基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 96 | テクノファ

投稿日:2021年8月24日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
アサンプション(前提認識)の共有,ミッション(使命),ストラテジー(戦略),ゴール(目標)
いかなるグループあるいは組織にとっても,その究極的な生死に関する問題のコンセプトとは何かを共有しておく必要がある。というのは,核心的ミッションと主要課題(タクス)に関するもっとも基本的な共感や「合理的な根拠」は,すべてそこ(グループ/組織の生死)から発しているからである。大方のビジネス組織にとって,この共有された定義は,組織の経済的な生存と成長に関わる課題に繰り返し対応し続けることを意味するが,同時に組織にとっての主要な利害関係者(ステークホルダー)との良好な関係を維持することにもなる。(1)投資家と株主,(2)製造原料の供給者,(3)管理者と従業員,(4)コミュニティーと行政機関,(5)製品・サービス購入の顧客。

多くの調査によれば,長期にわたる組織の維持・成長の鍵はバランスよくこれらの支持者の要望に応えること,そのことが組織のミッション(使命)となっていること,そしてその組織の有する核心的な能力と基本的な社会機能との調和という総合的なバランスが保たれること,これが長期的な組織の成功の鍵となることが指摘されている(Donaldson & Lorsch,1983;Kotter & Heskett,1992;Porras & Collins,1994)。これらの要因のなかの特定なものに焦点を当て,そこに組織的努力を集中させることが成功の鍵と考えることは誤りである。組織に成功をもたらす環境となるのは,これらの要因のすべてと,その調和である。

宗教,教育,社会,行政組織とではそれぞれの核心的使命(ミッション),主要任務が明確に異なっている。しかし,多様なステークホールダーの期待を調和的に充足することが組織のミッションとなるという論理はどの組織にとっても変わりはない。例をとれば,大学(という組織)の使命は,学生の学習ニーズ(住居,食事,親代わりなどを含む),教授側の調査・研究,新知識の追求のニーズ,コミュニティーにおける知識・技能の蓄積・保存のニーズ,投資家の研究機関への支援投資のニーズ,さらには中高年者を労働市場に組み入れ,熟練グループに仕分けできるような専門教育機関を設立したいとするところまで高まる社会的ニーズをも充足させることになる。

中心的ミッション,あるいは主要なタスクはミッションやタスクを構成する要因のうちの何かひとつ(たとえば顧客)を挙げて説かれることが多いが,究極的,革新的なミッションを考えるときはその取り上げ方を工夫したほうがよい。「大きなミッションやタスクのなかで有効なわれわれの職能,職務は何か」,「われわれの継続的な生存を正当化してくれるものは何か」などのような問いかけのほうが有効である。このような問いかけによって見えてくるものは,多様なステークホールダーの姿とそれに対応する多様な職能であり,さらにまた,これらの職能には公開,認知されているものと,「潜在的」で周知されないものがある(Merton,1957)。わかり易い事例に学校システムの公式の機能は「教育する」ことだ。しかし仔細に実情を調べればいくつかの公示されていない動きや仕組みが含まれる。たとえば,(1)生徒を保護し,適当な機会と働き場所が得られるまでは労働市場に出さないようにする段取り,(2)社会的ニーズを斟酌した特殊な才能や技能グループの早期選別,育成の支援,(3)学校システムに関連する職業従事者のプロフェッショナルとしての自律性の存続と保持の支援等がこれに該当する。組織のはっきりと目に見える機能及び目に見えにくい機能を調べるに当たって,組織のリーダーもメンバーも組織の生存のためには,ある程度までは隠された機能も含めた公約を認めざるを得ないと悟るであろう。事実,公に知られにくい隠された機能を存続させる,というような前提認識を共有することができるか,否かの問題に関わることになる。

組織のミッションの真髄はこのように複雑で多機能の課題になってくる。そのなかには組織の公的なありようを維持するためには表に出さないままにしておかなくてはならないものもある。大学にとってはこのようなベビーシッターやタレント選抜や業者談合を思わせる話は困惑することだが,隠された機能は多元的な機能のひとつとして組織活動の決定に重要な役割を持ち,組織文化の決定要因に加わってくる。ビジネス組織の場合にはその組織の存在するコミュニティーに雇用機会を提供したり,製品や原材料などによってコミュニティーの経済資源となったり,諸活動のマネジメント・ノウハウに貢献したりするなど,経営以外の諸活動にも関わるものとなる。

事例として,デジタル・イクイップメント社(DEC)はニューイングランド地方の主要経済力になるに伴い,新たな工場や施設の建設に当たっては,当該地域に与える経済的影響力について,ケン・オルセン(Ken Olsen)の判断によって左右されるところがあったが,その判断の根拠は当時のDEC文化の分析による健全な地域経済の維持であり,そこには一連の見えにくい機能が含まれていることは明らかであった。チバ・ガイギ一社(Ciba-Geigy)では,いわゆる「バーゼル貴族」出身者のキャリアが非スイス系より有利に扱われていたことは明らかであった。これも隠され機能のひとつとして守られていたことで,公然と語られることはなかった。

全社的,統合的な次元での組織文化はこのように展開していき,下位組織では,そのサブカルチャーがその見えにくい姿を現わしてくることがある。隠された文化の重要性が認識されるのは,組織そのものが閉鎖とか移転のような問題に直面した状態のときである。そのような事態に巻き込まれる恐れのあるサブカルチャーの抵抗が一気に表面化することになるかも知れない。企業組織の縮小,移転に伴う当然の成り行きの事例として下位組織における職業文化の表面化がある。(つづく)平林良人

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