基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 95 | テクノファ

投稿日:2021年8月23日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第5章 外的適応に関する前提認識
組織文化を形式的に定義すれば,それから導き,生みだすものは構造的に見た組織文化であって,文化の内容,つまり組織の文化的な前提認識(assumption)を追求することはできない。組織内のグループはその対面する課題が究極的な組織文化にどう結びつくのかを推察することができない。さらに言い換えれば,グループの,ひいては組織全体の文化形成に本当に役立つ行動はどの組織機能のなかにあるのだろうか。そしてある種の文化の前提認識はいつまでも有効であり続けているが,それは何故か。

組織文化の内容次元を見届けるのに役立つモデルは社会心理学とグループ・ダイナミックス理論のなかにある。およそグループとか,組織とか名付けられるもののすべてはふたつの原型的課題に取り組むことになる。(1)外的環境の変化に対応する生存と適応と,(2)生存と適応を可能にする内的進化のプロセスである。グループが直面する課題は何かを明確に把握するには,グループ生成からそれ以降のグループの盛衰の全課程に通じていなくてはならない。昔話のなかに埋没しそうな歴史的,文化的起源を進化の視点から探り出すことは,マクロカルチャーの次元では,困難というより不可能とされるかも知れない。しかし,マクロの次元ではなく,グループ,組織,職業などの次元で,その歴史や進化のプロセスが知られている場合には,これらの文化的課題の調査・研究を進めることは,決して不可能ではない。

文化形成の過程とは,言ってみればグループ形成のプロセスであり,とりわけ「グループらしさ」,グループの独自性というエッセンスを醸成していくプロセスそのものと言ってよい。つまり経験と学習の共有による一連の思考,信条,情感,価値観の様式の共有から始まり,一連の前提認識の様式の共有へと進む。これを著者はグループの「文化」と呼んでいるのだ。グループが無ければ文化もはじまらないし,何らかの前提認識の共有,つまり最小限度の文化が無ければ,そのグループは単なる寄せ集めの人間集団であって「グループ」ではない。であるから,グループの成長と文化形成は一枚のコインの両面であり,リーダーシップ活動と経験の共有を意味する。

文化の要素や次元へのこうした取り組みは基本的に人類学者のアプローチとは異なるかもしれないが,それは筆者達の文化に対する基本的な関心が,現存の文化を理解するにとどまらず,新たな文化の形成,文化の進化,文化の破綻にも向けられていることによる。このダイナミックな取り組みは,文化の機能重視の考えを反映している。文化とは何かを考える以上に,特定のグループ(大小を問わず)のそれぞれの文化がそれぞれのグループに寄与しているのは,その文化の機能,働きによるものとして注目している。

グループ・ダイナミックスの考え方から,およそすべてのグループに共通する組織次元上の問題点に関するガイドラインを取り出すことができる。そして,同時に言えることは,グループであれ,組織であれ,その成り立ちはリーダーたちの手によるものであるから,グループ作りとそのマネジメントについてリーダーが直面する課題は何かを考えておくことが有益であるに違いない。そのエッセンスを外的適応の問題として,表5-1として示した。
表5-1 外的適応と生存の問題
・使命と戦略:コアとなる使命,主要な課題,明示された機能と隠れた機能について  の理解を共有すること。
・ゴール:コアミッションに基づくゴールであることへのコンセンサスを高めること。
・手段/方法:ゴール達成のための手段,方法についてのコンセンサスを高めること。たとえば組織構成,労働の分業の格差,褒賞制度,権限規定など。
・測定/評価:ゴール達成に向けてのグループの取組を測定,評価する基準について  のコンセンサスを高めること。たとえば情報.統制のシステム。
・修正/訂正:ゴール達成がおぼつかないとき,適切な修正,修復の方策についての  コンセンサスを高めること。
(つづく)平林良人

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