実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 122 | テクノファ

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キャリアコンサルティングの社会的意義
キャリアコンサルティングを学ぶ前提

キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぼうとするとき、日本の産業社会においてはキャリアという言葉も概念も、つい最近まで正しく存在していなかったという点をふまえておかなければならない。キャリアコンサルティングはキャリア開発の支援活動であり、キャリア開発のためのコンサルティングであるが、キャリアコンサルティングを学ぶということは単にキャリアコンサルティングを技法としてとらえるのではなく、キャリアコンサルタントが果たさなければならない役割など、キャリアコンサルティングの前提や背景、あるいは周辺についても正しく理解しておかなければならない。
以上のような点を踏まえながら、キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぶということはどういうことかについて概論的に述べる。

P.F.ドラッカーとMBO
前述のような行動科学における研究成果を背景にして、ドラッカーは仕事と個人を統合した目標による管理(MBO: Management by Objectives and Self-control)というコンセプトをまとめ上げた。同じようなコンセプトはオディオーンやシューレイなども発表しており、MBOは決してドラッカーの専売特許ではない。しかし、日本ではドラッカーの“The Practice of Management”「現代の経営」が日本におけるMBO導入のきっかけとなり、非常に大きな影響を与えているので、ここでは代表としてドラッカーを取り上げたい。
仕事と個人の統合とは、仕事と人間を別々にとらえるのではなく、仕事がその人にとって意味のあるものにすることによって仕事を通して各個人が成長を実現できるようにする、という意味である。ここでいう個人の成長とは、いうまでもなくキャリア開発であり、MBOとキャリア開発は密接にリンクするものである。

ドラッカーは企業のマネジメントがもとめられることとして以下の六つを上げている。1)組織の共通目標を明確にすること、2)組織内の共通の価値観を醸成すること、3)適切な組織構造を構築すること、4)生産性を高め、変化に対応するための訓練、啓発を行なうこと、5)成果の評価基準を設定すること、6)以上を通じて、組織の構成員が共同して目標達成に邁進できるようにすること。

また、ドラッカーは、企業の目標は利潤の追求ではないと言っている。企業は何かをやろうとして設立されたものであり、それがその企業の存在理由であり、企業のアイデンティティということもできる。利潤は企業がその目標を達成し、さらにゴーイング・コンサーンをはかる上で必要なものであり、利潤を得ることは手段なのである。バブル期に、日本企業の多くが企業の目的を利潤の追求として掲げ、儲かることなら何でもするのが企業であるかのようになってしまった。まさに自らのアイデンティティを失ってしまったのである。これは日本の企業がバブル期で犯した大きな誤りであろう。

さらに、ドラッカーは管理者の良し悪しが企業業績を左右するとして、管理者の重要性を訴えている。ドラッカーによれば、管理者とは「自分が率いる部門の一つ上の組織に対する責任と、企業全体に対する貢献についての責任を負うもの」と定義している。つまり、管理者は自分の部門の目標を上位組織に対する貢献として自己設定すべきであるとしている。目標の自己設定と自己統制がマネジメントの基本となるべきであるということである。

自由と責任を基にする人間観に基づき、上位の目標と自部門の役割を理解することにより、自分で目標を設定し、自分で遂行し、自分でその成果を評価することができるとした。これがself-controlの意味である。つまり、MBOとは、目標による(management by objectives) であり自己統制による管理(management by self-control)なのである。

しかしながら、自己統制といっても自分の仕事が自分にとって意味・意義が感じられなかったり、価値を見出せなかったりすると意欲が湧いてこないはずである。自分にとっての意味・意義・価値とは自分の将来にとっての意味であり、意義であり、価値である。ここでいう自分の将来とはすなわち自分のキャリアに他ならない。この点でMBOはキャリア開発とリンクしてくるのである。

その他の諸理論
以上、これまでに取り上げた理論以外にも行動科学の発展に影響を与えたものに、C.ロジャースのクライエント中心療法における人間観(マズローやマグレガーの人間観に影響を与えた)、組織と人間の統合の必要性を説いたC.アージリスの統合理論、自ら高い達成欲求を持つ人間を取り上げたD.マクレランドの達成動機説、マズローの欲求5段階説を3つの欲求に集約したC.アルダーファーのERG理論、モティベーションを個人の認知的要因や環境的要因の相互作用としてとらえたV.ヴルームやE.ローラーの期待理論、ハックマンとオールダムの職務設計理論、E.ロックとG.ラザムによる目標設定理論などがある。

まとめ
キャリア開発とは組織との関係でのみ考えられることではない。自営業を営んでいる人あるいは農業や漁業などに従事している人の場合にもキャリア開発は重要な課題であることは言うまでもない。しかし、就業人口でみると組織に所属して働いている人が圧倒的に多い。そのために、キャリアコンサルティングも組織で働く人を対象とする場面が多い。
したがって、キャリアコンサルタントは組織に関する知識も当然のこととして要求されてくる。企業内のキャリアコンサルタントは企業の側なのか個人の側なのか、などというとんでもない疑問が出てくるのはひとえに無知が原因している。
本講座においては、このような無知からくる社会的弊害が起きないよう、キャリア・コンサルティングの本質を学んでいただきたい。
(つづく)A.K

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