実践編・応用編

良質な医療を効率的に提供する体制 | テクノファ

投稿日:2022年2月8日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。

●(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の 一部を改正する法律の概要)
こうした検討を経て、2021年の通常国会に「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」が提出され、成立しました。

〇(新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保に関する事項の医療計画 への位置づけ)
これにより、2024年度を始期とする第8次医療計画に向けて、新興感染症等の発生時においても、感染症医療とそれ以外の一般医療を両立する観点から、受入れ候補となる医療機関や場所・人材等の確保の考え方、医療機関間の連携・役割分担等の具体的な記載事項について検討を行うこととしています。

新型コロナウイルス感染症との戦いはなお続くが、今回の経験を踏まえ、新たな感染症の発生・拡大に備えて、受入れ候補となる医療機関や場所・人材等の確保の考え方、医療機関間の連携・役割分担などを検討しておくことにより、危機に強い医療提供体制の構築が求められています。

*20 各地で地域の実情に応じた取組みが行われたが、例えば、長野県松本市及びその周辺地域では、患者の重症度に応じて公立・民間の枠を超えて医療機関が患者受入れについて分担・連携し、医療機関や高齢者施設でクラスターが起こっても一体となって医療崩壊を防ぐ取組みが実施された。

〇(病床確保と併せて人材確保も必要)
前述のように、病床を確保しただけで患者を受け入れることができるわけではなく、人材確保の取組みも併せて行うことが必要です。今般の新型コロナウイルス感染症への対応の中でも、医療従事者の不足に関して様々な取組み、支援が行われたが、平時からの備えが重要です。特に今後の新興感染症への対応という観点からは、感染管理の専門性を有する看護師、ECMOや人工呼吸器管理が必要な重症患者に対応可能な人材などの確保が必要になると思います。こうした人材確保に関しては、病床と同様に医療計画に位置付けて取組みを進めていくことが想定されているが、併せて感染拡大時の対応として医療機関内での人材配置の在り方、感染症患者受入医療機関やクラスターが発生した医療機関等への医師・看護師など応援職員の派遣についてもあらかじめ考えておく必要があります。

また、感染拡大時には、潜在看護師などの潜在的有資格者に就業を求めることも重要であるが、そのためには、定期的な研修の機会を設け、いざという時に即戦力となる仕組みの構築なども求められます。

□ 福祉現場における人材確保
(新型コロナの職員の就業状況への影響)
クラスター発生等への対応として人材確保の仕組みが構築されたが、今後も更なる取組みが必要です。 福祉現場においては、2020(令和2)年4~5月の緊急事態宣言下における学校の臨時休業や保育園の休園、自身の感染や感染者との濃厚接触、本人や家族への感染不安などの影響により、就業できない者が生じました。特に、クラスターが発生した高齢者施設等においては、各地で深刻な職員不足の事態が生じ、同一法人内での職員の確保、都道府県を通じた応援職員派遣、関係団体や近隣施設からの応援等が行われる事例が見られました。

(コラム「クラスター発生時における介護職員の応援派遣(香川県)」参照)。
このため、2020年度第2次補正予算も活用しつつ、地方自治体と関係団体が連携し、 応援体制の構築が図られました。福祉施設でクラスターが発生した時でもサービスを継続することは、利用者やその家族にとって極めて重要です。既に、高齢者や障害者の施設に関し、各都道府県で人材確保の応援の仕組みが構築されているが、いざという時に、こうした仕組みが適切に機能するよう具体的な備えをしておくことが必要です。

厚生労働省では、地域における様々な対応事例をもとに、ポイントや対応策の例、学びなどを示し、平時からの備えを促すほか、2021(令和3)年度の介護報酬改定と障害福祉サービス等報酬改定では、感染症や災害が発生した場合でも必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制の構築を目的の一つとして、それぞれ手当てがなされました。これらの報酬等を活用し、医療福祉人材の処遇改善等を図ることで人材確保を進めていくことも重要です。

