基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 98 | テクノファ

投稿日:2021年8月26日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
ミッション(使命)に起因するゴール
(目的)に関する共有された前提認識
組織のミッションの核心とアイデンティティーについて,組織の中心メンバーのコンセンサスがあれば,ゴールの共有が自動的にできるとか,多様なサブカルチャーがミッション達成のために隊伍を組むなどということにはならない。先にも述べた通り,いかなる組織においてもその組織文化の基本をなす複数のサブカルチャーがミッションの部分的な要素を多目的に,そして,当然のように作動させている。そもそもミッションなるものは誰にでも一応の理解はされるが,明白にわかりやすく表現されてはいない。ゴールについてのコンセンサスを成立させるためには,関係グループは共通の言語表現と,前提認識の共有を必要とする。それは基本的なロジスティカルな作業を意味する。つまり抽象的な何か,あるいはミッションの総括的認識を具体化,現実化することであって,製品やサービスの企画・生産・販売というそれぞれの具体的ゴールを,制約されたコストと時間内に実現することである。

事例として,DECは一連のコンピューター関連の製品,「部品市場における勝者となること」のミッションについてコンセンサスを明確にしていたが,多様な製品の開発グループに対する最善のリソース配分の方法も,製品に関する最善のマーケティングの方法についても,シニア・マネジメントの課題は未解決のままであった。ミッションと戦略は必ずしも時間的制約を受けないと言えるが,ゴールは1年後,1か月後,明日,何かをするために設定されなければならない。ゴールがミッションを具体化する。ゴールが戦略の方法の決定を促進する。そして,ゴール設定のプロセスで未解決の課題の所在が明らかにされ,またサブカルチャー内のコンセンサスのレベルの浅さに気づかされることもある。

DECでは製品の支持,支援をめぐるディベートのなかで,用語としての「マーケティング」の共通理解に重要な欠落があったことなども明らかになった。たとえば,あるグループはマーケティングとは全国紙(誌)によるイメージ広告であり,社名の広範な浸透であると考え,別のグループはマーケティングとは技術専門誌による宣伝であると受け止め,また別のグループは次世代製品の開発につながるものとし,一方ではまたマーケティングの中心要素は販売促進,セールス支援そのものにあると強調するグループもあった。

DECシニア・マネジメントは,組織の主要機能の役割調整コンセンサスの不足や,これらの機能が組織の中核ミッションの実現についての把握が不十分のため,組織のゴールを明確に表示することが困難になることがあった。シニア・マネジメントは会社の発展のゴールを技術コミュニティーにおける信頼度に向けるか,全国的なミニコンピューター産業界のブランド・ネーム認識に向けるかについての選択を迫られた。最終的にこの選択の議論を制したのは深いレベルでの前提認識にもとづくものであった。その前提認識は大方の年季の入ったDEC社員のアイデンティティー,電気エンジニアであって革新者であることに由来している。技術者としての彼らの信条は,よい製品なら売れる,ということであって,このよい製品の「よさ」こそが彼らの独自の信条であり,それだけで十分なのであって,イメージ作りなどに「無駄金」をつかうべきではなかった。

チバ・ガイギーでは製薬ビジネスを堅持することがミッションとして明確であり,シニア・マネジメントの包括的な自己概念とも一致し,企業利益としての有利さもあった。しかしゴール設定については,事業部の利益率や,成長と実蹟の算定上の期間の問題など,意見の統一を欠くことが多かった。

作業上のゴールはできるだけ精緻であるべきだというので,どの組織も1年か,そこらのゴールと関連して,ミッションやアイデンティティーの問題についても言及することが当然のようになってきている。ここで注意しなくてはならないことがある。組織文化の前提認識を本当に理解するためには,比較的短期の作業的なゴールと組織のミッションに関する前提認識を混同させないことである。チバ・ガイギーの「科学的な根拠に立脚し真に役に立つ製品」を提供できるようなビジネスにのみ関与するという前提認識は,他社を買収すべきか否かという戦略的な問題に直面した討論を経て初めて明確になった。事実,「戦略(strategy)」という言葉は,基本的ミッションに対する革新的な関与を意味し,オペレーション上のゴールが言わば「戦術(tactic)的な」生存のための短期的な対応措置であることに対比される。会社が主要な戦略をめぐる検討に入るときは,ミッションとオペレーショナルなゴールの相違についての周到で掘り下げた議論を心がけることが必要になる。

要するに,ゴールは数段階の抽象レベルと水平的時間軸での定義が可能である。たとえばわれわれのゴールは次の4半期末に利益を出すことか。来月10単位のセールスを上げることか。明日,見込み客12人と会うことか。こういうことにコンセンサスが得られ,問題解決を重ねてこそ組織におけるゴールを文化要素として考えることができるようになる。
(つづく)平林良人

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