基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 138 | テクノファ

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私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認証を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャイン博士が2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第10章 文化の類型と文化サーベイ
先の数章で私は,文化の特性を解明するために活用されてきた数多くの次元を検討した。ここで私はとくに組織文化を読み解くことに有用な次元にフォーカスを絞り込んできた。またそのほかの次元も検討した。これらはその組織のさらに完璧なプロフィールを提示する際に組み合わせとして提示することが可能な次元のセット,あるいはより総合的な類型として提示されている。これまで提案された類型法やプロフィールの数多くは,さまざまな組織のメンバーに対する質問表,あるいはサーベイ(調査)にもとづいて作成されている。したがってこれからは数々の類型法について,理論的な構成物,並びにさまざまな認識上のデータを分析するファクターから導き出されたラベル(分類の呼び名)の両方にもとづいて検討を進めたい。質問表にもとづいて築かれた,さまざまなモデルが存在することから,それらのモデルの相対的な妥当性や効用をいかに評価すべきかを考慮することが求められる。したがって,いくつかのモデルを検討する前に,組織文化といった抽象的概念,さらにそれらのモデルを活用する際の長所と短所がいかなるものかを理解するうえで,この類型法が果たす役割をしっかり理解しておくことが重要となる。

〇何故類型法が必要か,必要でないか?
われわれが「自然の」世界を観察するとき,われわれが見て,聞いて,味わって,さらに感ずることは潜在的にわれわれを圧倒するものとなる。しかし「生の経験」だけでは何の意味ももたらさない。ここでわれわれの文化に対する能力が,われわれの言語に内在する概念の分類を通して,見聞きしたことをどのように解釈すべきかを教えてくれる。幼児期にわれわれが経験するのは,「開花に伴う,ぶんぶん音を立てる混乱」であるけれども,この混乱もわれわれが椅子やテーブル,母親と父親,明るいと暗いといった対象を区分することを学び,さらに経験した対象や出来事と言語を結びつけることを学ぶに従って,ゆっくりと秩序づけられていく。

われわれが青年期に達すると,自分の経験することのほとんどを区分し,名付けることを可能にする完全な言語能力と概念の分類の方法を身につける。しかし,これらの分類とそれに伴う言語はある一定の文化の枠内で学ばれたものであり,しかもそのような学習は職業や組織といった新しい文化に移ったときになお,学習が継続するという事実を忘れてはならない。たとえばエンジニアは弁護士やマネジャーと同じように新しい領域と言語を学び続ける。またデジタル・イクイップメント社(DEC)に入社したエンジニアとチバ・ガイギ一社(Ciba-Geigy)に入社した社員は,それぞれ違ったことを学ぶこととなる。

新しい概念は次のような場合に有効となる。つまり(1)観察された現象の理解をたすけ,何らかの秩序を見いだすことを促す,(2)ものごとがどのように機能するかに関する理論を築くことによって,その現象の底を流れる構造がどのようなものかを定義することを支援する,(3)まだ観察されていないほかの現象がどのようなものかを,われわれがある程度予見することを可能にする,といった場合である。しかしわれわれが新しいカテゴリーを築く過程においては,どうしてもより抽象的にならざるを得ない。このような抽象化を進めることによって,ものごとがどのように機能するのかに対するモデル,類型,理論を築くことが可能になる。われわれが類推することを可能にするこれらの類型化と理論化に伴って生ずる利点は,さまざまに異なる現象間に秩序をもたらしてくれるという可能性だ。逆に類型化と理論化に伴う欠点と危険は,それらがあまりに抽象的であり,観察された現象の組合せに伴う現実を適切に反映できない点に求められる。ということは,類型化は数多くの組織を比較する際には有効性が高まり,ある特定の組織を理解しようとする際にはあまり有効ではなくなる,と言えるかも知れない。

われわれが使う類型とモデルは,われわれの現実をとらえる視点としてしだいに定着する。またわれわれの生活体験を理解する日頃の努力を簡単なものにしてくれる。この簡素化は不安を減らし,心理的なエネルギーを保全する際に役立つ。逆に簡素化に伴う危険性は,われわれの関心を寄せる対象の幅を狭め,かつわれわれが観察していることに対して無関心な態度を助長する点だ。このような関心を狭める行為は,あまり重大な結果をもたらさない現象に対応する際には役に立つこともあり得るだろう。たとえばわれわれがたまにしか使わないレストランや銀行について,「命令とコントロール」の厳しい組織と分類してもとくに問題は生じない。しかし経済が不況に突入し,近所の特定の銀行にわれわれのお金を貯え続けることが,妥当であるか否かを決めることがきわめて重要なことになってきたときには,銀行の「タイプ」がきわめて重要になってくる。そのような場合には,特定の銀行の文化を分析するために,より広い範囲の次元が必要となる。またわれわれが特定の類型化の方法にこだわり続けると,その銀行を分析するための数多く概念ツールを見失う結果を招く。

類型を活用する際の3番目の課題は,われわれがいかにその抽象レベルに到達するかという問いに関わっている。われわれがこれから検討する数々の文化モデルでは,社員が自分の組織についてどのように認識しているのかを彼らに尋ねることによってデータを収集する。これらの認識が集計され,より抽象的な概念に要約される。この種の概念は,どの項目間の関連性が高いかを分析し,社員の認識のなかで関連性が高いカテゴリーを抽出するために質問表に対する数多くの回答を因子分析にかけることを通じて導きだすことが多い。さらにこれらの「因子(ファクター)」に名前が付けられて,結論の形で集約される。たとえば「戦略の方向と意図」といった名前が付けられ(Denison,1990),さらにこの次元についての文化の得点が次の項目ごとの社員のその組織に対するレイティングを集約することにもとづいて算出される。たとえば,
・長期にわたる目的と方向性が伴っている
・われわれの戦略は,ほかの企業がこの産業で競争する方法を変えるように導いている
・われわれの仕事に意味と方向性を示す明確なミッションが示されている
・将来に対する明確な戦略が含まれている
・わが社の戦略は私自身にとって明確な方向を示してくれてはいない(逆方向で得点化)

