過去の条件にこだわることなく、人生における場面転換を受け入れていきます。
当初は硬直的な思考で、なかなか方向転換が困難な方も多くいますが、諦めずにお話を続けていきますと不調から徐々に脱却し、現状を受け入れていきます。表情が柔和になり「頑張ってみるか、やってみないと分からないからね」と向っていく姿に「身体に気を付けて」と応援できるのはキャリアコンサルタントとして大変うれしいことです。
求人に関して、最近「60歳以上の方も歓迎します」といった文言が記載されていたり、定年70歳という求人も目につき始めました。シニア対象の面接会も催されるようになってきました。面談していますと、60歳以上の方を高齢者と一括りにすることはとても出来ません。個人差が大きく、環境や時間的条件などが整っていれば培ってきた技能を活かして、貢献したい、まだまだ働きたいと希望している求職者は多くいます。正規雇用ではありませんが熟練者が来てくれたと事業者側も喜んで頂いています。
事務職は若年の女性というイメージも覆される様相が見られます。並み居る若年女性の応募者の中から、60歳の女性を採用して頂いた事業所さんから「お客様の対応を安心してお任せ出来ます」とうれしいコメントを頂きました。一方、会得した知識や技能は既にやりつくした、これからはもっと社会や人と関わることができる仕事がしたいと考えている方もいます。体力に見合った就労時間であれば、学童クラブや、保育園のおじいちゃん先生など、就労先で若い指導者により広い視点を持ってもらえるような良い影響を与えておられる方もいます。
子供が独立し、あるいは高齢の親を見送った後に、早朝や遅番のあるシフト対応が可能になったと、高齢者施設の調理補助に就いた例もあります。求職者側だけでなく、事業所側も若年層に標準を絞っていては業務工数の確保が難しくなりつつあります。人口減少に伴い5年ほど前から若年層の相談が減少傾向にあります。また、転職希望の若年求職者は、待遇条件を優先する傾向にあり、その待遇条件の期待に沿っていない企業には応募者が少なくなる傾向があり、そのような企業は今後それなりに改善策が求められている状況になってきています。
人生における仕事の位置づけは(仕事人生)は、収入を得るために働くのだと考えることが普遍ですが、収入に換算出来ない仕事における喜びもあり、働く人と雇用する側の持ちつ持たれつ関係で日常業務が運営されているものだと思います。周囲の評価を得ることにモチベーションを持つこともあるでしょうし、蓄積してきた経験や知識を発揮することで社会に貢献できる自分をうれしく思うことで、自分で決めて納得して仕事人生を送ることができるでしょう。
年金は働く年数が限られた高齢者にとって、頼りにしたい大切な収入には違いありませんが、もし足りずに補完したいと思えば、新たな仕事を探すことになります。疲れるけれど仕事に行くのが楽しい、まだ頑張りたいという求職者のお役に立ちたいと高齢者の私も日々頑張っています。
M.H