実践編・応用編

児童虐待の現状 | テクノファ

投稿日:2022年2月19日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。

〇 児童虐待防止対策、社会的養護の充実、女性保護施策の推進
■ 児童虐待防止対策の取組みの推進
□ 児童虐待の現状 児童虐待への対応については、これまで、「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)の累次の改正や、民法などの改正により、制度的な充実が図られてきました。一方で、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は一貫して増加し、2019(令和元)年度には児童虐待防止法制定直前の約17倍に当たる19万3,780件となっています。子どもの生命が奪われるなど重大な児童虐待事件も後を絶たず、児童虐待の防止は社会全体で取り組むべき重要な課題です。

□ 児童虐待防止対策の取組み状況
①児童福祉法等の改正について
上記のように、児童虐待相談対応件数の増加や、東京都目黒区で発生した児童虐待事案等を受けて、2018(平成30)年6月15日に「児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議」を開催し、安倍総理から、子どもの命を守ることを何より第一に据え、全ての行政機関が、あらゆる手段を尽くすよう、緊急に対策を講じることについて指示がありました。

この指示を受け、対応策を検討し、同年7月20日に同関係閣僚会議において、「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」を決定しました。同対策においては、転居した場合の児童相談所間における引継ぎルールを見直し・徹底すること、「児童相談所強化プラン」を 前倒して見直すこと等としているほか、相談窓口の周知、より効果的・効率的な役割分担・情報共有、適切な一時保護、保護された子供の受け皿確保などを講じることとしています。

さらに、同対策に基づき、同年12月18日に、児童虐待防止対策体制総合強化プラン (新プラン)を決定し、児童相談所及び市町村の体制強化に向けて、2022(令和4)年度までに、児童福祉司を約2,000人増加させることや市区町村子ども家庭総合支援拠点を全市町村に設置すること等としています。なお、児童福祉司に関する目標については、1年前倒しを行い、2021(令和3)年度に約5,260人の体制となることを目指します。

また、2019(平成31)年2月には、千葉県野田市で発生した事案を受けて、関係閣僚会議を開催し、通告元の秘匿や関係機関の連携等に関する新ルールを設置することを内容とする「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」の更なる徹底・強化について」を決定しました。
(児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律)
同年3月には、関係閣僚会議において「児童虐待防止対策の抜本的強化について」を決定し、2019(令和元)年6月には、体罰禁止の法定化、児童相談所における一時保護等を行う「介入」の担当者と「保護者支援」の担当者の分離、児童相談所における弁護士等の配置促進、DV対策との連携強化を内容とする「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」(令和元年法律第46号)が成立し、一部の規定を除いて2020(令和2)年4月1日に施行しました)。これらの対策に基づき、財政的な措置が必要なものについては、引き続き地方交付税措置を含め予算編成過程において検討をするとともに、制度的な対応が必要な事項についても検討し、所要の措置を講じていくこととしています。

②児童相談所全国共通ダイヤルについて児童虐待を受けたと思われる子どもを見つけた時などに、ためらわずに児童相談所に通告・相談ができるように、2015(平成27)年7月1日から、児童相談所全国共通ダイヤルについて、これまでの10桁番号から3桁番号「189(いちはやく)」を運用しています。さらに、児童相談所につながるまでの時間短縮を進めるため、2016(平成28)年4月に音声ガイダンスの短縮や、2018年2月に携帯電話等からの入電についてコールセンター方式を導入しました。また、2019年12月には、「児童相談所全国共通ダイヤル」を「児童相談所虐待対応ダイヤル」と名称を変更し、相談については「児童相談所相談専用ダイヤル」(0570-783-189)を開設しました。「児童相談所虐待対応ダイヤル」については、通話料の無料化を行い、利便性の向上を図りました。
令和2年度第3次補正予算では児童相談所に相談しやすい環境整備を進めるため、「児童相談所相談専用ダイヤル」についての無料化や、SNSによる全国共通のアカウントの開設を進めるための費用を計上しました。

③児童虐待による死亡事例等の検証について
児童虐待による死亡事例等について、2004(平成16)年度より、社会保障審議会児童部会の下に設置されている「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」において、児童虐待による死亡事例等について分析・検証し、事例から明らかとなった問題点、 課題に対する具体的な対応策を提言として取りまとめており、2020年9月には、「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)」を取りまとめました。
第16次報告においては、心中以外の虐待死(51例・54人)では、0歳児死亡が最も多く(40.7%)、うち月齢0か月が31.8%を占めました。妊娠期・周産期における問題として「遺棄」、「予期しない妊娠/計画していない妊娠」、「妊婦健診未受診」が高い割合を占めること等が特徴として挙げられました。

④新型コロナウイルス感染症流行下での児童虐待防止対策
新型コロナウイルス感染症の影響により、子どもの見守りの機会が減少し、児童虐待リスクが高まっていることから、民間団体等にも協力を求め、様々な地域のネットワークを総動員して、地域の見守り体制を強化することが必要です。そのため、2020年4月に子どもの見守り強化アクションプランを策定し、さらに、子ども食堂等の支援を行う民間団体等が、支援を必要とする子ども等の居宅を訪問するなどして、状況の把握や食事の提供等を通じた見守り体制の強化を図っています。

□ 児童虐待防止に向けた広報啓発の取組み
2004(平成16)年から、毎年11月を「児童虐待防止 推進月間」と位置付け、月間中、関係府省庁や、地方公共 団体、関係団体等と連携した集中的な広報・啓発活動を実施し、児童虐待は社会全体で解決すべき問題であることを周知・啓発しています。また、児童虐待防止の啓発を図ることを目的に民間団体(認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク)が中心となって実施している「オレンジリボン運動」を後援しています。

