実践編・応用編

うつ病を自覚しないクライエント2 I テクノファ

投稿日:2020年7月10日 更新日:

前回に続きAさんがクライアントとして来た時の話です。

Aさんの仕事は周囲から見るとかなり多忙で激務ともいえるものでしたが、Aさん本人はこの仕事を特に苦痛と感じることはなく、むしろ前回にも述べたように、やりがいを求めて転職して良い結果を得られたと感じていたようです。

しばらくしてAさんはこの職場でキャリアを積み管理職(課長)に昇格しました。昇格したとはいっても中堅企業ゆえ、いままで担当していた仕事はそのまま自分の仕事として継続して担当し、新たに部門のマネジメント業務が増えることになりました。さらに一つ重要な仕事が増えました。この会社の営業の仕事として製品や部品の原価の確認と決定業務にかかわっていることは先に書きましたが、課長職についたことにより原価決定からさらに進んで顧客への売渡価格の決定にもかかわりを持つことになりました。Aさんはこの売渡価格の決定業務について大変な重責を負うことになったと感じていたようです。

Aさんが足に痛みを感じて通院し始めたのはこの時期でした。Aさんはこのころから片足の靴を履く部分に痛みを感じるようになり、歩行にも影響が出始めたため整形外科を受診しました。その結果、処方された痛み止めの薬を服用しましたが、本人の考えで松葉杖を突いて会社に通うことになりました。Aさんの足の痛みが実はメンタル面に起因するものであるとは、周囲の誰も思いませんでしたし本人も思ってもみなかったようです。

Aさんの普段の行動を周りから見ているかぎりでは明るく外交的といった印象が強く、一般的に思われている営業向きという感じの人で、足に痛みを覚えるようになってからも、松葉づえをついて歩きながら知り合いに会うと、美食のせいで痛風になったなどと明るく冗談を飛ばしているほどで、メンタル面に問題があるようにはとても見えませんでした。

 

Aさんから相談があったのはそのような状態の時でした。会社へ行ってもやる気が起こらない、物事に集中できない、半日で疲れてしまうというような悩みを打ち明けてきました。クライアントの話を聞きながら松葉杖を突いて会社に来ることがそのようなやる気の無さにつながっているのかと思いました。キャリアコンサルタントとしては、まず足を早く治すことが必要だと考え、なかなか治らない今の病院から他の病院のセカンドオピニオンをもらうことを勧めました。

 

Aさんの足の痛みはよくなったり悪くなったりのくり返しで完治しなかったため、Aさんは勧められた通り別の整形外科を受診しました。ところが、その病院の医師は、Aさんに地域の大学病院を受診するようすすめて紹介状を書きました。そして、紹介された大学病院では、Aさんはうつ病と診断されました。キャリアコンサルタントには、その間のいきさつはよく分かりませんが、Aさんは、うつ病の治療、投薬を受けることになり、しばらくすると足の痛みがなくなりました。

 

キャリアコンサルタントは、このような経過は後から知ることになるのですが、キャリアコンサルタントがAさんに足の治療についてセカンドオピニオンを貰うようにアドバイスしたことは正解でした。Aさんの場合、うつ病の時に現れる症状とされる精神症状及び身体化症状の両方に最初の医師が注意を払えばもっと早く解決の方向が見えたと思います。しかし、精神症状については周りの人も医師もそれと気づくような症状のレベルではありませんでしたし、本人もうつ病を意識することはありませんでした。うつ病の発症原因は特定できないといいます。Aさんの場合は、前回書いたように自分が好きで選んだやりがいがある仕事を積極的にこなしていた中で、課長昇格後に加わった自部門のマネジメント業務や売渡価格決定の業務が重圧かつストレスとなり、Aさん本人はそのことを意識しないまま心が悲鳴を上げていたのです。その悲鳴は脳からの指令で足に痛みが出る身体化症状を発症させることでAさんの周りに助けを求めたのです。地域の大学病院の医師はそのようなうつ病のメカニズムを知っており、Aさんに正しい診断をしてくれたのです。

(続く) A.K

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