実践編・応用編

孤立の深刻化への対応について

投稿日:2021年11月24日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。

■ 孤立の深刻化への対応
□ 感染防止のために「集う」場が休止となったことへの対応
(子ども食堂の実施状況)
子ども食堂や高齢者等の通いの場が、相次いで休止になりました。新型コロナ感染拡大の防止のため、地域の子どもや高齢者等が「集う」場が相次いで休止となり、従来その場で行われていた交流の機会が失われることとなりました。例えば、子ども食堂の現状についてのアンケート調査*11によると、2020(令和2)年4月では「通常どおり開催」または「通常より回数を増やして開催」と回答した子ども食堂は約6%となっており、約4割が「休止・延期」となっていました。2020年9月時点においても、一堂に会しての子ども食堂の開催は24.0%にとどまっており、再開の予定が立っていないところも約半数に上りました。 高齢者については、2020年7月に通所介護事業所に対して行われた調査*12によると、休業を行った事業所は7.3%、サービス提供時間の短縮を行った事業所は7.4%にとどまったが、自主的に通所介護の利用を控えた利用者がいた事業所は81.7%に上りました。さらに、他者との交流機会(同居人以外との会話)も、新型コロナ感 染拡大時に大きく減少し、2020年12月時点においても感染拡大前の水準には戻っていません。

*11 NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ、こども食堂ネットワーク「こども食堂の現状&困りごとアンケート結果」
*12 令和2年度老人保健健康増進等事業「通所介護における人材活用等の実態把握に関する調査研究事業」(三菱UFJリサーチ&コンサ ルティング株式会社)による速報値

(子ども食堂の開催状況)
「集う」に代えて、フードパントリー、宅食や戸別訪問(アウトリーチ)、オンラインの活用など新たな手法でつながりをつくろうとする動きが広がっています。「集う」ことが困難になった中で、新たな形態でのつながりが模索されています。子ども食堂の現状についてのアンケート調査によると、2020年6月には、全体の約5割の子ども食堂が、集って会食する通常のスタイルではなく、「食材等の配布(取りに来てもらう=パントリー)」や「お弁当の配布(取りに来てもらう)」という形態で実施していました。 また、子育てサロン、高齢者の通いの場などを運営していた団体の中には、これまで築かれてきたつながりを切らないとの思いから、オンラインを活用した子育てサロンの開催、SNSなどを活用した高齢者同士の交流、窓越訪問、手紙による交流など、様々な工夫をしながら、新しいつながりをつくろうとする動きが広がりつつあります。

(外出困難となった要介護高齢者や障害者に対する支援の強化)
新型コロナウイルス感染症の感染により重症化が懸念される要介護高齢者などは、通所介護などの利用を自粛するケースが多数見られたことから、家族介護者の介護負担の軽減を兼ねて、通所介護事業所の職員が利用者の居宅を訪問し、必要なサービスを提供する等の特例措置が設けられました。

障害者についても同様に、通所サービス事業所が利用者の居宅を訪問しサービスを提供することなどが特例的に認められたほか、障害者が日中活動することができる地域活動支援センター*13や、介護家族の一時的な休息を確保するための日中一時支援*14に対する ニーズが生じたことから、支援員の増員などの体制強化や消毒などの衛生環境整備の支援が行われました。また、在宅の一人暮らしの障害者等に対して、継続的な状況把握を行い適切な支援につなげるため、障害福祉サービス事業所、市町村及び相談支援事業所が協力して、利用者の居宅での生活支援が行われています。

□ 心の悩み・不安への対応
(新型コロナウイルス感染症の感染拡大に際して不安に思ったこと)
感染拡大後、半数程度の人が何らかの不安を感じ続けています。新型コロナウイルス感染症は、感染に対する不安は無論のこと、これに伴う行動制約等によるストレスを含め、国民の心理面にも多大な影響を及ぼしています。 2020(令和2)年9月に厚生労働省が実施した調査によると、感染拡大後、何らかの不安等を感じた(「神経過敏に感じた」「そわそわ、落ち着かなく感じた」「気分が落ち込んで、何が起こっても気が晴れないように感じた」)人は、同年4~5月に6割を超えたほか (63.9%)、6~7月は55.9%、8~9月(調査時点)は45.0%と高い水準となっています。 不安の内容は、いずれの時期も「自分や家族の感染への不安」が6割以上と最も多く、2 月から調査時点の9月にかけて、「生活用品などの不足」は大きく減少したが、「差別や偏見」は微増しています。

