基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 143 | テクノファ

投稿日:2022年3月7日 更新日:

私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認証を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャイン博士が2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
もし,あなたが文化に関するデータの解釈に,研究対象者との会話が必要とされることを理解したときには,構造化されたインタビュー(semi structuredinterview),投影検査法(projective test),あるいは標準化されたアセスメントのため状況(standardized assessment situation)を活用することが可能だ。しかしこれらの方法においても,あなたが合意された範囲を越えて彼らのシステムに介入し過ぎているのではないかという倫理上の問題の発生は避けられない。

インタビューにおいては,次のような広範な質問をすることが可能だ。

表 組織のリサーチのカテゴリー
・この組織に就職したときにどのように感じたか?
・同僚とうまく仕事を進めていくうえで何がもっとも大切だと感じたか?
・上司はその期待をどのように伝えているか?

上記の方法に伴う大きな問題は,きわめて時間がかかるという点,さらに各人がたとえ同じ言葉を使っていても,それぞれがものごとをさまざまな見方で見ていることから,それぞれから集めたデータをひとつのまとまった姿にまとめることが難しいという点だ。
ここで記憶しておくべき重要な点は,個人ごとの調査やインタビューの反応をまとめた抽象的な「スコア」を解釈したとしても,なおあなたは,実際にそこで進行している文化のダイナミックスの表層の理解に留まっているにすぎないという点だ。このレベルの理解でも数多くの組織を単に比較する場合には十分であるかも知れない。しかしある程度の深さでひとつの組織を理解しようとする場合には,これらはほとんど役に立たない。たとえばDEC,ヒューレット・パッカード社(HP),アップル社(Apple)は,文化のサーベイによればきわめて似通っているように見えるかも知れない。つまりこれらの企業は非常に権限分散が進み,イノベーティブで,従業員を大切にしており,建設的で,自己実現を促していると映る。しかし基本的な前提認識のレベルでは全く異なっているのだ。たとえばDECでは,すべてについて闘い抜き,「正しいことを遂行する」ことに各個人が責任を負っている。HPでは公にはほかの人たちに親切に振る舞うことが求められてはいるけれども,ものごとを成し遂げるためには競争と政治のためのスキルを身につけることが求められている。アップルでは,企業というよりは個別のプロジェクトに帰属し,「自分の信ずることを遂行する」自由が認められている。

さらに重要な点として,これらの3つの企業は,測定することは不可能であるにしてもそれぞれの文化に定着した,全く異なった戦略を築いているという点だ。DECはミニコンピューターの進化に沿って,コンピューティングのための新しい概念を生みだしてきた。HPはのちにコンピューターの分野に進んだ計測機器製造企業であったが,最終的にはアジレント社(Agilent)とHPに分割されたふたつの主要なサブカルチャーを生みだしてきた。アップルはその誕生時には,学校の生徒に対する簡単なコンピューティングのモデルと「ヤッピー」向けの「楽しさ」を提供するモデルを生みだすことに努めていた一方,政府機関や大企業に対するマーケティングは極力敬遠していた。戦略に見られる,このような文化的な差異は,今日のHPとアップルでも発見できる。つまりシニア経営陣のグループ間の交流に観察されるマーケティングのスタイルや製品のセットにおける両社間の差異にこれを見いだすことができる。さらにチバ・ガイギー社(Ciba-Geigy)における科学とテクノロジーに対する過剰とも言える偏重は,エアウィック社(Airwick)に対するチバ・ガイギーの反応においてはじめて明らかになっている。

ここで研究者としてのあなたにとっての課題は,深いところにある文化の前提認識が表出する,このグループ固有のレベルにどのようにアクセスできるのかという課題となる。この問いに対する答えは,組織にとって何らかの利益がもたらされるという期待から,その組織が自らを表出してくれるようにその組織をモティベー卜しなければならないという点に求められる。ここでわれわれは表11-2の最後のライン,つまりアクションリサーチと臨床的リサーチ(clinical research)に到達する。このアクションリサーチ法では,研究対象となっている組織メンバーがデータの収集,とくに発見されたことの解釈のプロセスに参画することが想定されている。もしそのプロジェクトの目的が研究者が妥当なデータを集めることを支援することに求められる場合には,この「アクションリサーチ」という呼び名は妥当なものと言える。しかしこのプロジェクトが,その組織がある問題を解決するためにはじめられるものである場合には,表11-2の右側の最下部の,私が「臨床的リサーチまたは探究」と名付けた方法に移行すべきであろう(Schein,1987a,2001,2008)。

