実践編・応用編

自分と向き合うための時間 | テクノファ

投稿日:2021年11月29日 更新日:

このコーナーは、テクノファの卒業生で活躍しているキャリアコンサルタントからの近況や情報などを発信しています。今回は2人のキャリアコンサルタントの便りをお送りします。最初はS.Sさんからの便りです。

僕は電車を利用する機会が多いのだが、よく通勤帰りの男性が座自分と向き合うための時間席で寝ている光景を目にする。まだ19時を過ぎたばかりである。眉間に皺を寄せて目をつむっているのだが、本当に眠っているのか、または何もすることがないからそうしているだけなのかは判らない。激務に追われて疲れが溜まっているのかもしれないし、どこか具合が悪いのかもしれないので一概に決めつけることはできないが、同じように瞼を閉じている人があまりに多いのに驚いてしまう。

一方、若い男性といえば、ほとんどがスマホをいじること(きっとゲームだと思う)に熱中し、目は画面に釘づけ、耳はイヤホンから流れる音楽といった有り様だ。対する女性群は、年齢に関係なく会話が弾み、豊かな表情や身振り手振りを使って話し合う様子を観るかぎり、とても楽しそうである。(本当に楽しいか否かは別として・・)連れのいない女性も、きっとLINEでもやっているのだろう・・着信の度に様々な表情を見せ、何かを思いついたようにレスポンスしている。何もしていないかに見える女性ですら、真っ暗な外をガラス越しに見ながら、想いにふけっている様子が窺える。

この対照的な光景を観て、僕はつくづく男性は時間の使い方が上手ではないのだな・・と思ってしまった。特に中高年の方々が・・かといって、電車の中でも仕事の続きをしたり、勉学に励むことが時間の有効利用などと言うつもりはない。何らかの方法で空いた時間を埋めること以外に術を知らないというか、手持ちぶさたというか、とにかくボーッとすることさえ苦手なのではないかと思えてしまうのだ。かく言う僕も男性なわけだが、今はこうやって人間ウォッチングをやっているし、または今日一日の出来事や自分の言動について、客観的に振り返ることを日課として欠かさずやってきた。この空いた時間こそが、自らを見つめて自己理解を深めるための有意義な時間だとさえ思っている。

それは、カウンセラーを生業にしようと決心し、養成講座に通うようになった日を境に欠かしたことがなく、かれこれ15年は続けている。人が、自分以外の人間のことを理解するというのは途方もなく難しいことであり、まるで雲を掴むかの如く曖昧かつ不明瞭なものである。それでも相手を理解しようとするならば、最低でも以下の2項目は必須であろう。ひとつは、相手の心情を知ろうという姿勢で意志的に関心を持つこと。ちなみに相手が話す事柄が本意とは限らないし、いまなぜ、それを言いたくなったか・・といった情動にこそ相手の心が在るのだ。たとえ内容が昔のことであっても、「それを思い出した今」が私なのである。

もうひとつは、自分の気質や傾向を知った上で、常に今の自分の心の動きを見つめる目を持つことである。もちろん自己観察のトレーニングが必要であり簡単にできるわけではないが、要するに自分について理解している深さまでしか相手の姿も見えないという法則があるからである。自己理解抜きで相手を知ることは叶わない。いかに多くの経験を持っていようが、知識を得ていようが、他者のことも個々の集団で構成される社会のことも、自分が持っている思考特性を知らずに理解できるはずはないのだ。

自己観察の方法は、過去の自分の振り返りを行なうことで、少し前の私を他人の如く対象化し、俯瞰することが第一歩である。そこには善し悪しの評価を持ち込まず、なぜあそこであのような言葉を発したのか・・とか、相手の言葉に反応し動揺した自分の心の中で、いったい何を連想したのか・・などを自覚することが肝要である。それによって初めて、自分が持っている思考の癖や反応の傾向を知ることができるのである。もし、自分の言動について感じたままを言ってくれる他者の存在がある場合、それはとても有り難いことだと言えよう。むろん、これは独りの時間枠の中でしかやれないことだが、

せっかくの空いた時間を「潰すこと」や「埋めること」をやっているかぎり、昨日までの習慣的な自分から脱することはできないし成長もない。何のためにそれを行うのか?と問われれば、さらなる自己発見のためであり、その探求と共に深化する開発(発達)が目的であると言うことができる。なぜなら、身体だけに留まらない精神的な成長は、人間だけが持っている実現傾向であり、人間の定義そのものだからである。西洋の禅と呼ばれたグルジェフは、「人間とは何かを為す存在である」と定義づけているが、自らの行動に選択的な意志や意図が在るか、それとも他の動物と同じように単なる反応に過ぎないかの違いは大きい。

我々は、どこから来たのか?我々は、何者か?我々は、どこへ行くのか?
上の言葉は、画家ゴーギャンが残した絵画のタイトルである。彼は、人生の後半に差し掛かった時期に、家族を置いたまま南の島タヒチに移り住んでしまう。どのような想いに駆られての行動だったのかは、彼の内面的世界に秘められた世界のことなので誰にも解らないが、たとえば還暦を過ぎて定年を迎えた者たちに向かって「あなたの将来の夢はなんですか?」と問いかけたとき、即答でくる者はどれだけいるだろう。

