基礎編・理論編

キャリコンサルタント養成講座 112 | テクノファ

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横山哲夫先生の思想の系譜

私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認証を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:キャリコンサルタント養成講座106号からの続きになります>
もしグループのメンバーがそれぞれの分類システムのなかにいるままなら,何をすべきかが決まらないどころか,自分自身の分類にこだわると何が事実か?,本当か嘘か,何が重要か,何に注意すべきか,などなどまでお互いに同意できなくなってくる。人々のなかでコミュニケーションが破綻してしまう場合,その大方の原因は,そもそもメンバーは当初からそれぞれ異なった意味分類の前提認識に従っているのだ,という認識が不足しているからである。

例をあげれば,私がある小さな家族経営の食品会社のコンサルタントをしたとき,マネジャーたちに日常の仕事のなかで,部下,同僚,上司たちと「対立(conflict)」関係を経験したことがあるかを何度か聴いてみたことがあった。この質問には,たまたま不満を募らせている人物に当たった場合を除き,その都度,即座に,真っ向からそれを否定する反応だけが返ってきた。この一律の反応に私は困惑した。というのは,以前から社長に相談されていたことだが,組織のメンバーが「激しい対立」を経験しており,何とかできないかということであったからだ。どうやら理解できたことは,私自身は,「対立(conflict)」という言葉は2,3人の人の間に何か同意されないことがある状態に使われるごく普通の言葉で,どこにでも起きる人間の状態を意味すると想定していたのだが,そこのマネジャーたちの解釈とは全く異なっていたのだ。

私の質問に答えてくれた人たちには,ふたつの異なる前提認識がみられた。(1)対立というのは激しい不同意であって,和解は困難,ほとんど不可能,(2)対立とは「悪い」ことで,対立している人は自己管理ができない人。相異なる意味論的な前提認識がこの組織のコミュニケーションの根源にある,とわかったあとの私の質問は「仕事を進めるうえで,やりやすさとやり難さを感ずるのはどんなときですか」に変わった。人間関係上の「不同意」に関することが明らかになってきたときは,私自身の前提認識として,組織に起こる対立は全く正常な現象であることを明示した。この辺りから激しい「対立」についての生々しい話が聞けるようになり,さらにそれに関連したやりとりを通じて,誤解や防衛なしに,対立という言葉を使い合うことができるようになった。この事例で,相手と私は共通の意味論のシステムを作るプロセスを踏んだことになる。

この同じ組織のグループ・ミーティングで,積極的に発言しないメンバーに対して社長が怒りをあらわにする場面をしばしば観察した。社長はそのメンバーを無能だと結論しはじめていた。つまりあとでわかったことなのだが,社長にとってミーティングでの沈黙は無知,無能あるいはやる気の無さを意味したのだ。しかし,さらにわかってきたことは,沈黙メンバーは自分の考えを述べる準備ができているのに,社長からは全く声がかからないのでいらいらしていたことだ。彼の前提認識は社長から声がかからないのに,自分からしゃべり出すようなことをすべきでない,ということであり,社長から声をかけてもらえないのは自分が評価されていないからだ,となってしまっていたのだ。沈黙の意味についての前提認識がかくも相異なることをお互いに認識せず,両者とも誤った自説を押し進めようとして,典型的な自分本位の解釈に進んでしまっていた。このグループでは合意形成されたコミュニケーション・システムの不在が組織に必要な行動を阻んでしまったのである。組織全体としての文化が形成される前に多様な下位グループが形成されていた。しかも,前提認識「われわれの社長はわれわれの貢献を評価しない」が部下たちに共有されてしまった。

通常,決定的に重要な概念分類はグループの使う基本用語のなかに取り入れられている。英語を話す人は英語を通して,アングロサクソンの伝統文化を学習する。たとえば,マネジメントという言葉は,プロアクティブ(先取り的)で,楽観的で,プラグマティックなアメリカ文化を象徴している。英語しか話さない多くの人にとっては,このマネジメントに当たる言葉がほかの言語,たとえばドイツ語には無いと知ってびっくりする。同様に,そしてさらに重要なことは,言葉が無いとすれば概念も無いことになるかも知れない。ドイツ語では英語に相当するリーダーシップ,リーディング(統率),ディレクティング(方向指示)は存在するが,マネジングに相当する単語も概念も本来的には存在しない。

新しい組織が直面する文化的失敗のひとつは,新しいメンバーは大変に異なったサブカルチャーから参集していること,共通用語はあっても,共通意味システムはこれから創るのだということが認識されていないことだ。新メンバーがほかのマクロ文化から来ているときにはこの問題はすぐに察知され,創業者やリーダーは熱心に共通の言葉と共通の意味の立ち上げのための最善と思われる活動にはいる。言葉と意味中心の「文化の島(cultural island)」づくりである。

要約すれば,共通の言語と共通の概念分類はすべてのコンセンサスの成り立ちと,コミュニケーションのために不可欠なことは明らかである。この共通理解は,グループを集めた人,及びグループのなかの活発なメンバーの動き,しぐさ,話で具体的にはじまる。当初のメンバーは同文化,同言語のことが多いことから共通文化,共通言語の要件は充たされている。しかしグループの成長につれて特別な意味を含ませた共有語が使われはじめ,そのなかのある言葉はその深い意味がグループの文化形成の深層部を形成していく。外部者の意見としては,その新たな共通語は「特殊用語(Jargon)」として固定化する。グローバル化の進展,職業の複雑化とともに多文化グループの増加も加速化し,文化の島創成のためのリーダーシップの格別な努力が必要とされるであろう。この側面については,第20章と第21章でさらに詳しく説明するつもりだ。
(つづく)平林良人

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