(新型コロナウイルス感染症にかかる心の健康相談に関する精神保健福祉センターの対応件数)
新型コロナウイルス感染症に関する心の健康相談として、都道府県や指定都市に設置された精神保健福祉センターで電話相談を受けた件数を見ると、緊急事態宣言下の2020年4~5月にかけて月約5,000件と突出し、いずれの月も相談件数全体の6割以上が女性となっています。また、その相談内容は、心の不調、家族など生活に関するストレス、外出や通院、通勤等に関する不安やストレスなど多岐にわたっています。

*13 障害者等を通わせ、創作的活動又は生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を供与する障害者総合支援法上の施設。
*14 障害者等の日中における活動の場を確保し、障害者等の家族の就労支援及び障害者等を日常的に介護している家族の一時的な休息を目的とした事業。

(自殺者数と完全失業率の推移)
2020年7月以降、自殺者数が増加傾向にあり、特に女性と若者の増加に著しいものがあります。

(月別自殺者数の推移、2020年の自殺者数の動向)
これまでも、アジア通貨危機やリーマンショック、東日本大震災など、雇用情勢が急激に悪化した際に自殺者が急増する傾向が見られたが、今般の新型コロナウイルス感染症の影響下においても、2020年7月以降、前年同月と比較して自殺者数が増加傾向にあり、特に女性が増加しています。

(2020年の自殺者数の動向)
また、2019(令和元)年と2020年の自殺者数を年齢階級別に比較すると、男性は20歳代の増加が大きく、女性は全年代で増加しています。

(SNSの活用等により自殺防止に向けた取組みを強化)
独立行政法人経済産業研究所が行った分析によれば、相談相手のいる人、過去1ヶ月間に仕事以外で知り合いと直接会った人、過去1ヶ月間にLINEなどの音声を伴わないリアルタイムでの連絡を頻繁に行った人等は、うつ病や自殺念慮を有する割合が低いと指摘されています*15。

(自殺防止に関する相談体制の強化)
自殺防止の観点からは、何より相談体制の強化が重要です。その際、年齢、性別など属性によって相談しやすいツールなどが異なることから、多様な相談手段が整備されることが望まれます。今般の新型コロナウイルス感染症の影響下においては、女性や若者の自殺が増えていることも踏まえ、民間団体が行うSNSを活用した相談等の強化を図りつつ、都道府県などによる電話相談などの拡充、相談者が在宅で相談できるリモートワークの環境整備などへの財政的支援が行われています。

*15 独立行政法人経済産業研究所「第3波直前の我が国における、コロナ禍でのうつ状態と自殺念慮に関するリスクの検討:「新型コロナウイルス流行下における心身の健康状態に関する継続調査」第一回調査結果より」参照。

■ 女性
□ 雇用への影響
(感染拡大の影響を大きく受けた業種で、女性の非正規雇用労働者の雇用が失われた)
1で見たとおり、新型コロナウイルス感染症の影響は、非正規雇用労働者数の減少という形で現れたが、その傾向は、男性に比べ、女性により顕著に現れました。

(産業別女性雇用者の割合)
その要因の一つとして、今般の新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている業種では女性雇用者割合が高いことが挙げられます。

(非正規雇用労働者に占める雇用形態の構成比)
また、非正規雇用であっても、女性の場合には特に、営業時間の短縮等によって雇用が失われやすいパート・アルバイトといった働き方をしている割合が高いことも要因となっています。実際、産業別・男女別に非正規雇用 労働者の雇用形態に関する特徴を見ると、「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」、「生活関連サービス業、娯楽業」では、パート・アルバイトの割合が顕著に高く、特に女性でその傾向が認められます。

