基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 116 | テクノファ

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横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャイン博士が2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が彼と娘さんを招待した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。
横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
会議の大部分は,BP現会長の組織変更への努力に沿って,各国のマネジャーがその新たな役割,つまり「外交官的な」要素が増え,ビジネス・マネジャーとしての要素は減るという新たな役割を受け入れることに向けられていた。しかし各国マネジャーたちの落胆ぶりは歴然としていた。私の観察によれば,このBP現会長は新職務をよく説明し,マネジャーたちの大きな失望とむき出しの憤懣に対しても,一貫して温かく,思いやりのある態度で対応する一方,率直に彼らの立場の現実に目を向けるよう繰り返し発言していた。また将来,彼らの役割が再び検討される可能性についても言及し,助言する場面も見受けられた。私はこのような観察を私の依頼者である次期会長に報告した。ところが彼は突然大声で笑いだして言った。「エドさん,これは最悪の,血まみれの会議だった。組織の現会長である人が,このように社員の気持ちを無視した態度で,自分の新たな権力構造を主張するのは初めて聴いた」と。結局のところ,私のイギリス文化,BP文化に対する「理解」はその程度のものだったのだ!

社会学者のわかりやすい説明のように,マナー,モラル,礼儀,気遣いは,単に社会生活的な「好ましさ」ではなく,人間がお互いを社会的に抹殺し合わないですむためのルールである(Goffrman,1959,1967)。人間としてのわれわれの機能は,われわれのセルフ・イメージを成長させるだけでなく,われわれは人として機能し続ける価値観を持っているのだという自己尊重のセンスを高めることにある。「顔(face)」という言葉はこの価値観を適切にとらえており,社会秩序のルールとはお互いの顔を支持し合うことなのだ。もしわれわれがお互いの要求,要望を支持することなく,攻撃しあったり,侮辱しあったりすれば,それは両者の顔をつぶす結果をもたらす。真剣な問題を嘲笑して,相手を怒らせ,困らせる,など。また,きちんと自分の要求を示さないことも,相手の要求を破壊し,あるは無責任に対応することも顔つぶしにつながる。

どのような社会にも通ずるマクロ文化のもっとも基本的なルールは,まずそれぞれの要求を支え合おうとすることからはじまる。これが自己尊重の基盤だ。誰かが冗談を言えば,それがどれほど面白いかどうかは別として,相手は笑ってくれる。公共の場で誰かが放屁したとしても,その昔がどれほど大きかろうと,周りの人は,われわれは気づかなかった,というふりをする。いかなる人間社会もその社会の文化的同意のうえに成り立っている。その振る舞いが人の独自性に関わるもの(identity)であろうと,あるいは非現実的,空想的なもの(illusion)であろうと,文化的同意の課題であることに変わりはない。たとえそこに嘘が含まれている場合でもだ。具体的な例で説明しよう。われわれは,たとえ自分では信じていないときにも,ほかの人たちの気分を損なわないようにお世辞を言う。逆にそこに太った人が見えていても,幼い子供に「あそこの太った女の人を見てごらん」などと言ってはいけない,と教えたりするのだ。

組織における個人の業績評価が感情的抵抗を受ける一因は,マネジャーが部下をかしこまらせての,いわゆる「フィードバック」と称する攻撃的行為で,これはより大きな文化次元でのルールや基準への違反だと承知しているからだ。無遠慮に言ってみれば,人が誰かについて「思ったことをそのまま」ぶつけてしまったら,それは機能的には社会的な意味での殺人行為に等しい。そんなことを平然とやり,さらにやり続けるような人間は心が病んでいる危険人物だ。閉じ込めておけということになってしまう。ゴフマン(Goffman,1961)は精神病院における分析を基にした「治療(therapy)」によって,患者が節度ある社会のルールを学び,自分の意思で動いても他者をあまり不安にさせないようになった多くの見事な社会事例を紹介している。より保守的な社会では道化役,愚鈍役などを使って出来事の真実を語らせるような方法も見られたが,それらの役割が軽視または無視されときに限り効果が発揮されるのだ。

結論として,グループも,組織も,職業も,マクロ文化も,影響力,権限,権力の配分をめぐって,その基準を成立させていく。それらの基準が外的なタスクを果たし,メンバーに安心感を与えるひとつのシステムとして「働く」ようであれば,成立されていく様式そのものがしだいに共有された暗黙の前提認識となり,文化的DNAの決定的な遺伝因子となっていく。

世界がますます相互扶助的になるにつれて,より多くの組織,プロジェクト,タスクフォース,あらゆる種類のジョイントベンチャーなどで働く人たちは,多種多様な国家,民族,職業から参加するようになっている。これらの多様なグループが働くうえでのコンセンサスを成立させるためのもっとも厄介な問題として,権限に関する深い前提認識の相違がある。リーダーにとっての特別な役割となるのは文化の島の創設であり,これができて初めてお互いの相違についての掘り下げができ,相互理解が進み,新しいルール作りが可能になって,独自の権限関係をいかにマネジするかの同意を追求することができる。
(つづく)平林良人

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