ここまで3回にわたってヘルピング技法について紹介してきました。同技法は、ヘルパーとヘルピーの相互作用によって、ヘルピーが、さらに自己探索を進め、自己理解を深め、行動計画を修正し、より効果的な行動をとれるようになることを目指す援助サイクルであることをお伝えできたなら幸いです。
さて、今回から3回の予定でブリーフ―セラピー(BFT)を取り上げます。BFTに関心を持ったのは、私が理事として運営をお手伝いしている日本家族カウンセリング協会※1で、理事長の長谷川啓三※2先生から直接お話を伺うようになったことがきっかけです。ここからは日本家族カウンセリング協会研修会での長谷川先生の講義内容と若島孔文 長谷川啓三2018「新版よくわかる!短期療法ガイドブック」金剛出版※3、そして、生田道子2019解決志向ブリーフセラピー 日本家族心理学会編「家族心理学ハンドブック」金子書房 257-265 ※4を引用(本文では『 』※3あるいは※4で記してあります。)・参考文献として使用しながらBFTを紹介します。
※1 日本家族カウンセリング協会 http://www.j-f-c-a.org/
1985年設立の家族に対する心理的援助の専門団体。特定非活動営利団体(東京都)。日本家族心理学会(1984年設立)と協同して、1992年に家族への心理的な支援のできる専門家として「家族相談士」の資格制度を開設し、養成している。
※2 長谷川啓三
教育学博士、臨床心理士、家族心理士。東北大学大学名誉教授。Mental Research Institute(MRI)日本代表。日本ブリーフ協会代表。
1.BFTの理論的背景
BFTは『サイバネティクス、システム論を導入したコミュニケーション理論を理論的よりどころとしています。』※3ので、本質を理解するにはかなりの学習が必要ですが、本文では、それらの中でも、キャリアコンサルティングの観点から私が関心を持ったことについて記します。
(1)『個人から家族にその分析単位をかえることで、人間を探求する学問におけるパラダイム変換を行った。』※3
キャリアコンサルティングにおいては、しばしば個人と部門・会社などの組織との関係性によって問題が生じることが少なくありません。これらの問題は直線的な因果関係から生じていることは極めて稀で、複数の事柄が相互に作用しあう円環的因果関係から問題が生じ維持されていることがほとんどのケースに見られます。このような問題の解決は、単純に原因を探り対処するには無理があります。どちらかというと、問題を俯瞰して対処することが必要になります。『個人から家族』における『家族』を組織に置き換えると、BFTの理論を学びその技法を用いることができるようになることはキャリアコンサルティングを行ううえでも重要であると考えられます。
(2)『①ほとんどの問題は人間関係の中で生まれ維持されるとすること、②セラピストの仕事はクライエントが何か新しいことをするように促すこと、③ほんの小さな変化が必要なだけであり、したがって治療目標は最小限に必要とされるものでいいとすること、④セラピストに必要なことは事態がどうなれば問題が解けたことになるかを知ること、』※3
以上に記された『セラピスト』をキャリアコンサルタント、『治療』をキャリアコンサルティングに置き換えて読むと、BFTはキャリアコンサルティングに応用可能な視点を与えてくることが予感されるのではないでしょうか。
(3)『専門家中心的解釈を優先しない、クライエントファーストの心理療法です。』※3
『SFBT(解決志向ブリーフセラピー)におけるセラピストとは、CLがゴールに達成できるように支援する協同者またはコンサルタントであり専門家だと考えられている。求められる姿勢とは、not knowing position=無知の姿勢と、leading from one step behind=一歩後ろからのリード、である。』※4
『セラピストも一人の人間であり、専門家としての知識を持っている。そのため、セラピーの時に偏見を持つことは免れない。しかし、偏見に基づいて解釈をせず、CLの語ることに興味を持ってゆっくりと耳を傾け、文脈を理解し、協同で解決を探索していく姿勢を「無知の姿勢」という。』※4
『セラピストに求められる基本スタンスは、ポジティブで肯定的であり、平等で敬意に満ち、希望にあふれ、解決に焦点を当てることである。』※4
以上についても(2)と同様に用語を読替ていただきたい。ここに記された内容は、最近ようやく浸透してきましたが、キャリアコンサルティングにはもちろんのこと個人に対する心理学的知識技法等に基づいたサービスには普遍的に必要であり、かつ重要なことと思われます。
(4)『MRIコミュニケーション理論―コミュニケーションとは全ての行動がなり得るものである。コミュニケーションには常に命令的機能が内在する。コミュニケーションは人の行動に制限という形で影響を与える。コミュニケーションは論理階段の理解によって整然とする。』※3
(1)に記した部門・会社などの組織の中で個人と個人がどのように影響し合っているのか、あるいはキャリアコンサルタントがクライエントに相談を受けるときどのように影響し合うのか。これらのことは、前項と同様にキャリアコンサルタントが論理的に理解しておくべき必須のことと思われます。
次回から、これらの4点を反映する技法について紹介します。
(続く)
キャリアコンサルタント 1級技能士 上脇 貴