聞かせてほしいのは、次の仕事は・・とか、親として・・といった「役割」の事ではなく、自己実現的な意味での「夢」についてである。夢というからには、できれば「誰かの役に立つために」、または「欲求不満の充足」などではなく、自分自身が納得した人生を送るために「何かを為す」という意味においてである。為すと言っても、もちろん成果や結果について語るのではなく、それに向かう進行形としてのプロセスこそが重要であることは言うまでもない。幕末のきっかけを作ったとされる吉田松陰は、塾生たちに向かって個々に「あなたの志しは何ですか?」と問いかけたという。

志し・・それを語るには、ただ流れに乗るだけの生き方とは違った明確なる自覚と意志があるはずである。ということで、自分の存在意義、または存在価値について、いま改めて見つめなおしてみませんか?というのが今回の提案である。繰り返される毎日。時間だけが虚しく過ぎ去っていく。目をつぶっている男性たちは、いったい何を想うのだろうか?

二人目のキャリアコンサルタントはやはりテクノファ卒業生のキャリアコンサルタントのFさんです。

私のカウンセリングの領域は生活保護受給者と生活困窮者の就労支援ですが、今回は生活保護に関係する背景等について触れてみたいと思います。企業にお勤めの方は縁遠いお話しに思われるかもしれませんが、私の接する人達の中には過去は皆さんのようなビジネスマンだった方が少なからずいます。ある時、何かのきっかけで日常の歯車が回らなくなってしまい、不幸にもそこから脱することができず、やがて全てを失ってしまう。

皆さんは、もし失業したら何年間今の生活を維持できますか?社会問題になっている生活保護受給者の急増は人ごとではないのです。今回は生活保護について背景を含め少し紹介させて頂きます。生活保護は生活保護法に基づき運用されていますが、この法律は戦後間もない昭和21年に制度化され、昭和25年に大幅改定されています。戦後の国全体が貧しい状況下では何にも優先して対策しなければならない課題だったことが伺われます。

この法律の根拠は憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権に基づいています。ちょっと固い話になりましたが、日本では最低限カツカツの生活は保障されるということなんです。しかし、生活保護を受けるためには幾つかの条件があります。簡単に書くと、使えるものはすべて手を尽くすことが優先されるということで、親類縁者の援助は受けられないか?他の制度、資産を使い尽くしているか?ということで、もう使えるものは何も無い段階で初めて認められます。以前、TVでよく見る漫才の社長?部長?のお一人のお母さんが生活保護を受けていることを国会議員が公表して問題になったことがありました。この問題は子が扶養できる能力がありながら生活保護の制度を使っていることで、虚偽の申請がなされているのでは?ということでした。

話は変わりますが、今、生活保護を受けている人は何人いるかご存知ですか。平成25年4月時点、215万人で過去最高を記録しています。それでは、以前の最高はいつだったかと見てみますと、昭和26年の204万で、現保護法が施行した直後でした。それ以降は下降曲線を描きながら平成7年の88万人をボトムに、一転急増し、平成20年更に上昇カーブ描いて今日に至っています。急増には二段階あり、一つはバブル崩壊後の経済不況と、もう一つがリーマンショックを発端とした金融危機でした。

皆さんは失業して資産とお金が無くなれば生活保護を申請できると思われるかもしれませんが、つい最近までは認められませんでした。失業で生活困難となった方は「ハローワークで職を見つけなさい」と言われ、働く能力がある人は働くことを優先され容易には認められませんでした。いつから失業者も生活保護を受けられるようになったのか?それは平成20年のリーマンショックの影響で、一転、日本全体が不況に陥ったときでした。皆さんも記憶にあると思いますが、失業者の映像がニュース報道され、「派遣切り」「年越し派遣村」などという言葉が飛び交い、あたかも町中に失業者が溢れかえっているかの印象を私達に植え付けました。

私は当時、企業で人事の仕事をしていましたので、日を追うごとに悪化する業績から数十名の派遣社員を解約する旗振りと実際に派遣社員の方達に事情をお話し解約を通知したことを思い出します。ある派遣社員の方にお話した際、文句の一つや二つ言われることを覚悟して面談しましたが、最後に「藤田さんも大変ですね」と言われたときは、この人達を雇用できない情けなさや何もしてやれない無力感を味わったのを鮮明に覚えています。この状況がこれまでの運用を一変し制度緩和され、超高齢化と相まって”うなぎのぼり現象”となってしまったというのが背景です。そういうことで生活保護を受けている方の現状は、企業が一役買ってしまった結果であるともいえるのです。いま、これらの問題の対策は次の段階にきているようです。

年収200万円以下の所得者は1000万人を越えているとのことですが、今年4月に施行された生活困窮者自立支援法は生活保護に陥る前に何とか生活を立て直して社会生活を送れるよう援助するものです。制度の詳細は省略しますが、これらの制度を使いながら、何とか働くということを通して、もう一度、社会で活躍してもらうことを目的としながら、保護費、医療費の上昇も抑えることも狙いとしているようです。

キャリアカウンセリングと言いますと企業内で働く人達の”組織と個人”にスポットが当てられがちですが、私達の活動する領域は、社会福祉における対人援助職として個人と社会・生活といった生きるためのベーシックな問題に関わる領域であり、大げさに言えば、社会の問題に対峙している領域と思っています。こんな領域があることを知って頂けると幸です。

次回は私の前に現れる人達について、企業でのカウンセリングと比較しながらお伝えしたいと思います。
(つづく)K.I

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