実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 118 | テクノファ

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キャリアコンサルティングの社会的意義
キャリアコンサルティングを学ぶ前提

キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぼうとするとき、日本の産業社会においてはキャリアという言葉も概念も、つい最近まで正しく存在していなかったという点をふまえておかなければならない。キャリアコンサルティングはキャリア開発の支援活動であり、キャリア開発のためのコンサルティングであるが、キャリアコンサルティングを学ぶということは単にキャリアコンサルティングを技法としてとらえるのではなく、キャリアコンサルタントが果たさなければならない役割など、キャリアコンサルティングの前提や背景、あるいは周辺についても正しく理解しておかなければならない。
以上のような点を踏まえながら、キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぶということはどういうことかについて概論的に述べる。

ホーソン実験と人間関係論
作業効率は作業環境によって大きく変化する、と考えたハ-バード大学のメイヨーやレスリスバーガー等は当時のウェスタン・エレクトリック社(後のATT)のホーソン工場において大規模な調査を実施した。有名なホーソン実験である。調査は1924年から8年間という長期間にわたって様々な実験が行なわれた。
そもそもこの実験は、勤務条件や福利厚生制度などは充実しているにもかかわらず生産性が上がらないというので、その原因を究明するのが目的であった。しかし、この実験は生産性向上に関する様々な新しい事実を発見することになる。特に、ワーク・モチベーションなどの重大な発見につながったのが照明実験である。

この実験は最も作業効率が高まる照度を調べるためのものであった。実験はある特定の被験者グループを対象に、照明の明るさを変えながら被験者グループの作業効率の変化を調べた。しかしながら、この実験は失敗に終わる。照明の照度を真昼のような明るさや月明かり程度の明るさなどにしてみたが、どのように変えても被験者たちの作業効率は落ちることなく向上し続けたのである。当初の仮説と実験結果に乖離が生れたことから、その原因を調査した結果、意外なことを発見した。

実験を行ないながら、被験者たちのデータを収集するために定期的な面談を行ない、被験者達の気持ちや悩みを聴いたり、意見を聴取したり、あるいはアドバイスを行なった。その結果、被験者たちは「自分たちは、ハーバード大学の偉い教授たちが行なう実験の対象者として多くの工員の中から特に選ばれた者である。したがって、自分たちはプライドを持って真面目に、がんばって作業をしなければならない」と自分たちで規範を作り出していたことが判明したのである。しかも、定期的に行なった面談がコンサルティング効果となり、被験者たちを勇気づけ、モティベーションを高める結果となっていたことがわかった。

この結果、人間は経済条件や作業環境さえ整えれば働く気になるというものではなく、自らその気になること、すなわち内発的動機づけの重要性を発見することとなった。この発見は労働の機械化に対する批判としての人間関係論を導き出すことになる。

人間関係論の主な主張
・生産性に影響を与えるのは、作業条件や賃金などの物理的要因ではなく、労働者の感情や態度などの人間的要因である。
・労働者は組織の中で自分の存在意義や誇りを感じようとしており、会社や管理者が社員の仕事に関する裁量感や有能感を高め、社員の欲求を満足させることによりモラールを高めることができる。
・組織では自然発生的に非公式組織(インフォーマル・グループ)が生まれ、労働者の行動に影響を与えるのは公式の規則やルールよりもそのような非公式組織の中で生まれる規範である。したがって、公式組織と非公式組織が一体化するような管理が必要である。

人間関係論の貢献
単に能率を重視するのではなく、人間の感情を重視すべきだとする人間関係論の主張は、組織で働く人間を経済的動機によって動く存在もしくは単なる労働力として扱うのではなく、社会的な存在もしくは社会的な欲求を持つ全人格的な存在としてとらえる必要性を訴えるものであった。これは新しい人間観の提示であったといえる。マネジメント理論に人間そのもの、あるいは人間性というテーマを持ち込んだのである。
また、人間関係論はモラール・サーベイ、提案制度、社内報、経営参加、コンサルティング、管理者訓練など後の人事管理における具体的手法の制度化につながった。

人間関係論の問題
人間関係論は前述のようにマネジメント理論の発展に多大な貢献をした。しかし、単なる人間関係さえ良好に保てばよいなどと曲解された一面もあり、人間関係に配慮するだけでは企業の存続は困難である、労働者の満足度やモラールが高いからといって生産性が上がるとは限らない、人間関係だけをモティベーション要因とするのは単純過ぎる、などというような批判を受けることになる。
(つづく)A.K

 

-実践編・応用編

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