(雇用と福祉の連携による離職者への介護・障害福祉分野への就職支援パッケージ)
このほか、離職した介護職員が介護の仕事に再就職することを支援するため、その準備費用を貸し付け、2年間介護職員として勤務した場合には返還を免除する取組みが行われました。さらに、他業種から介護・障害福祉分野へ就職した場合についても、2年間就労すれば返済が免除される新たな貸付金制度が創設されました。また、新型コロナウイルスの影響による離職者の再就職支援、介護・障害福祉分野における人材確保の双方を同時に促進するため、この新たな貸付金制度を活用しつつ、就職支援パッケージとして介護・障害福祉分野の研修を修了し、就職するまでの行程のサポートを総合的に実施しています。

□ 社会保障におけるデジタル技術の実装化
新型コロナ感染拡大防止の観点から、従来取り組まれてきたオンライン化の前倒し実施や拡充、また、対面形式で従来行われてきた手続やサービスへのオンライン化の導入な ど、今回、デジタル技術の実装化が進められました。 デジタル技術の活用は、人と人との接触回避が求められる局面での補完的な利用といった点だけでなく、利便性の向上やプッシュ型の情報提供、新たな人とのつながり等、積極的な意味でも、社会保障のアクセスや提供されるサービスの質的改善につながる側面を持つことが、様々な取組みによって明らかになってきています。感染拡大時の対応を超えて、平時における新たな価値創造という視点を持って、積極的な活用を図っていくことが求められます。

(オンライン診療とオンライン服薬指導については、今回の時限的な取扱いを踏まえて医療現場に定着すべき措置について検討が進められている)
オンライン診療については、安全性と信頼性をベースに、いわゆる「かかりつけの医師」によるオンライン診療を初診も含めて原則解禁とする方向で、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において検討が進められています。初診の取扱いなども含めた恒久化の内容について検討を行い、2021(令和3)年夏を目途にその骨格を取りまとめた上で、同年秋を目途に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改定する予定となっています。

また、オンライン服薬指導についても、オンライン診療の検討と同様に、新型コロナ感染拡大に際しての時限的措置の実績を踏まえ、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の一部改正法(2020(令和2)年9月1日施行)に基づくルールの見直しの検討を進めていくこととされています。 (行政手続におけるオンライン化もさらに進めていく) 個人や法人から国への申請手続などについては、オンライン化することが適当でない手 続又は費用対効果が見合わない手続を除き、原則オンライン化を実施するとの方針(デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月20日閣議決定))を受け、検討が進められて います。また、規制改革実施計画(令和2年7月17日閣議決定)において、事業者から要望の強いものなど優先度の高い手続について、それぞれの手続の実情を踏まえ、オンライン利用率を大胆に引き上げる目標を設定し、可及的速やかに取組みを行うべきとされていることを踏まえ、目標オンライン利用率及び当該利用率を達成するための取組みに関する 基本計画を策定しているところです。

こうした中で、例えば、子育てや介護分野における手続に関しては、原則、全自治体において、マイナンバーカードを用いたオンライン手続が可能となるよう、必要なシステム整備を行う自治体の財政支援のための基金が2020年度に創設されました。 2021年の通常国会に提出・成立したデジタル改革関連法には、本人の希望により、マイナポータル・金融機関からの口座登録ができるようにし、緊急時の給付金や児童手当な どの公金給付に、登録した口座の利用を可能とする措置が盛り込まれています。これが実現すれば、今般の臨時特別給付金のような給付などについても申請手続が簡素化され、迅速に支給が受けられるようになります。また、同法には、社会保障に関係する資格の登録や変更にマイナンバー制度を活用するための措置も盛り込まれ、申請手続の電子化、資格保有の電子的な証明、資格保有者の資質の向上、人材活用の促進等の効果が期待されるところです。

今後、マイナンバーカードが健康保険証としても利用できるようになり、特定健診や薬の情報がマイナポータルを介して提供されるようになることで、過去のデータを参照した診療や薬の処方が受けられるほか、転職や結婚の際に健康保険証の発行を待たずに受診が可能となる、窓口での限度額を超える医療費の一時支払いが不要になるなど、手続や時間が効率化され、より一人一人に合った医療の提供等の効果が期待される状況です。

