基礎編・理論編

軍隊のように運営されているという考え | テクノファ

投稿日:2022年3月10日 更新日:

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
私のたとえ話自体,つまりチバ・ガイギーの運用の諸側面と軍隊を結びつけた話自体が,チバ・ガイギーが存在しているスイス―ドイツのマクロカルチャーに強く影響を受けている暗黙の感情を呼び覚ましたのだ。さらに私のたとえが不適切な感情や課題のセットをその場に持ち込んだとも言える。グループ内の数多くの人たちは,自分たちが軍隊のように運営されているという考えに不快感を抱いていた。何故なら彼らはこの側面をすっかり忘れていたか,あるいは思い違いをしていたに違いない。私のコメントがこの思い違いを暴きだしてしまったのだ。

第3に,多分もっとも重要な教訓として個人にフィードバックを行うことは,グループにフィードバックを行うこととは異なるという教訓だ。グループにおいてはメンバーの反応がすべて同質であることはまず考えられないからだ。文化に対する私の「レクチャー」はグループの一部のメンバーによっては好意的に受け止められ,彼らは私の分析は全く正しいとわざわざ私に告げに来てくれた。明らかにこの種のメンバーは私の話したことから脅威を感ずることはなかった。逆に他の一部のメンバーに対しては私の信用は急落した。さらに残りのメンバーに対しては私の話が彼らの防衛本能を呼び覚まし,グループ全体としての処理することが求められる不快感を伴う新しい領域に追い込むだけの十分な脅威を生み出したのだ。

ここでのポイントは,私としては求められたことを実行したにすぎないのだけれども,文化の研究者として当然予測し,コントロールしておくべき予期せぬ結果を生じさせてしまった,という事実である。少なくとも私は,クライアントに対して事前の警告,つまり私がこのレクチャーを行うとグループ内にさまざまな感情を喚起する可能性がある,それに対して準備はできているだろうか,という警告を出しておくべきであったのだ。

(文化の分析家に伴うプロフェッショナルとしての義務)
もし予測されるリスクが本物である場合,誰がそのリスクを懸念すべきなのか?
たとえば研究者がその文化を研究し,発見したことをその組織に報告し,許可なしにはいかなる文献も出版しない,ということをその組織に告げることで十分なのだろうか? もしわれわれが表層に現われた明らかな事実,人工の産物,さらに公表された価値観を研究する場合には,メンバーに調査結果をクリアしてもらうためのガイドラインを示すことで十分であるはずだ。しかしわれわれが文化のより深いレベル,つまり基本的な前提認識やそのパターン等を研究する場合には,インサイダーとしてはどのような領域に踏み込んでいるかをしっかり理解できないことから,その責任はプロフェッショナルとしてのアウトサイダーに移る。つまり文化の分析の結果どのような結果が生ずるかについてクライアントに明確な理解を促す責任が伴う。告知にもとづく同意書(informed consent)だけでは,クライアントがどのようなことが明らかにされるかについて事前に理解できていない限り,そのクライアントや研究課題を保護することに十分なものとは言えない。

文化の分析では,探究の結果生ずる結果がどのようなものかを理解するプロフェッショナルとしての責任が求められる。このような結果は,アウトサイダーがインサイダーに対してその文化について発見された結果についてフィードバックするという,暗黙的な心理的契約が成立するレベルに両者の関係が到達する前に注意深く検討されておかなければならない。これはインサイダーが洞察を深めるため,あるいはその後出版される可能性のある文献をクリア(承認)するために有効である。このような理由から文化を読み解き,報告することは,その組織が文化を含む変革を進めることに意欲づけられているときに,もっとも理想的に,かつ心理的に安全な形で遂行することができるのだ。

ここまでに明らかになったように,文化のデータを収集するための単純明解な公式は存在しない。人工の産物は直接的に観察可能だ。信奉された価値観は,誰か接触可能な人たちに対して研究者/コンサルタントが質問を投げること,さらに組織がすでに発表した文献を通じて明らかにされる。共有された目に見えにくい前提認識は,さまざまな態度,さらに一貫性に欠け,当惑する点をさらに明らかにすることを通じて類推せざるを得ない。文化はグループによって共有された現象であることから,システマティックなデータを収集する最善の方法は,10~15人の人たちの代表的なグループに集まってもらい,彼らに人工の産物,価値観,それらの背後にある前提認識を議論してもらう方法だ。この方法を実施する際の詳細については第18章で紹介する。このプロセスは組織が問題を解決する際に活用される。

もし研究者が自らの目的のために情報収集に励み,また妥当性や信頼性についての問題を無視することが許される場合には,前章で紹介した文化の内容の分類法は,尋ねるべきことに対する完全に適切なガイドラインとなり得る。各内容の領域ごとの実際の質問は,研究の目的に沿って,文化は広範かつ深いということを考慮しつつ,研究者によって設計されるべきだ。文化全体をつかむことはほとんど不可能であるので,研究者はグループに対する質問の一式をデザインする前に,もう少し具体的なゴールに紋ることが求められる。

