前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルティングの役割拡大に対応するスーパービジョン補章を説明します。
第四節では、さらにその個人視点と組織視点の調整統合の活動をとりあげまとめている。具体的には(1)個の自律の個性化支援が組織からの期待や要請に対応することの必要性をとりあげ、これを個人視点対応と組織視点対応の調整支援という視点でまとめている。次に(2)新たなパフオーマンス開発としてのMBO-Sを組織視点対応支援としてまとめている。さらに(3)セルフ・キャリアドックとその他の援助を組織視点対応支援とし、それをエンプロイメンタビリティという概念を用いて説明している。最後に(4)では、(3)でまとめているセルフ・キャリアドックで記載されている「その他の援助」に関する解説を行っている。セルフ・キャリアドックではその他の援助として6項目の活動をあげているが、それに加えて、その他の援助とは多様な活動が存在し、それがキャリアコンサルタントと人事が協業できる活動という視点を提起している。
第五節では、これからのキャリアコンサルタントのマインド、心得の重要性をまとめている。組織の視点への対応、クライアントー人ひとりのキャリア開発や形成を通した成長実感やキャリア充実の拡大、生涯に渡るキャリアコンサルタント自身の研鑽の実践など、これからの新たなスーパービジョンによってキャリアコンサルタントの研鑽対象領域がカバーされることが重要というまとめを行っている。
1. キャリアコンサルタントの活動・役割の拡大の背景とポイント
キャリアコンサルティングが果たす役割と活動内容は時代とともに変化し拡大している中で、キャリアコンサルタントが学ぶべき内容、実践すべき活動に対応するスーパービジョンも変化しつつある。具体的には、キャリアコンサルティングの基本であるカウンセリング型「面談」中心のスーパービジョンをベースとしながらも、新たな領域の学びと活動を組み込んだスーパービジョンの構築が求められている。キャリアコンサルタント登録制度等検討会の2017年度の報告書は、キャリアコンサルタントの新たな役割と活動に対応した能力要件の見直しを提起し、2018年度の同検討会の報告書は、能力要件の拡大に対する継続的な学びの促進とそのための新たな組織領域への対応を内包したスーパービジョンを提起している。
(1)第10次(2016年)職業能力開発基本計画:戦略的人材育成と生産性の重要性
キャリアコンサルタントの役割り拡大に影響を与えてきた背景には職業能力開発基本計画がある。この職業能力開発基本計画は5年ごとに公表され、報告年以降の5年間の能力開発・人材育成・能力開発支援の方向性を明示している。そもそもキャリア支援の重要性が社会的に認知され、その必要能力の確定や、キャリア支援の手法やキャリアコンサルタントの育成計画が動き始めたのは2002年からであるが、この動きを促したのが2001年の第7次職業能力開発基本計画であった。その後、キャリアコンサルタントの活動では、職業生活と関連をもつライフキャリア領域への支援を行うという活動内容の拡大が、第8次職業能力開発基本計画(2006年)がきっかけとなり、職業生活や生産活動に対する理解の増進が、第9次職業能力開発基本計画(2011年)、そして職場や上司の人間関係への調整・介入、教育研修場面への参加、組織のインフラ作りや運営への活動枠の拡大などの動きは第10次職業能力開発基本計画(2016年)がきっかけとなり、様々な活動の拡大が促されてきた。キャリアコンサルタントの組織領域の能力拡大と、その学びの重要性を提起した2017年度、2018年度の登録キャリアコンサルタント等検討会の報告書は、「戦略的人材育成と生産性の重要性」という副題のついた第10次職業能力開発基本計画がその背景にあるといえる。
(2)キャリアコンサルタント登録制度等検討会2017年度報告書:能力要件の見直しと拡大
2017年度報告書は、多様な能力要件の見直しを提起している。とりわけ、変化する仕事に対応するためのキャリア開発やキャリア形成、職業生涯の長期化、それに伴う組織の中での役割変化といったクライアントや相談場面の長期化を踏まえた、キャリアコンサルティングの基本スキルの充実を図るための知識及び技能に伴う能力要件の拡大。2017年度に厚生労働省から公表された、キャリアコンサルティングの内容を明示した「セルフ・キャリアドック」 をはじめとした企業におけるキャリア支援に関する知識や技能に伴う能力要件の拡大。変化する経済、技術、組織、 仕事等々に直面する個々人の生涯にわたる主体的な学び直しと、これに伴うキャリア充実に関する支援に対応した能力要件の拡大。雇用の多様化や流動化などの支援に関する知識や技能に対応した能力要件の拡大。そして従来のワークライフバランスに加えて、社会の成熟化に伴う仕事と治療の両立支援や、仕事と子育て、また介護との両立支援に係る能力要件の拡大等の理解と支援といった広範囲にわたる多様な能力が新たに必要となってきていることを提起した。
(つづく)A.K