(1)臨床的リサーチ:コンサルタント/支援者の役割からの文化の解読
表11-2の下段右側の部分は,もしあなたが文化の深いレベルと文化のパターンに到達したいと考えている場合には,その文化の解読にとってもっとも適切であると私が考えている方法となる。このレベルの分析は,その組織があなたから何らかの支援を必要としているとき,またはその組織が変革を進めるために自分自身をさらによく理解することをあなたが支援しているときに達成が可能となる。その文化に対するあなたの深い洞察は,組織に対するあなたからの支援の副産物となるのだ。

私がさまざまな組織における文化の前提認識に関してここまでに提供してきた情報のほとんどは,これらの組織に対する私自身のコンサルティングの副産物として集められたものだ。この分析モデルに伴うきわめて特徴的な点は,これらのデータが組織のメンバーから自発的にもたらされたという点だ。何故ならメンバーたちがそのプロセスを開始し,その過程で彼らの姿をアウトサイダーであるあなたに対して提示することによって何らかの利益を得られたからであり,ないしはあなたがそのプロジェクトを開始し,彼らがあなたに協力することを通じて何らかの利益が得られると感じたからにほかならない。言い換えると,いかにその接触が開始されたにせよ,文化に関するベストのデータはその組織のメンバーがあなたから何らかの支援を受けていると感じているときに明らかに表明されるのだ。

もしあなたがエスノグラファー/リサーチャーである場合には,あなたが本当にその組織に対して何を提供できるのか,またその組織が何らか利益を受け,最終的にはあなたのクライアントになるという心理的な契約に向けて努力しているのか,といった点を注意深く検討しなければならない。このような考え方では,そのプロジェクトの最初から,あなたの存在そのものが組織にとって介入を意味するし,さらにあなたの目標は,あなたの介入を組織にとって有益なものにすることだ,ということをしっかり自覚することが求められるのだ。

数多くのエスノグラファーは,彼らが何らかの方法で組織メンバーに有用な存在となるまではいかに彼らがその組織に「受けいれられない」存在であったかについての数多くの逸話を語ってくれている。つまり達成する必要がある仕事をこなすか,何らかのほかの方法で組織に貢献するか,のいずれかによって組織に受容されるまでのストーリーである(Van Maanen,1979a;Barle,1988;Kunda,1992)。この種の貢献には研究対象のグループの仕事に全く関係のない,完全に象徴的な貢献も含まれる。たとえば,クンダがDECのエンジニアリング部内と一緒に仕事をしたときに,彼はそのグループを研究することに「承認を受けて」はいたけれども,なおそのメンバーたちは彼に対してきわめて疎遠に振る舞い,そのグループの慣習や出来事が一体何を意味するのかを尋ねることを難しくしていた。しかしクンダはきわめてすぐれたサッカープレイヤーであったので,昼休みのゲームに参加することを求められた。彼はある日,彼のティームに得点をもたらした。その日以降彼のグループとの関係は完全に違ったものになった。つまり彼は突然,そのグループの「内側」の,そのグループに「属する」メンバーとして認められ,それまでは立ち入ることを許されなかったさまざまな課題について尋ねることが可能となったのだ。

Barley(1988)は,ある病院の放射線科にコンピューターを活用したⅩ線断層撮影機器を導入するための研究において,彼自身その研究ティームのメンバーとして参画したが,その設定の仕事の完成に彼が貢献した度合に応じて彼はティームのメンバーとして許容され,受け入れられた。ここで重要なポイントは,組織に接触する際には単にデーター収集の目的に留らず,支援の姿勢を示すべきだ,という点だ。

上記とはやや違ったケースとして,コンサルタントが組織のある種の問題,つまり当初は文化とは何の関係もないように見える問題の解決を支援するために招かれるようなケースが挙げられる。この問題に取り組む過程でそのコンサルタントは文化に関連する情報を発見することもある。とくにプロセス・コンサルテーション・モデル,つまり探究およびその組織の自助努力への支援が強調されるモデルが活用されたようなケースにおいてだ。

