新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。
□ 住居確保給付金
新ウイルス感染症の蔓延によりこの1年間はすっかり世界が変わりました。コビック19はいろいろ社会制度の変革を推進して対応することを世界、日本社会に要求しました。
(生活困窮者自立支援制度)
新型コロナ感染症の蔓延によって国民の生活には大きな影響が出ました。職を失い毎日の生活にも困窮する人たちが多く出ました。
(生活困窮者自立支援制度及び住居確保給付金の概要)
リーマンショック時に実施された事業が、その後制度化され、今回、大きな役割を発揮しました。職と住居を失った者のうち就労能力及び就労意欲のある者に対しては、リーマンショック時に、緊急の時限措置として、住宅手当の支給により住居を確保するとともに就職活動の支援を行う事業(住宅手当緊急特別措置事業)が実施されました。その後、2013(平成 25)年度に名称が住宅支援給付事業に変更され、支給要件や受給中の就職活動要件の強化等の見直しが行われ、実施期限を延長しながら事業が継続されてきました。
こうした中で、2012(平成24)年2月に閣議決定された社会保障・税一体改革大綱に おいて生活困窮者対策に取り組む方針が示されたことを踏まえ、本事業の実施と同時並行で、生活困窮者対策について必要な法整備も含めた検討が進められました。この検討過程において、住宅手当緊急特別措置事業については、生活保護に頼る必要がないようにするという観点から一定の効果を上げていると評価され、居住の確保を支援する給付金を制度化する必要性が指摘されました*5。
こうした経緯を踏まえ、2013年12月に生活困窮者自立支援法が成立し、2015(平成 27)年4月から同法に基づく生活困窮者自立支援制度が施行されたが、その一部として、 住居確保給付金が制度化されています。
*5 社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書(平成25年1月25日)
この住居確保給付金については、第1章第2節でも述べたとおり、今回の新型コロナ感染拡大時に、離職や廃業をしていなくても、休業等により収入が減少し、離職や廃業と同程度の状況にある者に支給対象者を拡大するとともに、感染拡大の影響が長期化する中での特例措置として、2020(令和2)年度の新規申請者については、最長9か月の支給期間を12か月まで延長可能とし、受給期間を終了した後に2021(令和3)年2月から同年6月末までの間に申請した者については、3か月間の再支給を可能にしました。この効果もあって、給付金の支給件数は、2020年4月以降急増し、2020年4月から 2021年3月までの累計で約14.0万件となっており、その前年度(2019 (令和元)年度)の1年間の支給件数の約4千件と比較して急増しています。
(一時生活支援事業の拡充)
加えて、生活困窮者自立支援制度に関しては、2019(平成31)年4月から、一時生活 支援事業(シェルター等における一定期間の衣食住の提供)を拡充し、シェルター等を退所した者等に対して入居支援から入居後の見守り支援まで一貫した居住支援を行う仕組みが制度化されています。また、今回の新型コロナ感染拡大時には、感染拡大の影響等により住居が不安定になる者や、生活困窮者自立支援制度と生活保護制度の制度間を行き来する者の増加が見込まれたことから、令和2年度第二次補正予算により盛り込まれた居宅生活移行緊急支援事業により、生活困窮者と生活保護受給者の居住支援を一体的かつ一貫的に実施することとされました。
このように、リーマンショック時に緊急の時限措置として始まり、その後制度化された住居確保給付金をはじめとする生活困窮者自立支援制度の事業は、国土交通省の住宅セーフティネット制度による取組みとも相まって、今回の新型コロナ感染拡大時において、生活が困窮している者の住居確保や維持に大きな役割を果たしています。
□ 定額給付金等
国民の多くが関心を寄せたのが制限なしに国民全員に、赤ちゃんから老人までを対象とした定額(10万円)給付の政策でした。
(定額給付金等の内容・事業規模の比較)
いずれの危機時にも定額給付金等が支給されているが、今回の事業規模は6倍以上となっています。リーマンショック時、新型コロナ感染拡大時のいずれの危機時においても、全国民を対 象とした現金給付として、定額給付金や特別定額給付金が支給されました。また、これに加え、子育て世帯を対象に、子育て応援特別手当や子育て世帯への臨時特別給付金が支給されました。さらに、今回の新型コロナ感染拡大時においては、低所得のひとり親世帯等に対して、臨時特別給付金が支給されたほか、子育て世帯生活支援特別給付金も支給されることとなりました。
