実践編・応用編

性による偏りが生じない社会づくり | テクノファ

投稿日:2022年2月13日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。

■  性差によって負担に偏りが生じない社会づくり
(世界的に見ても女性への育児・家事等の負担の増加という傾向が見られる)
2020(令和2)年4月、国際連合は、新型コロナウイルス感染症が及ぼす悪影響は、 健康から経済、安全、社会保障に至るまでのあらゆる領域において、女性及び女児にとって大きくなっているとして、「新型コロナウイルスの女性への影響」と題する政策提言 (以下、この項において「国連政策提言」という。)を行いました。

(女性への影響に関する国連の政策提言)
国連政策提言では、子どもたちが学校に通えず、高齢者に対するケアの必要性が高まり、医療サービスが逼迫する中で、無償ケア労働の需要が急激に高まり、その無償ケア労働の需要の増加が、既存の性別役割分担における不平等を深めていると指摘しています。

(無償ケア労働の増加した者の割合)
また、2020年11月にUN Women(国際女性機関)が公表した報告書*30によれば、 新型コロナウイルス感染症の影響下において費やす時間が増加したとの回答は、料理や掃除・洗濯、子どもの身の回りの世話などにおいて、女性の方が男性よりも高い割合となっています。以上のように、世界的にも、新型コロナ感染拡大により、男女間の無償ケア労働の負担の偏りが、さらに深まる傾向にあることがうかがえます。

(元々、育児・家事等に対する女性の負担が大きい中で、休校などが大きく影響)
元々、我が国では、意識の面でも実態としても、性別役割分担の度合いが他の主要先進国と比べて強いとされますが、女性の育児・家事等の負担が大きい中で、2020年4~5月の緊急事態宣言下における学校等の一斉休業やテレワークなどの在宅生活への移行は、男性よりも女性に多くの育児・家事等の時間の増加をもたらすこととなりました。また、内閣府の調査*31の個票データを用いて行った分析によると、18歳未満の子どもを持つ就業者について、新型コロナ感染拡大前と感染拡大後の子育てのしやすさ満足度を比較すると、「高位」と評価される割合は、感染拡大前では女性が男性よりも高いが、感染拡大後では女性の減少幅が大きく、男女同程度となっています。

(18歳未満の子を持つ就業者の感染拡大前・感染拡大後の子育てのしやすさ満足度)
一方、「低位」と評価される割合は、感染拡大前では男女同程度となっていますが、感染拡大後では女性の方が大きく増加し、女性の方が男性よりも高くなっています。

(家族と過ごす時間の変化と満足度低下幅)
男性の場合は、家族と過ごす時間が増加したことがプラスに働き、子育てのしやすさ満足度も生活全体の満足度も低下幅が抑えられた一方、女性の場合は、家族と過ごす時間が増加したことがマイナスに作用し、子育てのしやすさ満足度も生活全体の満足度も低下幅が大きいという結果をもたらしていると考えられます。

(18歳未満の子を持つ働く女性の感染拡大前・感染拡大後の子育てのしやすさ満足度)
また、新型コロナ感染拡大の前後における女性の子育てのしやすさ満足度を所得階層別に比較すると、全ての階層において、感染拡大後の「低位」と評価される割合が感染拡大前の2~3倍に上昇しており、新型コロナ感染拡大の影響は、所得階層にかかわらず及んでいることがわかります。
*31 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月21日)

(今回、失業・休業の影響を強く受けているのは、人と接触する機会が多く、女性の非正 規雇用の割合が高い業種)
国連政策提言では、一般的に収入や貯蓄が少なく、不安定な仕事に就いていたり、貧困に近い生活をしていたりすることの多い女性にとって、経済的な影響は増幅したものになると指摘しています。

我が国において、新型コロナウイルス感染症の影響下で非正規雇用労働者が大きく減少した「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「小売業」などは、人と接触する機会が多い業種であり、感染拡大防止のために求められた「ステイホーム」や「非接触」の影響を受けることとなりました。これらの業種では、非正規雇用労働者の中でもパート・アルバイトの女性割合が高いことから、結果として、今般の新型コロナ感染拡大は、これらの業種で就労する女性に大きな影響をもたらす結果となったわけです。また、営業時間の短縮等を行う場合、契約社員や派遣社員と比較すれば、部分就業をしている者が多いパート・アルバイトの方が相対的に雇用が失われやすいと考えられ、今般の女性の非正規雇用労働者の大きな減少の一因になっている可能性があります。

(育児・家事負担の増加に加えて、経済的な悪影響が重なった低所得の子育て世帯には、給付金の支給などの支援が行われた)
新型コロナ感染拡大の影響は全ての所得階層に及んでいるが、年収200万円未満の層は、新型コロナ感染拡大前から子育てのしやすさ満足度において「低位」と評価される割合が他の所得階層と比べて高く、感染拡大後には約4割の水準となっています。 また、新型コロナ感染拡大のひとり親家庭への影響を見ますと、 2020年末に向けての暮らし向きが「苦しい」と回答した者が、ひとり親以外と比べて多い結果になっています。