もしあなたが支援者の役割を担っているときには,文化の分析に直接的に結びつく,あらゆる種類の質問をする権利が付与される。同時に研究のフォーカスを開発することも許される。あなた自身と「クライアント」は,問題解決プロセスに協力して取り組むこととなり,適切なデータを求めることが両者の責任となる。その結果,クライアントが情報を隠したり,大げさに表現したり,うっぷん晴らしをするのではなく,その組織で本当に何が進行しているかを語ることに意義を感ずるようになる。さらにあなたは,情報をフォローアップし,さらに質問し,もしあるメンバーが情報を隠していると感じたときにその人物に挑戦する権利が付与される。

この臨床的な支援者の役割のなかでは,クライアントの具体的な問題を巡って表出するデータに限定されるわけではない。通常,その場に留まり,何かほかのことが進行しているのではないかを観察する機会が数多く生まれてくる。その結果あなたは,臨床的モデルと参加型観察者のエスノグラフィー型モデルの両方から得られるベストの要素のいくつかを,結びつけることが可能となる。実際にエスノグラファーが支援者と認識されるときのモデルと,上記の支援者モデルは収れんし,全く同一のものになる。

(2)臨床的に集められたデータはどれ程妥当性が高いのか
この臨床型モデルで集められたデータの「妥当性(validity)」をどのように判断できるのだろうか?妥当性の課題には次のふたつの部分が含まれている。つまり,(1)あなたが集める現在または歴史的なデータに伴う事実にもとづく正確性(factual accuracy),(2)解釈における正確性(interpretative accuracy)。あなた自身の解釈にデータを投射するのではなく,その文化に属するメンバーが本当に意味していることをコミュニケートする方法によって,あなたがその文化現象を説明するという意味での解釈の正確性なのだ(Van Maanen,1988)。文化現象を完全に理解するためには,一部の文化人類学者が力強く主張しているように,少なくとも歴史と臨床的研究の組み合わせが必要となる(Sahlins,1985)。

事実にもとづく正確性は,三角測量,多元的ソース,反復(replication)といった通常の方法によって検証可能だ。解釈における正確性はさらに困難性が増すとはいえ,次の3つの基準を活用することが可能だ。第1に,もし文化の分析が「妥当」である場合には,同一の組織に同一の独立した観察者が訪れたときに同一の現象を観察することができ,同一の方法で解釈できなければならない。第2に,もしその分析が妥当であれば,あなたはほかの現象の存在も予見することができ,またその組織が将来起こってくる課題をいかに処理するのかについても予測することができなければならない。言い換えると,予測可能性と反復が妥当性のための重要な基準となるのだ。第3に組織のメンバーが,あなたが描写したことが彼らにとって納得のいくものであり,彼らが自分たちを理解することを支援していると安心を感ずるものでなければならない。

臨床的モデルは次のふたつの基本的な前提認識を明らかにする。(1)人間システムはそのシステムに何らかの介入をしようとせずに研究を進めることは不可能だ。(2)システムを変革しようとせずに人間システムを完全に理解することは不可能だ(Lewin,1947)。この結論は,われわれは現在存在しているままにシステムを理解しようとしている立場からすれば,矛盾含みのものに聞こえるかも知れない。しかしこの結論は不可能とは言えない。何故ならわれわれの存在そのものが未知の変化を生む介入行為となっているし,またわれわれが役に立つ変革を推進しようとする場合には,そのシステムがその文化の基本的部分を占めるシステムのゴールと防衛的ルーティン(日常的な行動)の両方を明らかにしてくれるからだ。このプロセスを稼働させるためには,介入のためのゴールは外部人材と内部人材の両者によって共有されなければならない。もしコンサルタントが自分自身のゴールにもとづいて組織を変革しようとしても,組織に防衛的な態度を生み,データを隠匿する行動を増大させるリスクが急速に高まる。しかし組織がに潜んでいる変革を進めることをコンサルタントが支援している場合には,組織に何が起こっているかについて組織メンバーが明かしてくれる可能性が十分に高まる。このようにマネジされた変革プロセスがどのように機能するのかについての詳細な分析は次に述べる。
(つづく)平林

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