基礎編・理論編

グループの境界と独自性の定義

投稿日:2021年10月17日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
グループの境界と独自性の定義
グループが機能し,発展するためにはコンセンサスに関する重要な領域のひとつとして,誰が新グループのメンバーであり,誰がそうでないかの認識と,どういう基準でそのような決定がなされるか,についての認識の問題がある。新メンバーは自分のメンバーシップについて不安があれば自分の主要な課題に安心して集中することができないし,グループとしてもその定義と境界線が不明確であれば,グループ自身の自覚を堅持することができない。

設立当初は,グループ加入の基準はリーダー,創業者,呼びかけ人が決めるのが普通だが,しだいにグループ・メンバーの意見も加わって,当初の決まりごとの見直しが始まる。基準をめぐるグループのコンセンサスが求められるようになる。若い会社ではオーナー,パートナーの指名,株式保有,主要機能・役員への人事をめぐって中身の濃い討論が起こる。討論を通じて,実情に応じた人事決定がなされるとともに,グループ加入基準の叩き台が生まれ,検討され,メリハリがつき,やがて誰の目にも明白な基準となる。このような討論はミッション宣言のテスト ゴールと方法の明確化の機会ともなり,いくつかの文化要素が同時に創成されたり,明確化されたり,強化されたりすることにもなる。

グループの基本的前提認識を決定するひとつのやり方は,現在のメンバーが,新メンバーに期待することは何かを質問し,そしてその質問者自身のキャリアの記録を細かくチェックして,彼ら自身のグループへの加入との関係をさぐってみることだ。デジタル・イクイップメント社(DEC)での採用のプロセスを訊いてみたところ,返事はこうだった。技術系,管理系の有望な志願者の一人ひとり,全員が最低5人以上10人以内の面接を含む,全ての手続で合格した者が最終的にジョブを得ることができた。面接者が新人に求めたものは,知性,自己信頼,明瞭な話し方,曖昧さに対する寛容さ,高い意欲などのようであった。しかし私の質問には大方のメンバーはこう応えた「うまく適応する(fit in)ヤツがほしい」と。

DECでは正規採用と決まったあと,暫定的な配属となる。もし,最初の仕事で失敗した者は,能力はあったがその仕事に合わなかった(前提認識)のだ。一旦,「正規入社」した者はその身分を失うことは滅多に無い。経済危機下では採用は抑制したが,レイオフは極力回避された。人員削減が高まったときは,レイオフに代わる「トランジション」として諸々の許容範囲の選択をあたえられた。

チバ・ガイギ一社(Ciba-Geigy)では,教育レベルがメンバーシップの主要基準となっていた。同社では年少の技術者と管理スタッフのほとんどすべては自然科学系の出身である。これは,同社で成功するためには,創業の精神に沿った科学的基本のうえに立たなくてはならない,とする同社の特徴的な前提認識に沿っている。博士号などの上級学位があれば,たとえマーケティングや管理分野に移っても,顕著に有利な処遇を受ける。
(つづく)平林良人

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