本章の要約と結論
文化の次元を読み解き,「アセスする」ために数多くの方法が存在する。これらは研究者がその組織に直接的に参画する場合,また組織メンバーが研究プロセスに直接的に巻き込まれる度合によって分類することが可能だ。学問的研究,あるいは理論構築の目的のためには,組織で一体本当に何が進行しているのかを学習することが重要だ。このためには質問表,サーベイ,あるいは個人に対するインタビューがもたらす結果以上に組織への深い参入と参画が求められる。研究者は,自らがリサーチャー/コンサルタントとして迎え入れられ,信頼され,妥当性の高いデータが自ずと提供されるような関係をその組織との間に築くべきなのだ。つまりデータを提供することがその組織の利益にもつながることにもなるからだ。

もしそのコンサルタントが,組織リーダーたちが変革プロセスをマネジすることを支援している場合には,彼は文化のアセスメントのプロセスをデザインし,その文化について何らかの学習を進めることができるだろう。しかしこれらは,インサイダーが自分たちの文化を理解できたときにはじめて意味を持つこととなる。私自身もインサイダーが自分たちの文化の重要な部分をしっかり理解したにもかかわらず,私のほうはその文化をきちんと理解できないまま,そのプロジェクトをあとにしたような状況を何度も経験した。これはこれで,全く問題ない。いずれにせよ,文化の奥深いところのデータは,研究者/コンサルタントがその組織に対して支援的な関係を築いたときに,はじめて明確に表明される。つまり組織のメンバーがその研究者に彼らが考え,感じていることを明かすことによって彼らが何らかの利益を得ると感ずるような関係である。このような「治療的探究」の関係は文化に関する妥当なデータを獲得するための最低要件となる。しかし外部の研究者は,組織を支援するだけに留まらず,自らの研究目的に適う追加のデータを入手することも可能である。

私が第3章で紹介したDECとチバ・ガイギーにおける研究調査では,組織内部における長期にわたる観察と経験が要求された。しかし先にも述べたように,文化を解読することは私の最初の目的には含まれていなかったのだ。私は,最初は文化上の問題とは定義されていなかったさまざまな問題の解決を支援するプロセス・コンサルタントとして招かれていた。したがってそこでは公式的なアセスメントは必要とされなかった。むしろさまざまな具体的な問題に取り組む数々のタスクフォースとのインフォーマルなプロセスがアセスメントの手段になったのだ。

インサイダーの目的のために文化を解読するプロセス,さらにアウトサイダーのために文化を解読するプロセスのそれぞれに,リスクと潜在的コストが伴っている。これらのリスクは,その組織メンバーが自らの文化に対する洞察を知りたくない,あるいは処理できないという意味では内部的なリスクであり,また組織メンバーが,その文化に関する情報がアウトサイダーの知るところとなったときに彼らが弱い立場に追い込まれる状況を理解できないという意味では,外部的なリスクとも言える。

文化を定義する努力のなかで,日常の運用のための深い部分のパラダイムとして前提認識のセットが全く形成されていないケース,あるいはその組織のサブグループがそれぞれ矛盾を含まない異なったパラダイムを保持しているケースを発見することもあるだろう。また文化は永久に進化を続ける。ということは文化の研究者は永久に探究と再探究を続けることが求められているのだ。したがってその組織についてのある時点の「データ」をインサイダー,アウトサイダーのいずれに提示する場合にも避け難いリスクが伴っている。

ある組織の文化に対して直観的な理解に達したとしても,その文化のエッセンスをはかの人にコミュニケートできる方法で書き記すことには越えがたい困難が伴う。したがって,いかにそのような記述を進めるべきかのモデルに到達することも困難であり,その種の文献も見当らない(Barley,1984a,1984b;Van Maanen,1988;Kunda,1992;Weeks,2004)。しかしその文化のエッセンス,つまり人々がその運営に当たって活用しているパラダイムを理解したときには,その組織に対するわれわれの洞察がいかに強力かという事実に驚愕し,何故ものごとがそのように機能しているのか,何故そのような提案が認められないのか,何故変革はそれほど難しいのか,何故その人たちが退社するのかといったことが即座に解き明かされる。したがってもっとも価値があることは,われわれの洞察の中枢を探し求め,タイミングよく発見することなのだ。そこでは突然組織を理解し,何が組織を動かしているかが理解できる。このレベルの洞察こそ研究の価値が認められるのだ(たとえそれが同僚のみと共有されるものに終わったとしてもだ)。

ここでリーダーにとっての教訓は,「注意深く進め」だ。文化の分析は,あなたが何を,何故遂行しているのかを理解しているときにきわめて役に立つ。つまり文化の分析には,何らかの妥当な目的が伴っていなければならない,ということを意味する。ただ,分析のための分析が行われた場合には,時間の空費,あるいは被害の増大というリスクを生む。しかしあなたが組織の正当な目的のために自分の文化の分析と解読のために責任感の強いアウトサイダーと協力して仕事を進めるときには,すぐれた洞察と建築的なアクションが実現する可能性は巨大なものになる。そのような組織開発の目的に向けて文化に取り組む具体的なプロセスは次に詳しく検討する。
(つづく)平林

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