2020(令和2)年度においては、「189(いちはやく) 知らせて守る こどもの未来」を月間標語として決定し、広報用ポスター、リーフレット等に掲載して配布したほか、「子どもの虐待防止推進全国フォーラム(オンライン)」や政府広報等により、児童虐待防止に向けた広報啓発に取り組みました。

■ 社会的養育の充実
□ 社会的養育の基本的方向
2016(平成28)年通常国会において成立した改正児童福祉法において、
・国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければなりません。
・ただし、児童及びその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案し、児童を家庭において養育することが困難であり、又は適当でない場合にあっては、児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう、必要な措置を講じなければなりません。
・ 児童を家庭及び家庭における養育環境と同様の養育環境において養育することが適当でない場合にあっては、児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければなりません。
と規定されたことを踏まえ、養子縁組や里親・ファミリーホームによる家庭養育の推進等を図るとともに、児童養護施設等の施設についても小規模化や地域分散化を図ることとしています。

□ 家庭養育の推進
社会的養護が必要な子どもは、温かく安定した環境で養育されることが望ましく、特に乳幼児期は、安定した養育環境の中で愛着関係の基礎が作られるべき大切な時期であり、子どもの最善の利益を考えれば、できる限り家庭における養育環境と同様の環境で育つことが、子どもの心身の健やかな成長、発達が図られる上で非常に重要であります。
このため、改正児童福祉法においては、都道府県(児童相談所)の業務として、里親の開拓から児童の自立支援までの一貫した里親支援や、養子縁組に関する相談・支援が位置づけられました。また、養子縁組里親を法定化するとともに、養育の質について全国的に一定の水準を確保するため、研修の義務化や欠格要件、都道府県知事による名簿の作成についても、新たに法律に規定されました。

厚生労働省としては、家庭と同様の環境における養育を推進するため、「概ね7年以内(3歳未満は概ね5年以内)に乳幼児の里親等委託率75%以上」、「概ね10年以内に学童期以降の里親等委託率50%以上」の実現に向けて、取組を推進することとしているほか、各自治体(都道府県、指定都市、児童相談所設置市)においては、「都道府県社会的養育推進計画」を策定し、計画的に取組を進めていることとしており、2020(令和2)年度より、全ての自治体において、計画に基づく里親委託等の推進に関する取組が開始されているところです。
また、里親制度の普及促進による新規里親の開拓、里親と児童とのマッチング、委託児童に係る自立支援計画策定、 委託後の相談支援等及び養子縁組に関する相談・支援を行う「里親養育包括支援(フォスタリング)事業」を実施しているほか、フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)の普及などによる里親支援体制の構築に取り組んでいます。

里親・ファミリーホームへの委託を推進するため、毎年10月を「里親月間」と位置付け、広報用ポスター、リーフレットの作成・配布や政府広報(SNS、新聞、インターネット)などにより、地方公共団体や関係団体などと連携した集中的な広報・啓発活動を実施しています*1。
併せて、特別養子縁組制度についても広報用ポスター、リーフレットを作成し、産科医療機関への掲示を行うなど、地方公共団体や関係団体などと連携し、制度の普及啓発に取り組んでいます*2。
*1 厚生労働省ホームページ「里親制度等について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/02.html
*2 厚生労働省ホームページ「特別養子縁組制度について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

特別養子制度の利用を促進するため、特別養子縁組の年齢要件の見直し(原則6歳未満から15歳未満に引上げ) や二段階手続・児童相談所長の審判への関与の導入等を盛り込んだ民法等の一部を改正する法律(令和元年法律第 34号)が2019(令和元)年6月に成立し、2020年4月1日より施行されています。
また、民間あっせん機関による養子縁組あっせんに係る 児童の保護等に関する法律(平成28年法律第110号)に 基づき、養子縁組あっせん事業の適正化に取り組むとともに、児童相談所等の関係機関との連携体制を構築し、養親希望者等の負担を軽減するなど、養子縁組民間あっせん機関が行う先駆的な取組みへの支援等を拡充することにより、適正な養子縁組のあっせんを促進しています。

一方、施設では、ケア形態の小規模化を図るため、児童養護施設、乳児院、児童心理治療施設及び児童自立支援施設を対象とした小規模グループケアの実施や、地域小規模児童養護施設の設置を進めています。
□ 施設を退所した子どもの自立支援策の拡充
社会的養護の下で育った子どもは、施設等を退所し自立するに当たり、保護者等から支援を受けられない場合が多く、その結果様々な困難に直面することが多いことから、個々の児童の状況に応じた支援を実施し、将来の自立に結びつけることが重要です。

このため、児童養護施設等を退所し、就職や進学する者等の安定した生活基盤を築き、円滑な自立を実現するため、家賃相当額や生活費の貸付及び児童養護施設等に入所中の子ども等を対象に、就職に必要な各種資格を取得するための経費について貸付を行い、就業継続等の条件により返還を免除する「児童養護施設退所者等に対する自立支援資金貸付事業」を実施しています。
また、20歳到達後から22歳の年度末までの間における大学就学中の自立援助ホーム入居者への支援に要する費用について補助を行う「就学者自立生活援助事業」を実施するとともに、施設を退所した若者などに対し日常生活上の援助や就業支援を行う自立援助ホーム入居者のうち、大学等就学中の者以外の引き続き支援が必要な者、及び里親等への委託や、児童養護施設等への施設入所措置を受けていたが18歳(措置延長の場合は20歳)到達により措置解除された者について、原則22歳の年度末まで、引き続き必要な支援を受けることができる「社会的養護自立支援事業」を実施しています。
(つづく)Y.H

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