基礎編・理論編

文化の評価に前もって設定した基準 | テクノファ

投稿日:2022年2月6日 更新日:

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャイン博士が2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた日本人でありました。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
〇 文化の評価に前もって(A Priori)設定した基準を適用した例
もうひとつ別のアプローチがドイツのある出版社が実施した方法に示されている。ここでは63社のグループから選ばれた6つの企業に賞が贈られた。
「企業文化を築き,活かしている卓越したモデルを選ぶ。……学者とビジネス界の専門家によって構成された国際的な作業コミッションが厳格な討議を経て,10の最重要の次元を選定した。次いでベルテルスマン・シュティフタング社(Berte1sman Stifung)とブーズ・アレン・ハミルトン社(Booz Allen Hamilton)から選ばれたリサーチャーが,10の次元とそれに関連する基準にもとづいてこれらの企業を評価した(Sackman,Bertelsman Stiftung,2006,p.43)。

使用された10の次元は図10-1に示した。
研究ティームは過去10年にさかのぼって各社の財務的業績を調べ,さらに図10-1 成功要因としての企業文化とリーダーシップ行動:主要な次元10の最終候補に絞り込むために各社について公に発表されている情報を吟味した。10の最終候補企業は先の10の基準に照らして詳しく評価された。この評価は,企業訪問とボードメンバーから従業員代表(works council)メンバーのすべてのレベルに対するインタビューを通して実施された。10の評価項目のそれぞれにはさらに詳しいチェックリストが準備され,評価ティームがかなり客観的に各企業にスコアをつけられるように工夫が施された。詳細な結果が当初のコミッションによってレビューされ,6つの企業の選択が行われた。

ここでは革新における卓越した業績と,卓越した業績の達成における企業文化の活用が評価された。BMWグループ,ドイツ・ルフトハンザ社(Deutsche Lufthansa),グルンドフォス社(Grundfos),ヘンケル社(Henkel),ヒルティ社(Hilti),ノボ・ノルディスク社(Novo Nordisk)が選ばれた。サックマン(sackman,2006)は次のように結論している。「企業文化が今日(2006年)各社を他社から区分し,かつ各社の成功に貢献した。さらに将来訪れるチャレンジに対して彼らを強力なポジションに導いたのだ」。このリサーチを価値あるものにした理由は,6つの企業に対する詳しい分析の記述に求められる。その結果読者は,10の次元が表示する抽象レベルを越えて,各社でものごとが実際どのように運用されているのかを理解することが可能となった。ここで用いられた10の基準には,外部環境における生存の問題と内部における統合の問題の両方が含まれている点に着目してほしい。

表10-1 健全な文化に伴う特性
第2の例は,香港のHSBC社において実施された企業文化の変革プログラムの詳しい分析の例だ(O’Donovan,2006)。私は第17章でこの文化変革プロセスの詳細を説明するが,今章の目的からすれば,その変革プログラムで用いられた文化の次元を検討することが適切であると判断している。オドノバンは,まず革新的な文化はどのような姿になるかについてのシャインのさまざまな次元のセットからスタートし,さらに彼女が考察したいくつかの次元を付加して,表10-1で示したような23の次元を生みだした(Schein,1990)。ここで理解しておくべき重要なことは,各次元で×印をつけたところが革新と学習にとってその次元において最適ポイントを示しているという点だ。ということは次元によっては両極点ではなく,中間点が最適ポイントであることに注目して欲しい。

文化の次元を含む変革プログラムは上記のほかにもたくさん存在する。しかしここに紹介した最近のプログラムは,文化をどのように概念としてとらえ,評価するかについて詳細に解明している点は注目に値する。

本章の要約と結論
類型法に伴う価値は,われわれの思考を簡素化してくれる点と,われわれが組織の現実にぶつかったときにその複雑な状況を整理するためのカテゴリーを提供してくれる点に求められる。類型は思考と明確化のためのカテゴリーを提供してくれる点で有益だ。一方文化の類型化に伴う弱点は,複雑な現象を簡素化し過ぎる点であり,さらにわれわれが理解しようと努めていることに対する妥当性という側面でも適切でないカテゴリーを提示することがあり得るという点だ。類型法は,われわれが準備不足の状態で数少ない次元にフォーカスを絞り込むことを促す可能性がある,という意味でわれわれの視野を狭める。さらに数々の次元のなかに複雑なパターンを見つけだす能力にも制約を加える。またあるグループがとくに強く感じている側面を際立たせて表示することも不可能だ。

類型法はさらにマーティン(Martin,2002)が文化研究における「統合化の偏重」と名付けたバイアスを生みだす。言い換えると,高度のコンセンサスが認められる次元を偏重してしまう傾向だ。彼女は数多くの組織が「区分化されている」,さらにはどの文化の次元においてもほとんどコンセンサスが認められない状況にまで「ばらばらに分裂している」ことがあることを発見した。ここで統合された文化とは,組織全体が前提認識の単一のセットを共有している文化を指し,区分化された文化は,いくつかの強力なサブカルチャーがいくつかの重大な課題に対して不同意を示している組織を指し(たとえば労働組合とマネジメト間の意見不一致の例),さらにばらばらに分裂した文化は金融関係のコングロマリット企業に代表されるように,きわめて数多くのサブカルチャーが併存し,全体を統合する共通の前提認識が全く存在しない組織を指す。言うまでもなく,ある組織を単一の類型のカテゴリーに分類する試み,たとえば「クラン(部族)型」や「ネットワーク型」に分類する試みでは,ふたつの次元の間に統合が存在するだけでなく,これらの次元がコンセンサスの度合を判断することに足るレベルでは測定可能だ,ということが想定されている。マーティンによる分類は,組織内に異なった種類の文化の姿を内包する組織を描写するためには強力な方法を提供してくれている。しかしこの方法では文化の基本的概念,つまり当然のものとして認められている前提認識の共有されたセットとしての文化の概念を再定義することまでは要求されてはない。ということは,ある組織に統合,区分,分裂のさまざまなレベルが混在しているのか否かはわれわれの経験と観察に頼るしかないことになる。

一部の分類法ではすべての組織をいくつかのタイプに分類しようと試みているのに対し,そのほかの分類法では,社員向けのサーベイの方法を通じて個別に測定された次元ごとの得点を表示する組織のプロフィールの作成が重視されている。本章では,文化を「測定」する際に上記のようなサーベイを活用することに伴う長所と短所を検討してきた。ここでの主要な課題は,日頃の接触でしか表出されない,共有された隠された前提認識の深いレベルにまでサーベイに対する個人ごとの反応(回答)が到達し得るのか否かという問題だ。たしかにサーベイが測定した結果は妥当なものであるかも知れないけれども,文化のエッセンス(中枢)には到達し得ていないのかも知れないのだ。 組織業績に相関する次元を見つけだす目的に沿って,そのような次元を特定するためのいくつかの試みの例を紹介した。また文化のアセスメントに当たっては,現場への訪問,観察,面接といったさまざまな方法が必要となることを説明したふたつのケースも紹介した。次章では,組織文化をどのように解読するかという問いに挑戦することを通じて上記のテーマに取り組みたい。
(つづく)平林

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