実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 109 | テクノファ

投稿日:

キャリアコンサルティングの社会的意義
キャリアコンサルティングを学ぶ前提

キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぼうとするとき、日本の産業社会においてはキャリアという言葉の概念は、つい最近まで正しく存在していなかったという点をふまえておかなければならない。キャリアコンサルティングはキャリア開発の支援活動であり、キャリア開発のためのコンサルティングであるが、キャリアコンサルティングを学ぶということは単にキャリアコンサルティングを技法としてとらえるのではなく、キャリアコンサルタントが果たさなければならない役割など、キャリアコンサルティングの前提や背景、あるいは周辺についても正しく理解しておかなければならない。

以上のような点を踏まえながら、キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぶということはどういうことかについて概論的に述べる。

A.マズローの欲求5段階説やF.ハーツバーグの衛生動機づけ理論でいえば、日本は国というレベルでも社会的欲求はほぼ満たされつつあるにもかかわらず、企業の人事スタッフは相変わらず衛生要因が社員のモティベーションを高めるものと錯覚し、依然として集団主義に基づく集団管理から脱却しなかった。横並び意識などはその典型的な表われである。MBOの真の意味がわからず、目標管理を集団管理的手法として扱ってきたのである。個の価値を正当に認めて欲しいという自尊欲求(承認欲求)が満たされなければ、自ら進んで自分の能力を高めようという自己実現欲求は生まれてこない。自己実現欲求は健全な個人主義の下でしか生まれないのである。

戦後の復興期から今日に至るまで、“個人と組織の利害は一致するものではなく相反するものである”というパラダイムにトップから一般社員まで洗脳され社会通念化していたことを思えば、それは一種の社会的必然であったのかもしれない。

しかし、否が応でもグローバリゼーションという渦の中に巻き込まれようとしている日本企業のこれからを考えるとき、“個人と組織の利害は一致するものではなく相反するものである”という古色蒼然としたパラダイムからは脱却しなければならない。個人と組織の利害は一致するのであり、一致するからこそ個人は動機づくのである。すなわち、組織は個人の集まりであるから、一人ひとりの成長がなければ組織全体の成長も期待できないのである。このように考えれば、個人と組織の利害は一致するのである。

キャリア開発も、会社のために人を大切にするキャリア開発ではなく、“個人と組織の利害は一致する”というパラダイムに転換し、“その人のためにその人を大切にする”キャリア開発に取り組まなければならない。つまり、採用・配置・処遇・評価・賃金・教育訓練・福利厚生・企業倫理など全てをトータルな人事制度としてとらえ、個人(一人ひとり)のニーズに応えられるような制度、一人ひとりの成長に結びつくような制度に改革していかなければならない。一人ひとりの成長があってはじめて組織は成長・発展し、組織が成長・発展することで個人もさらに成長するという「個と組織の共生」を目指すキャリア開発でなければならない。人材育成からキャリア開発への転換である。そこでは、個人と組織の利害は一致するという考え方がベースとなる。

「一人ひとりが目覚めたら優秀な者が辞めてしまうのではないか」とか、「個人を大事にしたら組織がバラバラになってしまうのではないか」という疑念を持つマネジメントは、個人と組織の利害は相反するという旧態依然としたパラダイムから脱却できないからである。優秀な社員は、その企業にいることで自分の成長を実感できたり、自己効力感を味わえたり、自己実現が可能であると思えた場合には辞めることはない。本当に自分が大切にされ、必要とされていると実感できれば誰も辞めないのである。そうではなく、「自分が大事にされているのは所詮会社のため」とわかったとき、心は冷めてしまい、自分を本当に必要としてくれるところに移ろうという気になるのである。これは社内においても同じである。自分が働きたいと思う部署では何も言わなくてもその人は頑張り、実力以上のものを発揮する場合すらある。「そんな悠長なことを言っている状況ではない」と思っている経営者は「急がば廻れ」ということわざを思い出していただきたい。仮に、自分が働きたくないという部署でも、本人が納得すれば別問題である。本人が納得できるような説明がなされればいい。そのためのヒューマン・スキルなのである。