その事業規模を比較すると、リーマンショック時は約2兆1,000億円であったのに対し、 新型コロナ感染拡大時は約13兆4,800億円で、リーマンショック時の6倍を超える規模となっています。
□ 生活保護
生活保護の政策も新型コロナ感染症の拡大に伴って広く展開がされました。しかし、予想されたほどには伸びることはありませんでした。
(被保護世帯の伸び率の推移)
リーマンショック時は急増したが、2021年2月時点ではほぼ横ばいとなっています。 生活保護の被保護世帯数を対前年同月からの伸び率で見ると、リーマンショック後の1年間は増加が続いているが、今回の新型コロナ感染拡大時は、これまでのところ、ほぼ横ばいとなっています。
(保護開始の理由)
一般的に、生活保護開始の主な理由としては「貯金等の減少・喪失」や「傷病」などが挙げられるが、「その他の世帯」は「失業」が、「その他の世帯」や「母子世帯」は「その他の働きによる収入の減少」が、「保護開始世帯全体」と比べて割合が大きくなっています。
そこで、「その他の世帯」や「母子世帯」を含む「高齢者世帯以外の世帯*6」に係る「現に保護を受けた世帯の伸び率」について見てみると、リーマンショック時の対前年同月伸び率は、被保護世帯全体に比べて大きく上昇したのに対し、今回の新型コロナ感染拡大時は、徐々に増えているもののマイナスで推移しており、後述するように、 失業の増加が比較的抑えられていることもあって、現時点ではリーマンショック時ほどの上昇は見られていません。
*6 全ての世帯類型において、勤労者世帯が含まれうるが、現役世代の被保護者世帯という観点から、ここでは便宜的に「高齢者世帯以外の世帯」について分析している。
(最近、申請件数が増加しており、状況の注視が必要)
生活保護の申請件数については、第1章第2節でも述べたとおり、対前年同月で見た場合、2020(令和2)年4月に急増した後、同年5月から8月まではマイナスが続いていましたが、同年9月以降、6か月連続で増加しており、さらにその伸び率は月を追う毎に大きくなっています。
新型コロナ感染拡大の影響はなお継続すると見込まれる中で、状況を注視していく必要があります。
□ 新型コロナ感染拡大時における新たな支援策
いままでに前例のない世界的なパンデミックにおいて、新らしい政策も求められました。
今回の新型コロナ感染拡大時の支援においては、リーマンショック時よりも広く国民生活に大きな影響が生じていることに加え、感染拡大の防止の観点から緊急事態宣言が発出されるなど社会・経済活動の自粛が強く求められたという事情もあって、既存の制度や事業の特例・拡充のみならず、リーマンショック時にはなかった新たな支援策も実施されています。
(雇用保険や健康保険などの被用者保険の対象とはならない者への支援)
今回、新型コロナ感染拡大時の支援においては、雇用保険や健康保険などの被用者保険の対象とはならない者に対して、緊急対応として、以下のような休業中の支援が行われました。
・雇用保険被保険者ではない労働者(例:週20時間未満の短時間労働者や学生等)を雇用する事業主に対して、雇用調整助成金に準じた緊急雇用安定助成金を支給するほか、休業手当が支払われない労働者に対しては、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金を支給
・新型コロナウイルス感染症の影響による小学校等の臨時休業等に伴い、子どもの世話を行うために仕事を休まざるを得なくなった雇用保険被保険者でない労働者に特別な有給休暇を取得させた事業主に「小学校休業等対応助成金」を、また、契約した仕事ができなくなった委託を受けて個人で仕事をする保護者に「小学校休業等対応支援金」を支給
・国民健康保険の被保険者である被用者が新型コロナウイルス感染症に感染したり、感染が疑われたりして、働くことができなかった場合に傷病手当金を支給*7
(低所得のひとり親世帯等への支援)
また、低所得の子育て世帯を対象に、以下のような経済的な支援策が講じられました。
・子育てと仕事を一人で担う低所得のひとり親世帯などに特に大きな困難が生じていることを踏まえ、児童扶養手当受給世帯等を対象として、臨時特別給付金等の支給
・自立に向けて意欲的に取り組んでいる低所得のひとり親世帯を対象として、住居の借り上げに必要となる資金の償還免除付の無利子貸付
*7 国民健康保険の保険者が条例や規約を制定し、こうした傷病手当金を支給した場合に、国から財政支援を行った。後期高齢者医療制度に おける被保険者についても同様の措置が講じられた。
■ 支援策による効果