加えて、日本年金機構では、新型コロナ感染拡大を契機として、来訪・訪問型のビジネスモデルからオンライン環境でも対応が可能となるようなビジネスモデルを実現していくため、サービスのオンライン化やチャネルの多様化を進めています。具体的には、事業所向けの電子申請の環境整備や利用促進の取組みの更なる推進や、国民から照会が多い項目についてのホームページ内におけるチャットボットの開設、オンラインによる年金セミナー等を実施したほか、事業所に対する各種情報のオンラインでの提供サービスや、国民年金の保険料免除手続の電子化等について検討を進めています。

(オンライン化を余儀なくされた現場では、対面の代替にとどまらない新たな有効性が見出された)
今回の新型コロナ感染拡大期の対応に関連して、子育てひろば全国連絡協議会が地域子 育て支援拠点・子育てひろばに対するアンケート調査を行ったところ*21、回答のあった拠点のうち、閉所や利用人数の制限を行った拠点が8割を超えた中で、会議や打合せなど業務でオンライン会議システムを使用した拠点、利用者との間でオンライン会議システムを利用した拠点は、それぞれ6割を超えていました。

アンケート結果では、オンライン会議システムを活用した拠点のほとんどが利用のメリットを感じており、自粛期間終了後もその8割が活用を継続すると回答しているなど、これまで利用されていなかったオンラインというコミュニケーションを余儀なくされる中で、支援の現場では、単に対面の代替にとどまらない新たな有効性が見出されていることがうかがえます。

(デジタル化の一方で「誰もが取り残されない」支援も必要)
デジタル技術を実装化していくに当たっては、取り残される者が生じないように配慮することが必要です。内閣府が行った調査によると、2020年12月時点における本人の年収別のテレワーク 実施率は、年収に比例して高くなっています。

(テレワーク実施率)
また、子どもの学校休業期 間中の学習状況に関する別の調査*22では、所得が高い世帯ほど学校のオンライン授業を受けている割合や外部のオンライン学習コンテンツを活用している割合が高いことも指摘されています。

加えて、内閣府の同調査では、2020年5~6月において、60歳以上の5割がビデオ通 話を利用したことがあると回答した一方で、「関心はあるが、パソコン・スマホ等の使い方が分からず利用しない」と1割の者が回答しています。

デジタル技術の習得には、パソコンやタブレットに初めて触れる段階から、SNSやビ デオ通話が利用できるようになる段階、各種申請をオンラインで行えるようになる段階、 テレワークにより在宅で子育てと両立できるようになる段階など、様々なステップがあります。こうしたステップに合わせて適切な支援策を考えていくことが重要であるが、特にデジタル環境が整っていない、あるいはデジタル技術に十分馴染めていないという場合には、そもそもデジタル化の恩恵を受けることができないということに留意しなければなりません。

こうした観点から、デジタル化を進めるに当たっては、「誰もが取り残されない」支援を行っていくことが必要です。 例えば、コラムに取り上げられている松戸市の事例では、介護予防活動に取り組んでいる団体のメンバーにタブレットを無償貸与し、まずはタブレットに馴染みの薄い高齢者でもスムーズにコミュニケーションがとれるよう、使い方などを体験してもらう講習会の開催から始めている事例が目を引きます。

総務省では、高齢者、障害者等が身近な場所で、心理的に身近な人からデジタル活用を学べるようにするため、民間企業や地方公共団体等と連携したオンラインによる行政手続やサービスの利用方法等に関する助言・相談等の支援を、デジタル活用支援員を通じて2021年度から全国で本格実施することとしています。

また、経済的事情を抱える子育て家庭では、オンライン学習の環境が整っていない場合があります。こうした家庭の子どもたちに対し、クラウドファンディングの活用等により、 NPOがパソコンやWi-Fiを無償で貸与しつつオンラインで学習支援を行うなどの取組み も見られるようになっているほか、文部科学省では、高校生等がいる低所得世帯を対象に 支援を行う高校生等奨学給付金事業*23において、オンライン学習に必要な通信費相当額 を増額して給付することとされており、こうした官民の支援の動きをさらに進めていくことが重要になっています。
(つづく)Y.H

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