以上のように、特に女性の低所得層においては、育児・家事負担の増加に加えて、元々経済的に厳しい状況にある中で経済的な悪影響が重なり、大きなダメージを受けたことがうかがえます。

今回の新型コロナ感染拡大への対応として、低所得の子育て世帯に対し、ひとり親世帯 臨時特別給付金など様々な経済的支援が実施されてきましたが、2021(令和3)年3月には 「非正規雇用労働者等に対する緊急支援策」の一環として、低所得の子育て世帯に対する新たな給付金の支給や、低所得のひとり親世帯に対する住居借り上げのための償還免除付貸付制度の創設などが盛り込まれました。

(潜在的に就業を希望する女性非労働力人口等に対するきめ細かな支援の実施)
我が国は2008(平成20)年をピークに人口が減少に転じており、今後、特に生産年齢人口の急速な減少が進んでいく中で、経済・社会の両面から、「担い手」の減少という構造的な問題に直面しています。この問題に対応すべく、女性の活躍推進や高齢者の就労促進等に関する各種施策が推進され、女性や高齢者を中心に就業率は上昇し、近年では就業者 数も増加傾向に転じていました。

(非労働力人口のうち就業希望者と就業非希望者の動向)
しかし、新型コロナ感染拡大の影響により、長期的に減少傾向にあった非労働力人口が 2020年4月に前月差86万人の増加となりました。その7割以上は女性であるほか、2020年 4-6月期以降の非労働力人口の動向を見ると、就業を希望する者の減少も就業を希望しない者の増加も女性において顕著となっています。 加えて、就業を希望していても「適当な仕事がありそうにない」ことを理由に求職活動を行っていない者(いわゆる「ディスカレッジド・ワーカー(discouraged worker)」) は、2020年4-6月期に前年同期差11万人増加(男性5万人増加、女性6万人増加)となっています。

(非求職理由別の就業希望する非労働力人口の動向)
特に「今の景気や季節では仕事がありそうにない」ことを理由としている者は、2020年4-6月期以降、男女とも増加傾向にあるが、特に女性は男性に比べ大きな増加幅で推移しています。

我が国が長期的には生産年齢人口の急速な減少による労働供給制約といった構造的課題を抱えていることを踏まえれば、労働参加を潜在的に望んでいるものの、新型コロナウイルス感染症の影響下における景況感から求職活動を控えている女性等が、今後求職活動を 再開した際には、早期再就職に向けて、きめ細かな支援を実施することが重要となります。

このため、マザーズハローワーク等における子育て中の女性等を対象とした担当者制による職業相談・職業紹介等の支援や、就職に役立つ公的職業訓練の訓練期間や訓練内容の多様化・柔軟化、子育て中の女性等が仕事と家庭の両立を図りやすいテレワークが可能な求人開拓など、女性求職者等の様々なニーズを踏まえた支援にしっかりと取り組んでいくこととしています。

(ステイホームにより、ストレス・不安が増加した中、相談できずに孤立化が生じている)
国連政策提言では、移動の制限や社会的隔離施策と相まって、ジェンダーに基づく暴力が急激に増えており、多くの女性が加害者とともに家庭での「ロックダウン(都市封鎖)」 を強いられていることに加えて、被害者を支援するサービスが中断されたり利用できなくなっていると指摘されています。

新型コロナ感染拡大に伴う外出の自粛や経済的な不平等により、家庭内でのストレスが高まり、時に男性のストレスの捌け口は女性に向けられる場合があります。

我が国においても、2020年4月~2021年3月のDV(ドメスティック・バイオレンス)の相談件数は、 前年同月を大きく上回っており、配偶者暴⼒被害者等への相談・支援の 強化が図られています。

また、家族以外で気軽に会話や相談する相手が少なく、孤立している場合があるが、上記のようなステイホームにおける心身の不調から、誰にも救いを求めることができずに自殺という結果に行き着いてしまう危険性もあります。原因については丁寧な分析が必要でありますが、女性の自殺者数が2020年6月以降7カ月連続で対前年同月を上回っていることは、深刻な問題として受け止める必要があると思います。

(男女の固定的役割分担の見直しは、社会全体で取り組む必要がある)
国連政策提言では、新型コロナ感染拡大が、既存の不平等を増幅させ、深刻化させており、この地球規模の危機に対して、社会全体での対応が求められていると結論づけています。特に、新型コロナ感染拡大が続く中での日常生活や経済活動の維持は、無償ケア労働の上に成り立っていること、感染拡大に対応するために無償ケア労働の需要と負荷が高まっていること、性別役割分担によって不平等が高まり、ひずみが大きくなっていることへの対応が急がれることが指摘されています。

