前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルタントの役割り拡大に対応するスーパービジョンについて説明します。
(3) 長期化するライフキャリア支援では
長いライフキャリアの中で、クライアントは様々な人生経験を通して、キャリア開発・キャリア形成を実践している。思い通りになる場合も、思い通りにはなかなかならない時もあり、様々な人生経験が存在している。そのプロセスの中で、私たちは節目、 トランジションを通して、さらなる成長を繰り返している。成長には連続的な成長と非連続的な成長があり、連続的な成長はストレッチング、そして非連続的な成長は過去とは異なる発想や視点をもつことができる、新たなステージへの到達といえる。この連続的な成長を筆者はストレッチングと呼び、第二項でのべたライフキャリアインティグレーションはこの連続的な成長であるとも考えている。それに対して非連続的な成長では、 節目、トランジションといった従来とは異なるステージに向かって、自己革新を行うプロセスを包含している。しかもこの一連の非連続的な成長と自己革新プロセスは従来とは、異なる支援をとることもある。従来の非連続的な成長は、往々にして、自分がしかけるというよりは、むしろ企業からの退職勧奨、転籍、ポストオフによる変化、昇進、 身近な近親者のライフイベントの変化など、自分ではコントロールできない状況に伴う非連続的な変化が多かった。 しかしこれからの変化は、むしろ個々人の能動的なライフキャリア作りに伴う、積極的なライフキャリア作りが重要となろう。キャリア自律やダイバーシティ開発といった昨今の状況を鑑みると、個々人が能動的、主体的にトランジション、節目を構築する機会も増加する可能性が存在している。このようなより積極的な対応では、キャリアコンサルタントは、いまここでの支援にとどまらず、より長期的なライフキャリアの展望や可能性をクライアントとしっかり話し合い、支援を行うことが肝要となろう。
このようなクライアントの非連続的な成長にむけた支援はキャリアコンサルタントの重要な活動である。この節目づくりでは、従来の価値観や見方・考え方を一旦脇に置き、新たな視点をもとに行動することが重要であり、この一旦脇に置くというプロセスはアンラーニングというプロセスに他ならない。キャリアコンサルタントは連続的な成長に向けた支援を行うと同時に、このアンラーニングの状態を通した新たなチャンス作り、新たな行き場所づくり、居場所作りの支援を行うことも重要となる。特にこの場合、クライアント本人自身の積極的な行動、コミットメント、 責任が重要となるのであるが、本人の当事者意識、気づき、責任に加えて、キャリアコンサルタントの積極的なはげまし、一歩の踏み出し支援、新たな役割獲得支援といった積極的な介入も時と場合によっては必要となる。新しい生き方の選択といったキャリア開発とキャリア形成に関しての支援では、介入、情報提供、問題点の整理、励ましなど、クライアントに向き合う積極的な姿勢も必要となってくるのであり、それに向けた対応力に磨きをかけることも重要となる。一回、二回の面談に限定されない、長いライフキャリアの支援を行い続けることでは、ラポール関係とは異なる、相互信頼関係の構築も重要となろう。
(4)総合力の支援:キャリアコンピタンシー・人間力の支援も重要に
キャリアコンサルタントが対応する重要な個のサポートとして、一人ひとりの個の多様なキャリアコンピタンシー支援が挙げられる。キャリアコンピタンシーはどのような状況にあってもキャリアを構築し続ける力といえる。 悩み、不安、EAP 型支援も従業員支援においては極めて重要な対象であるが、キャリア開発に向けて一歩の踏み出しを支援するには何よりもこのキャリアコンピタンシー支援が重要といえる。この一歩の踏み出しでは、そもそも個々人が環境との不適応状態にある中、個人にとっての環境は不合理であり、先行きが見えず、理不尽な要請や期待にあふれた環境に他ならない。その中で一人ひとりの個人に、一歩の踏み出しが要請されるのである。その時、私たちにはジョブマッチングやタレントマネジメントのようなある程度、先を見通せ、コントロール可能な環境にあるかというと、ノーであろう。我々をとりまく現実は、理不尽な環境に満ち溢れており、その中でも一歩踏み出す、強いエネルギーを発揮することが求められている。キャリアアドバイザーの支援は、この状況の中での一歩の踏み出し支援であり、頑張れ、一生懸命対応しよう、それに向けて障害があるなら、それを取り除くことを一緒に考えようという、 従来のカウンセリング型対応ではむしろ避けるべき支援の実践も必要となってこよう。
このような状況の中でキャリアコンサルタントの支援が必要な多様なメタコンピタンシー、総合的な能力の支援を中心で支えるのがエンプロイメンタビリティといえる。これからのキャリアコンサルタントの役割り支援としては、このキャリアコンピタンシー発揮の支援が重要となり、それがスーパービジョンでカバーされることが必要となろう。場合によっては従来のカウンセリング型のキャリア支援とは異なる踏み込み、介入も支援として必要なスーパービジョンの在り方を検討する必要があろう。多くのキャリアコンサルタントはキャリアコンピタンシー、ソシアルキャピタル、モチベーション開発力に関しては、 いずれも自律的なキャリア開発の延長にある概念であり、支援対象として違和感をもつことはないかもしれない。 しかし社会的な文脈の中で個性化を磨く力というのは、変化の激しい環境や組織の状況を理解し、それに向き合いながら個性化を発揮する力、健康開発力は長いライフキャリアの中で生き抜くエネルギーを開発する力、そして個人の社会的責任の自覚と遵守は、組織の中だけでなく、広く社会という文脈の中でのキャリア作りを意味し、ボランティア活動や、社会活動を通した社会への貢献の意味でのキャリア作りにつながる概念であり、特定の組織の中で役割りを発揮しているキャリアコンサルタントには、総論としては支援の重要性が理解できていたとしても、各論に入ってきた時に対応できるかどうかを問われると、現状では支援提供は難しい局面も多々あろう。しかし、これらはいずれもこれからの個人のキャリア開発とその支援においては重要な対象領域であり、キャリアコンサルタントとして、新たな支援対象領域として理解しておくことは重要であろう。
(つづく)A.K