基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 133 | テクノファ

投稿日:2022年1月10日 更新日:

私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認証を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャイン博士が2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
□ 第8章 深いところの文化の前提認識
■ 時間と空間の本質
文化の構造への認識が深まると,現実と真実を正しく認知できるのみならず,無意識に,当然のように抱かれているコンセプトを含むわれわれ自身の物理的,人間的な環境条件に向けてわれわれを方向付けてくれる。

■ 時間に関する前提認識
時間的知覚と経験はグループの機能に関するもっとも中心的な場面である。時間に関わる経験は一人ひとり違うから,おびただしい数のコミュニケーションと関係性の問題が生み出されることになる。たとえば,誰かが時間になっても姿を現わさない,時間を無駄にしてしまった,要点をハッキリさせるための「説明の時間」が不足した,誰かと「時間のテンポが合わない」と感じた,誰かがわれわれの時間を使いすぎている,部下が時間通りに物事をはこんでいない,必要なときに部下がいない,などなどで心配したり,イライラしたりする。

時間の分析について,ドゥビンスカス(Dubinskas,1988,p.14)は人的案件における中心課題であると指摘する。「時間は,社会生活の秩序性を取り上げるときの基本的,象徴的な概念であり,近代社会においても農耕社会さながらに,労働日,カレンダー,キャリア,ライフサイクルなどによって,われわれの文化の一部を規制しているように見える。この時間による規制は,本来の万物のありようとして自然への『付随的』特性としての規制である」と。またハサード(Hassard,1999,p.336)によれば「時間に関わるわれわれの感覚は,たしかに人間の身体の生物学的特性にもとづいて生まれているけれども,社会や文化への参画によって洗練され,整えられた」とされる。
時間は一元的次元に属さず,明確な構造も持たない。多様な視野,視点から分析されており,その多くはグループ及び組織の分析と格別な関係を有する。それは,スケジュール,配分,調整など同時多発化する現実の問題との関連を有するからである。

■ 時間についての基本的オリエンテーション
人類学者によれば,いかなる文化も時間の本質についての前提認識を作り,過去,現在,または将来に向けての基本的方向性を持っている(Kluckhohn & Strodtbeck,1961;Redding & Martyn-Johns,1979;Hampden-Turner & Trompenaars,1993)。たとえば,米国南西部での調査によれば,アメリカのインディアンの一部の種族は過去指向,スペイン系アメリカ人は主として現在指向,アングロ・アメリカ人は主として近未来指向であった。
時間指向(time orientation)はある種のマクロ文化・国家文化を識別するのに便利である。たとえば,過去・現在指向の次元を将来指向と対比的に識別することが可能であり,将来指向は経済発展レベルと関連していた(Hofstede & Bond,1988;Hofstede,2001)。またほかの調査では,アジアでは日本が極端に長期将来指向プランニングであり,ホンコンは極端に短期指向プランニングであった。

組織レベルで時間指向性を主として企業を識別してみると,(1)過去;前例を主とする思考傾向,(2)現在;当面の課題の解決にのみ全力投入(3)近未来;4半期の実績をもっとも重視,(4)中長期未来;研究開発に投資,当面の利益より長期マーケット・シェアー重視,のようになる。
時間に対する文化的前提認識はマネジメント・プロセスにおけるプラニングの役割に影響を与える。たとえば,私が一緒に仕事をしたことのあるハイテク企業は「現在絶対重視」の前提認識で運営されていた。従業員は当面の課題達成に全力集中していたが,過去をふり返るセンスに欠け,将来を見る目を持たなかった。プランニングの担当者は企画が形式化することに不満を持っていた;企画書は何をなすべきかの企画に満ちあふれていた。そしてそのどれひとつも実施に移されなかった。

過去に生き,過去の栄光と成功を反芻し,現在と将来への挑戦を怠っているように見える組織が多い。過去にあれだけうまくやれた組織なのだから現在も将来もうまくいって当然で,ことさらに過去の再点検などをする必要がないという前提認識を奉じているようだ。それはテクノロジーや環境が変化していなければの話であって,新しい環境の要請,テクノロジーの変化の要求に対応して組織がそのミッション,ゴール,及びその達成の方法を明確に描き出すことができなければ,その結果はデジタル・イクイップメント社(DEC)物語の再現となる(Schein,2003)。
将来指向の組織の場合の問題は何か。論争がたくさんあるところだが,米国企業の問題のひとつとしてあるのは彼らが経営を続ける財務的な環境(すなわち株式市場)が,長期的プランニングをないがしろにして近未来の業績に注目するように導いている点だ。人類学的見地からすれば当然,何が原因で何が結果かはわからないということになるところだ。米国は文化的に言えば近未来的でプラグマティックであったから,その結果,迅速で恒常的なフィードバックを可能にする経済システムを生みだしたのか,あるいは,経済システムが短期的プラグマティックな指向性を生みだしたのか。いずれにせよ,このような時間に関する文化的前提認識が米国のマネジャーの日常的な思考と行動に支配的な影響を与えたことに注意したい。彼らは長期的なプランニングを当然とする日本型産業の典型的事例の理解はおろか,想像することもできないに違いない。

