実践編・応用編

キャリコンサルタント実践の要領 88 | テクノファ

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前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルタントの役割り拡大に対応するスーパービジョンを説明します。

これらの調整を実践でおこなっているのが、最近GAFAといった米国企業を中心に採用されてきているMBO-Sやパフオーマンス開発と呼ばれる一連の活動であろう。最近はパフオーマンス開発ではなく、パフォーマンスマネジメントとも呼ばれているが、筆者はパフォーマンス開発として理解している。MBOはいうまでもなく、組織の方針に基づき、部門目標が策定され、それを受け特定のサブユニットの目標が策定されるといった目標のブレークダウンの仕組みであるが、いずれも組織方針にそった目標の連鎖に特徴がある。これに対してMBO-Sやパフォーマンス開発は組織方針にそった目標の連鎖ではなく、むしろ個性化に沿った、自分として、達成したい成長目標やチャンス作りといった個人目標をMBOに組み込んだ、個人の成長を指標として活用する目標の連鎖といえる。このMBO-Sやパフォーマンス開発に対応する支援もまた、キャリアコンサルタントの新たな役割となってこよう。

(3)セルフ・キャリアドックの個別報告と全体報告
キャリアコンサルティング活動に組織視点を組み込み、その内容を明示したのは厚生労働省が報告書としてまとめた「セルフ・キャリアドック」であった。新たな改正職業能力開発促進法は、「キャリアコンサルティングとは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことをいうものとすること」と定義し、その内容が規定されていた。これに対し、セルフ・キャリアドックは、企業組織におけるキャリアコンサルティングの内容を具体的に明示し、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、またそのための企業内の仕組みのことと定義した。

要はキャリアコンサルティングを企業内で実践する施策がセルフ・キャリアドックである。それは面談にとどまらず、研修との組み合わせ、キャリア形成に向けた総合的な取り組みとそのための企業内の仕組みであり、組織視点を明確に織り込んだキャリアコンサルティングの活動である。具体的にはキャリア支援に関し、①キャリア支援を企業の育成ビジョン・方針のもとに実施すること。②多様な従業員の特性やニーズに対応した合理的配慮や収集されたデータをベースに経営陣・人事部門に提案を行う「全体報告」を実施すること。③総合的な取り組み・仕組みを整備し、組織視点で対応すること。④キャリア面談結果の悩みや不安への対処は重要であるが、その対処に加えて、個々人のキャリア意識や組織上の問題から生じている個人の状況をまとめた個別報告書を作成すること。⑤組織内でキャリア支援カルチャーを浸透する努力を行うこと。⑥キャリア開発・形成の状況に対する自己理解や、個々人が職場で対応している仕事の状況理解などを把握すること等の現場活動のより一層の理解を通した支援の実践をキャリアコンサルタントに求めること。⑦後述する6項目からなるその他の援助の実施も視野に入れること等がセルフ・キャリアドック活動として規定された。そしてセルフ・キャリアドック即ち、この①から⑦はキャリアコンサルタントの能力要件の拡大として最重要な領域であるとされるに至っている。

この一連の活動の中で④の個別報告に関して筆者の見解をまとめよう。セルフ・キャリアドックでは、キャリア開発と個人の元気や納得性、キャリア開発に向けた当事者意識・責任・実践度合、キャリア開発の実践結果の組織や仲間への貢献度合い、その結果としての組織の活性度などを「個別報告」としてデータベース化することも必要になると筆者は考えている。この「個人レベル」のキャリア開発活動実態の情報のー元化とデータベース化が、キャリア開発・形成への努力や活動の明確化、その結果やその活用を促すことになる。筆者はこの個別報告をキャリア開発カー ドと呼んでいる。
この「個人レベル」のキャリア開発の現状の気づきとアセスメント、キャリア充実に向けたとりまとめを「キャリア開発カード」として仕組み化し、個々人のキャリア充実やキャリア開発に向け活用することはキャリア支援において重要となろう。一部にはキャリアカルテという言葉も出始めてきているがカルテは悩みや不安を想定し、その程度をまとめるということと混同される危険があり、むしろ、前向きなキャリア開発・形成ではキャリア開発カードとしてとらえ、それをどのように記入し、活用し、その個別データを集計し、全体報告に活用する方策を検討し、実践に移すことなどが、これからの活動に加わってくることになろう。

セルフ・キャリアドックでは、全体報告の作成により、組織への提言を行うことがキャリアコンサルタントの活動として明記されているが、それにはこの個別報告=キャリア開発カードの作成が必要である。そのカードに記載された内容を集計し、合理的配慮を活かした組織への提言が可能となり、全体報告の作成が可能となるからである。もちろんモラルサーベイなどのデータ活用も全体報告として重要であろうが、個人のキャリア自律の実践度合とその効果を抜きに、全体報告の作成は困難であろう。
このような支援の内容に組織視点を組み込む展開は従来のキャリアコンサルティング活動には欠けていた視点であるが、この一連の組織視点の領域がキャリアコンサルタントの活動領域として規定された以上、この視点への対応がキャリアコンサルタントー人ひとりに求められている。
(つづく)

-実践編・応用編

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