企業として、「人間は本来成長しようとする存在である」という人間観を持ち、キャリア開発の意味と意義を正しく理解すれば、優秀な人材が育たなかったり、辞めたりすることはなくなるであろう。
ちなみに、昨今話題となっているコンプライアンスの問題も、個人と組織の利害が一致するという考えがあれば、いとも簡単に解決するのである。
(つづく)平林

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタント実践の要領 46 | テクノファ

我々が学習し国家試験に合格しようとしているキャリアコンサルタントの資格に関する法的根拠は「職業能力開発促進法」によりますが、この法改正は2015年改正の「勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律」の後に改正されました。 キャリアコンサルタントとして自分たちの資格の法的根拠は大切にしなければならないとの見地から前回45に続き「職業能力開発促進法」を紹介します。 (つづき) (報告等) 第三十条の十七厚生労働大臣は、資格試験業務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、登録試験機関に対して資格試験業務に関し必要な報告を求め、又はその職員に、登録試験機関の事務所に立ち入り、資格試験業務の状況 …

キャリアコンサルタント養成講座4 I テクノファ

テクノファキャリコン養成講座を修了してから、私は毎日多くの相談を受けていますが、その中から1つ事例を紹介したいと思います。 会社内で仕事をする中で、辛いことは日々誰でもありますが、人間関係がうまくいかないことは、この上ない苦痛になります。 相談者は、40歳代の女性社員Aさん、物流会社のその職場は、新任の所長(50歳代男性)を筆頭に、男性2名(30歳代と40歳代)の4人の小さな営業所です。 所長は、打合わせや会議等でよく不在することが多く、相談者のAさんと2人の男性が日々の業務を主に担っていました。彼女は、経理を担当しており、また電話応対もこなしていました。 相談内容は、所長との人間関係がうまく …

キャリコンサルタント実践の要領 60 | テクノファ

このコーナーは、テクノファキャリアコンサルタント養成講座を卒業され、現在日本全国各地で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報などを発信しています。今回はM.Iさんからの発信です。 企業からのキャリアコンサルタントへの相談案件の一つである【評価】を巡るものが増加傾向にあります。 主な相談内容は *評価結果がマンネリ化している *評価に対する納得感が得られない *それぞれの評価にバラつきが見られる といったことがあります。 いずれにしても、する側も、される側も、評価そのものの必要性は感じているものの、どのようにすればいいのかについて不安や迷いを感じている方が多いようです。 先日ある …

キャリコンサルタント実践の要領 62 | テクノファ

前回に続きキャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、スーパービジョンのモデル実施及びアンケート・実施報告書の分析の部分の、今回のスーパービジョン実施後の自身の課題解決から記述します。 ②―3今回のスーパービジョン実施後の自身の課題解決 スーパービジョンのモデル実施に係るアンケート(スーパーバイジー:キャリアコンサルタント用)内の、「今回のスーパービジョン実施後の自身の課題認識」15項目について、平均値を計算した。回答は、「1:つながらなかった、2:あまりつながらなかった、3:どちらでもない、4:ややつながった、5:つながった、6:扱わなか …

キャリアコンサルタント実践の要領 28 |  テクノファ

今回は、活躍しているキャリアコンサルタントからの近況や情報などを発信いたします。 私のもとには、時々2級 キャリアコンサルタント技能士取得に関する問い合わせや相談が寄せられることがあります。私の拠点である地方では、学ぶ場も、自己研鑽の場も限られているため、少しでも機会を求めて探していただいているようです。 私は、そういった方々のご希望に答える形で、少人数の小さなキャリアコンサルタント勉強会を月一回のペースで行っています。勉強会参加者は、技能検定受験者の方が多く、基礎となる知識や技能を確かめるためにも、カウンセリング理論の学習や事例検討を中心に語り合う時間を多くとっています。 前回の勉強会は技能 …

2021年10月
« 9月    
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31