その一方で、今般の新型コロナウイルス感染症の影響下における在宅勤務の増加などに伴い、男性の家事・育児時間が増える変化も現れており、こうした動きを促進し、性差によって負担に偏りがある状態を改善する政策的な対応が重要です。

(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用 保険法の一部を改正する法律の概要)
2021年の通常国会においては、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設等を内容とする「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」を提出し、同年6月に成立しました。

性差によって負担に偏りが生じない社会づくりに向けて、今般の新型コロナ感染拡大を契機とし、より一層の意識改革とともに、働き方改革など様々な政策的対応を進めていく必要があります。

■ 孤独・孤立を防ぎ、つながり・支え合うための新たなアプローチ
(新型コロナ感染拡大により、つながることの重要性が再認識された)
新型コロナ感染拡大により、「会う」「集う」といった、人と人との「つながり」を保つために大切な手段が制限され、様々な人の孤独・孤立が深刻化する中で、生きづらさ、様々な悩みを抱える人への支援とともに、「つながり」をいかにして再構築していくのか。そのことの重要性が、改めて強く認識されることとなりました。

第1章で見たように、通所系サービスや通いの場に集うというかたちが難しくなった高齢者や障害者に対しては、訪問や電話による代替サービスや、見守り等、オンラインを活用した交流や活動の継続など、非接触を保ちながらつながりを確保しようとする取組みが行われています。また、地域包括支援センターや社会福祉協議会等による一人暮らし高齢者への見守り強化に向けて、各自治体における取組事例の横展開等が図られています。

さらに、子ども食堂の休止に対応するため、子ども食堂や子どもに対する宅食等の支援を行う団体が、子どもの居宅を訪問して、食事の提供などとともに子どもの状況を把握して見守りを行ったり、生活困窮者の支援団体が住まいを失った者に対し、入居から見守りまで一貫した居住支援を行うなど、様々な形で孤立を防ぎ、つながりを切らないための取組みも行われています。こうした活動を支援するため、行政のみならず、インターネット上で賛同者から資金を集めるクラウド・ファンディングなどの民間の取組みも見られるようになっています。

(日頃からの取組みと地域課題の把握・共有を基盤として、危機の時にこそ支え合うレジリエンスの高い地域づくりが必要)
新型コロナウイルス感染症の影響下において困窮する者の中には、個人あるいは世帯で様々な分野にわたる課題を抱え、複合的な支援を必要としている場合があります。こうしたケースでは、経済的支援だけでは十分ではなく、生活、住まい、医療、就労、教育など様々な側面からの総合的な相談・支援を行う体制が必要となります。

(市町村の重層的な支援体制の構築の支援)
国としても、地域住民が抱える複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築するため、相談支援(アウトリーチを含む包括的相談支援)、参加支援(地域資源を有効活用し狭間のニーズへも対応)、地域づくりに向けた支援(住民同士の顔の見える関係性の育成支援)に一体的に取り組む自治体への支援を行っており、つながりを保ちながら多機関協働による伴走型支援の実現を目指しています。

新たな感染症の感染拡大だけでなく、大規模な災害や経済危機など、私たちの生活の安定を脅かす危機は今後も起こり得るものです。こうした事態に備えて、日頃からの取組みと地域課題の把握・共有を基盤とし、危機の時にこそ支え合うレジリエンスの高い地域づくりを進めていかなければなりません。どんな厳しい困難を抱えたときでも、孤立せず、安心してその人らしい生活を送ることができる地域社会こそが、私たちが目指す地域共生社会であり、私たちの安心の基盤となるものだからです。

(孤独・孤立対策の推進)
2021(令和3)年2月、我が国で初めて「孤独・孤立対策担当大臣」が指名され、その下で内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置されました。

(緊急フォーラム参加者メッセージ集)
続いて、「孤独・孤立を防ぎ、不安に寄り添い、つながるための緊急フォーラム」が開催され、「つながりを切らないために、感染防止に配慮した形でつながりの活動を展開していくことが大切である」、「躊躇せずに、悩みを相談してほしい」などのメッセージが発出されました。

3月には官房長官、同担当大臣、関係省庁副大臣出席の下、「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」が開催され、本連絡調整会議の下、「ソーシャルメディアの活用」、「実態 把握」、「NPO等の団体の連携支援」の3つのテーマに関するタスクフォースが設けられました。

相談支援団体や全国的な団体を含む生活困窮者等への支援団体に対する緊急支援策が取りまとめられたほか、今後、孤独・孤立の実態把握、「つながり」による予防、相談などの孤独・孤立に陥った者への支援、支援情報の提供など、孤独・孤立防止対策を取りまとめていくこととしています。
(つづく)Y.H

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