□ 単色的(モノクロニック)時間と複色的(ポリクロテック)時間
エドワード・ホールは国家文化についての洞察力に満ちた数冊の本(Hall,1959)のなかで,米国では,大方のマネジャーは時間を単色が連続し,無数に分割可能な線形のリボンで,選定部分とその他の区分があり,一時に一事しかできないと考える。もし,いくつかのことを,1時間以内にやらなくてはならないときは,その1時間をいくつかに分けて,一時に一事を果たす。仕事中に混乱したり,過重感があったりすると,一時に一事とアドバイスされる。時間は大事な日用品のようなもので消費も空費も可能であり,つぶすこともできるが,十分に,有効に利用することもできる。しかしその時が過ぎれば,どこかへ永遠に行ってしまう。ハサード(Hassard,1999)はこの「リニア・タイム」のコンセプトが産業革命の心臓部だと表現した。何かを生産するのに掛かった時間,作業量を測定するために計った時間,給料の支払いのために計算した労働時間,時間による生産性の測定への移行,「時は金なり(time is money)」の強調がその具体例である。

対比的に,南欧,アフリカ,中東では時間を主として多色彩の併存とみなすことが多い。つまり,明確には定義できないが,時計では計りきれない達成感を伴うもの,そして一定時間内にいくつかのことに同時対応できるものととらえている。さらに極端な場合には時間の周期概念における「位相(phase),形式的には円形に近いものともされる」。アジアのある社会では,「ひとつの季節のあとに次の季節がくる。ひとつの生命が次の生命につながる」(SithiAmnuai,1968)。このような「時間感覚」のマネジャーは同時に多数の部下,同僚,ときには上司と対応し,それぞれの課題を終了させるまで継続的に保留させることができる。

この区別はハムデン-タナーとトロンぺナールス(Hampden-Turner&Trompenaars,1993,2000)の国家,組織について,時間との関連において,連続思考(モノクロニックな時間)中心か,同時発生的活動(ポリクロニック)中心かという調査に該当する。事例としてこの調査に挙げられたのは日本の自動車製造のアプローチである。注目されるのは,できるだけ多くの連続作業の工程(モノクロニック)を同時発生的(ポリクロニック)にするところにある。一定の部品,たとえばエンジン,を取り付けるときは多数の別のモデルの車にも,ラインを流れてきているそれぞれのエンジンの取り付けが行われるようにする。適切な部品が「ジャスト・イン・タイム」に到着し,インベントリーのコストは最小となる。

時間の文化的位置づけはほかの文化項目との関連で決まることは言うまでもない。たとえば仕事を遂行するうえでの関係性の重要さがある。もし,関係性が短期的な効率よりも重要だとする認識があるなら,同時多発性の強調がなされてしかるべきである。時間厳守とか,業務の迅速達成などは,関係性に関する諸問題の全体的な重要性の下位におかれる。モノクロニック指向のマネジャーは短気で不満が多く,上司が何人もの部下に同時に気を配ったり,さらに,仕事の話になる前に日常的な会話で時間が費やすことなど,ポリクロニックな文化のなかにおかれると我慢ができなくなる。

米国ではモノクロニックな文化が一般に重視されるが,米国の組織のなかにはポリクロニックな時間コンセプトも存在し,あるいは周期的コンセプトも活用されている。但しその多くは簡明な職種に限られているようだ(Bluedorn,2000)。たとえば,医師,歯科医は隣接する場所で同時に数名の患者を診察し,併せてスーパーバイザーが常時その患者たちに関わる医療機器の技師すべてに対応できるようになっている。家庭では両親や主婦も同時発生的に料理し,掃除し,子供たちそれぞれに対応している。空港のチェックイン・ラインでは係員が離陸直前のフライトの乗客が列のなかにいないかをたしかめて,出発の遅延の防止に努めている。アルファパワー社が裁判所命令で環境保全を必要とされたとき,電気作業ワーカーの緊急トラックからこぼれた油の除去は病院の発電機の修復にも劣らぬ作業だと指導された。これらのタスクは順を追ってこなすものではなく,同時並行的に対応すべきものと見なされた。単純作業に携わる製造ワーカーたちは,その1日にリズムと周期をもたらすために,休憩時間をもっと意味のあるものにしようと,新しいインフォーマルな活動を考えだす。また運転中の携帯電話の使用は安全上の重大な問題を提起しているなど,要するに,同時並行可能な作業の是非が大きな問題になっている。

時間の概念はまた微妙に人の地位を示すことがある。米国人と北欧人のラテン文化(考えも行動も一時一事文化とはほど遠い)に対する,私自身の経験した欲求不満の実体験を紹介する。私たちは南仏の小さな郵便局の前の長い列のなかにいたところ,あとからやってきた何人かが列の先頭に割り込み,局員に自分の用事を処理させてしまった。友人の解説によれば,この展開のなかで,この局員はポリクロニックな認識のなかにいる(もっとも大声を上げて割り込みを批判した者には優先応対した)だけではなく,社会的に高い地位にいる者(割り込んだ人)には,文化的に正当な行為としての行列無視のサービスをした。その同じシステム(地位に関する文化システム)のなかにいる人たち(大声を上げた者以外の全員)は怒ったりはしない,ということであった。しかし爆発寸前ではあったが列に並んで待ち続けていた私は,事実上,自分の身分を低く自己認識していたことになる。そうでなかったとしたら,列の先頭へ行って,同様の優先的なサービスを要求してもよかったのかも知れない。
(つづく)平林

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