多くの政策が取られた結果、国民の生活を脅かす不安に対しては一定の効果がありました。
様々な支援策の実績や内容について、リーマンショック時と新型コロナ感染拡大時の比 較を行いながら見てきましたが、以下では、これらの支援策によって人々の生活にどのような 影響があったのか、その効果について経済指標の比較を通して考えたいと思います。
□ 失業、休業
日本社会の労働力不足の傾向の中にあっての今回のコロナ感染症の蔓延でしたので、失業にまでいたる人は思ったほど多くはありませんでした。
(完全失業率の推移)
雇用調整助成金の手厚い特例措置により、失業に至らず、休業に留まることが多い状況でした。 完全失業率は、リーマンショック時には、約1年で1.5ポイント程度急上昇し、2009(平成21)年7月には5.5%に達しました。一方、今回の新型コロナ感染拡大時は、上昇幅は 1ポイント未満と比較的緩やかな上昇にとどまっています。
(休業者数の推移)
また、休業者数は、リーマンショック時には微増であったが、新型コロナ感染拡大時には、2020(令和2)年4月に急増し、翌月以降減少傾向にあったものの、2021(令和3)年1月からの緊急事態宣言下において*8増加幅が拡大しています。
この推移を見る限り、リーマンショック時と比べて、今回は従業員を解雇し失業させるよりも、休業に留まらせる動きが強く見られたといえると思います。
この背景には、元々、今回の新型コロナ感染拡大前の段階で労働市場が人手不足の状態にあり、事業主が雇用維持を志向する傾向が見られたこと、さらに雇用維持を支援する雇用調整助成金について、4(1)で述べたとおり、手厚い特例措置が講じられたという事情があると考えられます。
*8 2021年1月7日から3月21日までの緊急事態宣言は、2020年4月からの緊急事態宣言と異なり、対象地域や制限内容が限定的であったため、休業者数の増加幅が抑えられたことが考えられる。また、2021年3月の労働力調査の結果は、労働力調査を実施するのは調査 月の月末一週間であることから、2021年3月の労働力調査の結果は緊急事態宣言解除後の値であることに加え、2020年3月に休業者数の増加が見られたことによる反動の影響もあることに留意が必要。
□ 賃金、所得
日本国の労働者の平均賃金は、ここ30年間他国に比較するとほとんど伸び率がない状況できました。
(現金給与総額の推移)
これまでのところ、賃金は低下したものの各種給付金等がその低下を補ったこともあり、所得には大きく影響していないといえます。賃金について現金給与総額で見ると、リーマンショック時も、新型コロナ感染拡大時も、危機発生後、対前年同月比でマイナスが続いています。マイナスの最大幅で見ると、リーマンショック時は危機発生から9ヶ月後の2009(平成21)年6月に▲7.2%、新型 コロナ感染拡大時は国内で感染者が確認されてから11ヶ月後の2020(令和2)年12月 に▲3.0%となっており、現時点で見る限り、落ち込みはリーマンショック時の方が大きいといえます。
(実収入の推移)
賃金も含めた家計所得について見ると、リーマンショック時には、2009年の大半の月で対前年同月比の名目増減率がマイナスでありましたが、今回の新型コロナ感染拡大時には、2020年の大半の月でプラスとなっています。特に5月から7月にかけては特別収入の増加 により一時的に急増しています*9。
こうしたマクロの指標を見る限り、今回の新型コロナ感染拡大時においては、労働者一人当たりの賃金は低下したものの、特別収入も含めた所得で見た場合には、リーマンショック時ほどの影響ではないといえます。
その背景には、今回の新型コロナ感染拡大時の対応として、各種給付金等の経済的支援が大規模に実施されたといった事情があると考えられます。
*9 家計調査の実収入は、経常収入(勤め先収入、事業・内職収入、農林漁業収入(2020年1月より、事業・内職収入の中の、他の事業収 入に統合)、他の経常収入(財産収入、社会保障給付、仕送り金))と特別収入(受贈金など)からなり、特別定額給付金は特別収入に含まれる。
また、勤め先収入は世帯主の収入のみならず、世帯主の配偶者や他の世帯員の収入も含まれます。このため、実収入は勤め先収入 以外の収入の影響を受けるとともに、世帯主の勤労収入だけでなく世帯主以外の者の勤労収入の影響も受けることに留意が必要です。一方、こうした経済的支援によって家計所得を支えるといっても限界があり、本来的には賃金の回復を図ることが重要です。経済・雇用情勢の改善に向け、様々な対策を講じることを通じて、賃金の低下に歯止めをかけ、上昇基調につなげていくことが望まれます。
(つづく)平林良人