これらの質問の最終の得点は,社員の認識の信頼性の測定尺度,さらにその組織が強力,逆に脆弱な戦略を備えているかについての社員の認識程度を示す妥当性の措置ともなり得る。しかしこの得点が本書で定義された文化の測定尺度となり得るか否かについてはなお疑問が残る。

〇サーベイ法の活用に伴う問題点
われわれがこれからレビューする数々の類型は,これまでに紹介した方法によって得点化される社員向けサーベイによって実施されることから,文化の測定手段として,これらのサーベイを活用する際の問題と課題がいかなるものかを理解しておくことが重要だ。
・何を尋ねるべきかを理解していない:もしわれわれが過去の数年でレビューしてきたすべての内部的,外部的次元のすべてをカバーするものとして文化をとらえる場合には,これらの可能性のある次元のすべてをカバーする,きわめて大規模なサーベイの実施が要求される。これがある特定の組織にとって何を意味するかと言うと,われわれはそのサーベイにどのような質問を含めるべきかについて基本的に理解できていないことを示唆する。まず最初に文化の解釈に関する何らかの調査を実施しておかない限り,その組織にとって,まだ彼らの深いところの「DNA」の一部としてどの次元が重要であり,どの次元があまり重要でないのかについて知りようがない。もしわれわれがすでに開発済みのサーベイを使う場合には,自分たちの組織にとって重要なものであるという観点から見て,適切なサーベイを選択できたかどうかについても判定しようがない。それぞれのサーベイが「文化」または重要な「文化の側面」を分析すると主張していたにしても,これらの主張をどのように評価するかについての既存の方法は存在していないのだ。

・社員は正直に回答することにモティベートされているとは限らない:社員はその回答に当たっては率直で,正直であることが奨励され,さらに彼らの回答は完全に秘密が守られるという保証を約束される。この種の保証が最初に行われることの真意は,社員は彼らの回答が外にもれることがないという保証がない限り,調査に対してオープンには回答しないという当初の前提が存在することを示唆する。文化は生きた現実であることから,われわれは人々がオープンに反応する方法を選んで活用すべきなのだ。サーベイに含まれるあまりに多くの質問において評価と判断が求められることから社員はそれら の質問にどう答えるべきか慎重にならざるを得ない。

・社員は質問の意味が理解できなかったり,狙いを逸脱した解釈をすることもある:たとえば「将来に向けて明確な戦略が存在する」という記述には,社員は「戦略」という言葉に対して共通の定義をしているということが前提と なっている。もしこの前提が成り立たないときには,彼らの回答を集約しても意味がない。その結果個々人の反応から「共有された」概念を導きだすこともきわめて困難になる。

・測定結果はたとえ正確であっても皮相的なものに終わる:紙と鉛筆にもとづく認識から文化の深いレベルに到達することは困難なのだ。文化は内的に共有された現象であり,人々の交流を通じて姿を現わすものだ。したがってサーベイによって測定された次元はどうしても皮相的なものになりがちだ。

・調査されるサンプルの社員がその組織の中心的文化の代表とは限らない:
サーベイを運営するほとんどの担当者は,もし彼らがサンプルの選択を注意深く進め,また彼らのサンプルを組織全体の人口構成に照らしてテストしておけば,そのサンプルの分析にもとづいて組織全体を正しく記述できると認識している。しかしこの論理は文化に対しては通用しない可能性がある。というのはその文化における推進グループが経営陣サブカルチャーであるかも知れない。ここではマーティンが指摘しているように,そのサーベイでは統計的に解明する手立てが及ばない,そのほかの数多くのサブカルチャーを巡ってその組織文化がばらばらに分離され,区分されてしまうかも知れない。たしかに観察やグループへのインタビューにもとづくその組織に対する質的な知識を通じて,いくつかのサブグループを特定し,サーベイにおける各グループ間の差異をテストすることは可能であるかも知れないけれども,その際にも前もっての知識が必要となる。

・次元ごとのプロフィールは,各次元間の関係を示すことができないし,ひとつの全体システムとしてのパターンを示すこともできない:サーベイの結果はプロフィール,あるいは車輪のスポーク(軸)ごとに得点を示す形で示されることが多い。これはそのサーベイが統合化された測定手段であるという印象を与えるためである。しかし「真実の本来の姿」に代表される数多くの前提認識間に存在する深い部分における関連性,さらにDECにおいてこの前提認識がDECの平等主義と意思決定における論争を好むスタイルとどのように関連しているかについては解明することはできない。

・サーベイを受けることから生ずる影響には予測不可能な結果が含まれ,結果のなかには望ましくない,破壊的なものも含まれる:社員が質問に答える際には,彼らがかつて経験したことがないカテゴリーについて思考し,また異論の多い領域での価値判断が求められる立場に立たされる。各社員はこの方法から影響を受けるだけでなく,さらにその組織のリーダーシップに対して皆がきわめて批判的であることを発見するといった価値判断を共有することとなる。その結果グループに批判的な態度が醸成されて組織の運営能力が傷つけられることもあり得る。さらに社員の間には,マネジメントが調査結果を知った以上,社員が不満を述べた領域に対して何らかの改善行動を取ってくれるはずだ,という期待感が高まる。ここでマネジメントが適切な対応を示さないと,社員のやる気は低下する。しかしここでマネジメントは何故社員のやる気が低下したのかについての原因が推量できない事態も起こり得る。
(つづく)平林

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