前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルティングの役割り拡大に対応するスーパービジョン補章を説明します。
(3)キャリアコンサルタント登録制度等検討会2018年度報告書:継続的な学びの促進とスーパービジョンの整備
2017年度報告書を受け、2018年度報告書は、これらの能力要件の拡大を踏まえ、キャリアコンサルタント資格の取得後の継続的な学びの機会として、資格取得後の継続学習、そしてスーパービジョンの重要性を提起している。従来キャリアコンサルタントに求められていた、個別面談スキル、倫理、法令・制度などの学びに加え、新たな能力要件の拡大に対応したツールの活用方法、多様な働き方などに関連するクライアントの特性理解、そして新たに強調された能力として多職種連携に関する知識や組織への働きかけ等が重点的に学ぶ必要のある領域として提起された。
2018年度報告書は、継続的な学びの一環として、キャリアコンサルタントの力量を客観的に診断できる機会としてスーパービジョン、事例検討会、研修会、経験交流会への参加等の整備の必要性をあげているが、キャリア支援におけるスーパービジョンではクライアントに対する効果的なキャリア形成支援・それを通じた組織活性化への貢献につながるものが重要とし、スーパービジョンの対応として、従来型のカウンセリング内容に加えて、キャリア形成支援の具体的な対応や組織活性化への貢献につながる支援もスーパービジョンの対象とすべきとされるに至った。
(4)組織の視点として重要なセルフ・キャリアドック
この組織の視点を明確にキャリアコンサルタントの役割りの中に組み込むことを提起したのは、2017年に公表されたセルフ・キャリアドックである。「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うものとすることと、改正職業能力開発促進法に規定されている。「相談」「助言」そして「指導」を規定では具体化していないが、これを具体化、明示したものがセルフ・キャリアドックである。キャリアコンサルタント登録制度等検討会2017年度報告書では、キャリアコンサルタントの能力要件の拡大で、このセルフ・キャリアドックの学びと実践を重要な新能力要件として提起した。そしてこのセルフ・キャリアドックでは相談、助言、指導という領域で組織への介入、提案、組織の仕組みの理解や人事との協業につながる活動などが提起された。それ故、新たなスーパービジョンでは組織の視点を学ぶことが必要と補章の第一節で述べたところである。それではこの組織の視点とは何をカバーすることであろうか。それは面談を中心とした個支援からの役割り拡大であり、キャリア支援の総合的な取り組みと仕組みの構築であり、組織に対して個の視点からのキャリア開発構築や、多様性をもった個の力の発揮を支援するための提言を行う全体報告の作成などである。
セルフ・キャリアドックは個の視点に立ったキャリア開発・形成支援を、組織が実践する改正職業能力開発促進法の理念に基づき、従業員のキャリア開発・形成支援を組織の方針の中に組み込み、就業規則の中にそれを書き込むことを個々の企業に求めている。セルフ・キャリアドックでは組織に、従業員一人ひとりのキャリア形成支援の必要性と責任を求め、そのためにキャリアコンサルタントが組織に対する介入、提案、人事との情報交換や協業を求めてもおり、キャリア支援が面談では終わらない状況を強調して求められている。セルフ・キャリアドックでは、キャリアコンサルティングを面談のみに限定せず、例えば多様な教育研修の実践とそのフオローアップとしての面談、そして、またキャリアコンサルティングを面談の提供という活動に限定せず、個々人のキャリア開発と形成を支援する総合的な取り組みとそのための企業の仕組みと位置付けている。
まとめると、キャリアコンサルタントには、面談のスキルや対応力に限定されることなく、この総合的な取り組みと仕組みを構築できるスキルの獲得とそれを実践できる能力である。従業員一人一人のキャリア形成支援が経営問題であるとの認識のもとに、人事と対応して経営問題としての問題解決に努める仕組みをスーパービジョンにおいて学ぶ必要性が登場してきている。面談の基礎的なスキル、対応力に加えて、一連の組織視点を組み込んだキャリア支援の総合的な仕組みづくりの構築力と実践力、従来人事部門が活用していた様々な個への対応サービスを「その他の援助」としてとらえ直し、さらにキャリア開発・形成支援という視点から見直しをし、新たな活用法をスーパービジョンで検討することが求められているのである。これらの組織視点への役割り拡大は、スーパービジョンにおいてキャリアコンサルタントがしっかりとその内容を理解することが肝要であろう。
(5)新たな組織視点としてのキャリア自律とエンプロイメンタビリティ
言うまでもなく、変化の時代、組織主導のキャリア指導モデルから、個性化を活かしたキャリア自律開発・形成モデルに教育開発のパラダイムが変化し、それに向けたキャリア支援が重要となってきている。このキャリア自律の支援を組織が行う力を、筆者はエンプロイメンタビリティと呼んでいる。従来の組織視点をベースにおく個人のキャリア支援は、モチベーション管理の仕組みの中での従業員支援であった。昇進・昇格、昇給・報酬管理、任用・異動、教育訓練の提供といった人事のメカニズムを通したモチベーション管理の仕組みが構築されており、それに対して、納得できない、不安を感じている、どうしたらいいか対応ができない従業員に対する面談中心型の心のケアがキャリアコンサルタント/カウンセラーの重要な役割であった。
(つづく)A.K