基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 91 | テクノファ

投稿日:2021年8月9日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
エクゼクティブ(経営幹部層)のサブカルチャー
すべての組織に存在する第3のサブカルチャーは,経営幹部層のサブカルチャーであり,すべての組織のトップマネジャーは共通の環境と共通の関心を共有しているという事実にもとづいてこのサブカルチャーは築かれている。ときには,このサブカルチャーはCEOとその経営ティームによって形成されている。経営幹部層の世界観は,その組織の財政的健全性を保つ必要性を巡って築かれている。また役員会,投資家,さらに資本市場の関心事によって支援されている。経営幹部が抱く,そのほかの関心事が何であれ,これらの関心事によって,その組織の生存と成長に関わる課題を懸念し,マネジすることから遠去かることは許されない。私企業ではとくに,利益や投資からのリターンを心配しなければならない。しかし,公共機関や非営利企業においても,私企業におけると同様に生存と成長に対する財政的な課題もきわめて重要な課題なのだ。この経営幹部のサブカルチャーの要点は表4-3に表示した。

経営幹部のサブカルチャーの基本的な前提認識は,ランクを通じて昇進してきて,現在の地位に昇りつめたCEOに顕著に発見される。これに対して企業の創業者やその家族のメンバーでこの地位に就いた人たちは,違った種類の前提認識を保ち,多くの場合より広い視点を保持している(Schein,1983)。

しかし組織内を昇進してきたCEOはそのキャリア上の特性から,とくに財務的視点を重視することが多い。マネジャーが階層組織の高い地位に昇れば昇るほど,その遂行責任と結果責任のレベルも高まり,財務の問題により一層関心を寄せなければならないだけでなく,同時にその組織の基本的な職責を観察し,影響を及ぼすことがますます困難になることにも気づく。彼らは現場から遠く離れたところからマネジしなければならないことにも気づく。この発見は不可避的に彼らにコントロール・システムと定まったプログラムの枠内で思考することを強要するが,これらはますます非個人的なものにならざるを得ない。また結果責任はつねに中央に集中し,組織のトップに集まることから,経営幹部は何が進行しているかを十分に理解する必要に迫られる。同時に信頼できる情報を入手することがますます困難になっている事実も自覚する。情報とコントロールに対するニーズが彼らに,通常のコントロール・システムに加え,より詳細な情報システムを生みだすことを促す。さらに階層組織のトップのポジションにおいてはますます孤独感を深める。

表4-3 エクゼクティブ・サブカルチャーに伴う前提認識(グローバル・コミュニティー)
1.財務に対するフォーカス
・財務的な活力と成長なしには,株主や社会に対するリターンは生まれない。
・財務的な活力とは競合企業との永遠の戦いを意味する。
2.セルフイメージ:「戦いに備える孤高の英雄」
・経済環境は永久に競争が続き,敵意に満ちたものである。「戦いにおいては誰も信用することはできない」
・したがってCEOは「孤高の英雄」でなければならない。また全知全能,完全なコントロール,不可欠の存在をアピールしなければならない。
・部下からは信頼できるデータを得ることはできない。何故なら彼らはあなたが聞きたがることしか伝えてくれないからだ。したがってCEOは自らの判断に益々頼らざるを得ない(つまり正確なフィードバックが得られないことがリーダーの真実と全知全能の感覚を増強する)。
・組織とマネジメントは本来的に階層的なものだ。つまり階層は地位と成功の尺度であり,コントロール保全のための主要な手段なのだ。
・人材は必要である。しかし彼らは必要悪であって,本質的な価値は備えていない。
・人材は獲得し,マネジすべきリソースのひとつであり,それ自身が目的とはなりえない。
・問題なく機能している組織は人材の全人格は必要としていない。彼らが契約している活動をこなしてくれれば十分だ。

皮肉なことにマネジャーたちはそのキャリアを通じて,人材に対応しなければならないし,理性的には組織を動かしているのは人材だということをしっかり理解することが求められる。とくに第一線管理者は,彼らが人材に依存していることをもっともよく理解している。しかしマネジャーが階層組織において昇進を重ねると,彼らはもはや現場従事者をマネジしているわけではなく,彼らと同じように考える,ほかのマネジャーをマネジしていることに気づく。その結果,彼らの思考パターンと世界観がますます「現場従事者の世界観からは離れた」ものになっていくことは起こり得るだけに留まらず,むしろ当然のものになる。第2に,マネジャーが昇進を重ねると,彼らがマネジする部門はますます大規模になり,そこで働いている人材を個人ごとに知ることが不可能となる。ある時点で彼らは,すべての人材を直接的にマネジすることはできないことを自覚し,その結果,「その組織」をマネジするためのシステム,一定のやり方,ルールを生みだすことに取り組みはじめる。人材を「人的資源」としてとられるようになり,資本投資というよりはコストとして処理するようになる。
(つづく)平林良人

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