実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 90 | テクノファ

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前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルティングの役割り拡大に対応するスーパービジョン補章を説明します。

(4)セルフ・キャリアドックの取り組みにおけるその他の援助
セルフ・キャリアドックでは、組織として個人のキャリア開発やキャリア形成を促す様々な支援を「その他の援助」と表記しているが、その背景には、改正職業能力開発促進法に規定された事業主が講ずる措置にある。同改正法では、労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、情報の提供、キャリアコンサルタントの機会の確保、「その他の援助」を行うことを追加するとしている。このその他の援助としては、 ①キャリア健診、組織風土、モラルサーベイといった、組織レベル、職場レベルのキャリア開発支援の風土の存在、 ②職場開発や組織開発といった組織レベルでのキャリア形成支援の従業員間での相互啓発の程度、③管理者によるキャリア形成支援、④OJTなどを通した現場におけるキャリア開発支援の仕組み(筆者はこれをOJDとして既述)、⑤ 360度フィードバックなどを通したキャリア開発支援につながるアセスメントの実施、⑥キャリア開発・形成に向けた一人ひとりの従業員の具体的な努力や活動実態をまとめたデータベースの作成による、個々人の情報の一元化と支援メカニズムの運用効果の向上という6項目が挙げられている。

このその他の援助として明記されている6項目がその他の援助の全てではない。むしろその他の援助は6項目に限定された取り組みや仕組みではなく、この6項目を出発点とした、企業のエンプロイメンタビリティの仕組みの構築であると考えられる。スーパービジョンではとりあえず、6項目を出発点として、このモデルにある様々な制度・施策のキャリア開発・支援型展開として検討することが重要である。
筆者はこれらの一連の活動は、セルフ・キャリアドックで明記された「全体報告」の中でとりあげられるキャリア自律支援につながる組織対応施策のひとつひとつに該当するものであり、「個別報告」の記載対象内容でもある個人のキャリア開発・形成につながる活動であろう。従来キャリアコンサルタントは個別面談で、個人のキャリア開発にむけた希望や期待、不安や悩み等を把握し、支援することに努めていたが、キャリアコンサルタントの能力要件の拡大にともない、キャリア開発と形成に向けた総合的な取り組みと仕組みを構築し、その他の援助の具体的な施策を活用し、それを多面的・総合的なキャリア開発・形成の支援の実践につなげることが求められている。

5.キャリアコンサルタントとしての研鏡で:研鏡マインドと心得
以上述べてきたように、キャリアコンサルタントに求められる専門能力要件は対象領域の拡大に伴い、常に変化し、キャリアコンサルタントに対し新たな要件獲得を求めている。特に重要な役割と要件の拡大は、組織視点への対応であると言えよう。従来はクライアント個人が主たる支援対象者であった立ち位置から、職場の支援への対応、人事との協業、そして全体報告などを通した組織全体への提案など、従来にはなかった新たな役割を果たすことが求められるようになってきた。

この変化に対し、この新しい領域に精通したキャリアコンサルタントは圧倒的に人員数が枯渇しており、早急な育成を図ることが肝要である。筆者が考える組織視点を組み込んだスーパービジョンでは、セルフ・キャリアドックへの対応、人事との協業、ダイバーシティあふれた職場におけるメンバー間のコミュニケーションの構築支援など、支援としては従来存在しなかった領域をスーパービジョンの対象とすることが求められている。当然のことながら、この組織視点の支援では、まず対象領域の特定化とその各対象領域における標準的な支援レベルの確定が必要であり、それに対応できるスーパーバイザーの認定が必要であろう。しかし、この組織視点という活動対象領域は、支援内容が多様で幅広く、その幅広い領域いずれにも高度な専門性を発揮することは困難である。そのため、専門性の発揮では、より限定された専門領域を明確化し、それに特化し、その限定領域で、より高度な支援サービスを提供できるスーパーバイザーの育成と「認定」も必要となってこよう。そのためには限定領域の特定化とその領域でスーパービジョンを行える支援レベルの確定も必要といえる。

この限定領域の特定化とサポートレベルの確定に対応したスーパーバイザーは、標準的なサポートを提供できるスーパーバイザーの中から選ばれることが望ましいが、限定された特定領域を担当し、その領域支援を行えることから先導型スーパーバイザーと呼ばれる役割を持つことが望ましいと考える。この先導役とは、現在2019年度キャリアコンサルタント登録制度等検討会で検討されている概念であるが、限定された専門領域においては、標準レベルの活動を越え、限定領域に特化し、その先導役としての役割を発揮することのできるプロフェッショナルとしての専門性の深みと対応力を磨くことが必要であり、その「認定」基準を明確化することも必要であろう。それ故、①標準的な組織支援に関する内容の特定と、支援レベルの明確化、加えて②限定領域に特化したより高度な専門プロフェッショナルとしてのスーパーバイザーの役割りを果たすための支援レベルの明確化という双方の支援の仕組み化を行う必要があろう。

今後、組織の視点という新たな役割の習熟と実践対応は、現場で活動するキャリアコンサルタントには必要不可欠であるが、常に新しい活動内容が登場し、新しい専門プロフェッショナルとしての力量の発揮が求められるようになってこよう。キャリアコンサルタントには、継続的に研鑽しつづける意欲と姿勢、そしてその実践経験の蓄積が求められ続けていくに違いない。組織の仕組みも組織と個人の関係も時代とともに大きく変化する以上、それはキャリアコンサルタントに課された宿命ともいえる。キャリアコンサルタントは今までの、職場への介入といった従来のキャリアコンサルティング活動からは、想定しにくかった新領域にもチャレンジし始めている。しかしこれからのキャリアコンサルタントは、さらに①個々人のキャリア開発活動をデータベース化する個別報告(キャリア開発カード)の作成と活用、②多様な特性をもった個人の相互支援や相互啓発を促すダイバーシティ開発をベースとした新組織開発活動の支援、③個々人のキャリア開発活動をより効果的に行える人事制度の構築に向けた提言と運用への支援、④様々なキャリア自律活動をより効果的に実践でき、組織の活性化につなげるための人事との協業、さらには⑤組織の活性化をもたらす全体報告の作成と活用、⑥長い職業生涯への対応のための連続的・継続的な支援のためのライフキャリア支援策のより一層の充実と実践など、多様なチャレンジが控えている。この多様なチャレンジには、キャリアコンサルタント ー人ひとりが研鑽マインドをもち、新しい領域にチャレンジし続けるキャリアコンサルタントとしての心得をもち、それを実践することが求められるのである。
(つづく)A.K

-実践編・応用編

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