(就業者・休業者いずれも落ち込みが深く、回復の度合いも低い。特に子育て女性の影響が大きい)
休業者数は 2020(令和2)年 4月に男女ともに大幅に増加しているが、女性の方が顕著であり、同月の女性の休業者数は男性の約1.5倍となっている。独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した2020年5月末時点のパネル調査によれば、男性 の休業者比率が 1.6%であるのに対し、女性では5.3%、特に未成年の子がいる子育て女性では 7.1%に達しています。

(失業者・休業者になった民間雇用者の割合)
また、2020年 5月以降、休業者数は男女ともに 減少傾向にあるが、7月末時点、11月末時点においても、女性の休業者比率は男性を上回っています。

(週当たり労働時間と税込み月収の推移)
さらに、新型コロナ感染拡大前の月と比較した労働時間と 月収の水準の推移を見ると、特に子育て女性について、2020年 4~5月の落ち込みが深 く、かつ、6~7月の回復の度合いも低い。8月以降は男性が頭打ちとなっている一方、 女性は改善も見られるが、子育て女性については改善の度合いがやや低くなっています。

□ 家事・育児時間への影響
(男女ともに家事・育児時間が増加。男性はテレワークにより軽減された時間を充て、女性は余暇を削って対応)
内閣府の調査によると、2019(令和元)年12月(新型コロナ感染拡大前)と比較した家事・育児時間の変化について、2019年12月時点を100とした場合の平均値を見ると、 2020年 5~6月の調査時点において、男性は 103.6であるのに対し、女性は 111.7となっており、テレワークの普及や学校の臨時休業などにより、男女ともに家事・育児時間の増加が見られたが、その度合いは女性の方が大きいものがあります。

(増えた家事・育児時間の捻出方法)
また、民間シンクタンクの調査では、新型コロナ感染拡大前と比較した家事・育児に費やす1日当たりの時間の変化は、2020年 4月の調査時点において、「増えた」(「大幅に増えた(2時間以上)」と「増えた」)と回答した割合は、子育て男性・女性*16の約7割となっているが、その捻出方法は、「パートナーが時間を増やした」と答える男性は約3割であるのに対し、女性は約1割となっています。女性の時間の捻出方法は、「自分の余暇の時間を削った」が 78%(男性 47%)で最も多く、次いで「自分自身の生活に必要な時間を削った(入浴・睡眠等)」が 31%(男性 25%)となっています。男性では、「テレワークなどの業務環境の変化により、仕事の負荷が軽減された」(44%)という面があったのに対し、女性は主に余暇や生活時間を削ることで増加した家事・育児時間を捻出しており、時間的な拘束のみならず、身体的・精神的な面でも、家事・育児の負担は女性により大きくかかっていたことがうかがわれます。

(夫婦の家事・育児の役割分担と満足度)
このように、家事・育児の負荷がより女性にかかっていた中で、内閣府の調査による と、夫婦の家事・育児の役割分担において、夫の役割が増加した家庭では、女性(妻)の生活満足度の低下幅が小さい傾向にあり、加えて、男性(夫)自身の低下幅も小さくなっていることがわかります。

(第一回緊急事態宣言を経て、今後、家事・育児に望むこと)
また、内閣府の別の調査において、小学校3年生 以下の子どもがいる男女に対し、「第一回緊急事態宣言を経て、今後、家事・育児に望むこと」を尋ねたところ、「配偶者にもっと家事をしてほしい」は男性 15.9%に対し、女性 32.1%、「配偶者にもっと子どもの世話をしてほしい」は男性 14.6%に対し、女性 35.5%となっている一方で、「自分の子どもの世話の時間を増やしたい」は男性 27.4%に対し、女性 16.5%と男性の方が高くなっています。
こうした結果を見ると、新型コロナ感染拡大の影響により家事・育児負担が増えた中 で、家庭内の役割分担をさらに見直していこうとする意識もうかがわれます。
*16 ここでは「小学生以下の子どもが同居する家庭に属する男性・女性」と定義している。
(つづく)平林良人

-実践編・応用編

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