横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第Ⅱ部では,文化の内容、さらに文化の前提認識を分析するためのプロセスに焦点を当てた。その主要なフォーカスは文化であった。ここでわれわれはフォーカスをリーダーシップ,とくにあるグループに文化を築き,定着される際にリーダーが担う役割に移したい。これまで私が一貫して主張してきたように,リーダーシップをマネジメントや管理機能から区分する,リーダーシップに備わる固有の機能は,まさに文化に関わる機能なのだ。リーダーシップは文化創造のプロセスをスタートさせ,さらにこれからわれわれが理解するように,文化をマネジし,時に変化させなければならないのだ。
リーダーシップと文化の関係を完全に理解するためには、組織の成長における開発の側面に着目することが求められる。学習するグループにおける文化形成をスタートさせる際のリーダーの役割は第12章で検討する。また組織文化における文化の形成プロセスを組織の創設者がどのようにスタートさせるかは第13章で検討される。次に第14章では,若く,成長を続ける組織のリーダーたちは、いかにシステマティックに彼ら自身の前提認識を組織の日常的仕事の進め方に定着させるのか,その結果として安定した文化を創造し,保全するのかを検討する。第15章では,組織全体をサブユニットに成長させ,進化させるプロセスが紹介され,さらにサブカルチャーの形成プロセスも検討される。
組織が成長し,進化することに呼応して文化も成長し,進化する。第16章では,文化にもたらす10の「メカニズム」,あるいは「プロセス」を紹介し,さらにリーダーたちがこれらのプロセスを使って,彼らの目的に沿った形で文化の進化に影響を及ぼす際に,リーダーが取り得る,あるいは取るべき役割を紹介する。これは私が「マネジされた変革」と呼ぶプロセスと区別されるべきである。マネジされたプロセスのほうは,リーダーが何らか具体的な組織上の問題解決にするために着手するプロセスであり,お底に文化的要素がつねに含まれているとは限らない。第Ⅳ部では,文化変革をマネジし,ますます困難性を増しているマルティカルチャリズム(多元的文化傾向)の問題に対応するためにリーダーに何ができるか,という側面にフォーカスを移す。
第12章 新しいグループで文化はいかに形成されるのか
われわれの日常的接触を主導する社会的秩序保持のためのルールは,文化の基盤となる。われわれは家族に同化し,国や民族グループに文化的に適応していくプロセスにおいてこれらのルールを学習する。これらのルールが最初にどのように作られたのかを分析することは,すでにある期間存続している文化においては困難だ。しかし新しいグループや組織で,これらのルールが形成されるプロセスを観察することは可能なのだ。文化の概念に伴う神秘性を取り除く最善の方法は,自分自身の経験のなかにおける文化形成のプロセスを自覚し,またいかに何かが共有され,当たり前のこととして認められてきたのかを認識し,さらにわれわれが参画し,所属するグループで上記を詳しく観察する方法なのだ。われわれはたしかに自分の過去の経験から文化を引き継いでいる。しかし同時につねにこの文化を補強したり,あるいはわれわれが新しい人たちや経験にぶつかるたびに新しい要素を付け加えたりしているのだ。
文化に伴う強味や安定性は,それがグループにもとづくものであるという事実に裏付けられている。つまり個々人はグループ内のメンバーシップを確実なものにするために,一定の基本的な前提認識(assumption)に従うのだ。もし誰かがわれわれに思考や認識の方法を変えるように求めてきたとして,またその方法がわれわれが所属している,あるいは所属意識を感じているグループにおいて学んできたものと違ったものである場合には,われわれはその方法を受け入れることには抵抗を示す。何故なら,自分のグループから逸脱することになることを望まないからだ。たとえそのグループにおける方法が間違っているとわれわれが考えている場合でもだ。自分の所属グループ,または準拠グループによって受け入れられたいと努力するプロセスはきわめて強力だ。しかしそれにしても,グループは思考のための共通の方法をまず最初にどのように形成するのだろうか?
文化に伴うこの側面がどのようにはじまり,またグループが外的,内的環境に対応しつつ新しいメンバーたちに伝え継がれる基本的な前提認識をどのように築き上げるかを検討するためには,まずグループ内の状況,つまりそのような出来事が実際に観察できる状況を分析することが求められる。幸いなことにそのようなグループは,人間関係訓練のワークショップのなかでたびたび形成されてきた。これらのワークショップは,見ず知らずの人たちがグループダイナミックスやリーダーシップを学ぶ目的で参加してくる。全米トレーニング・ラボラトリーズ(NTL)は,1940年代後半にメイン州ベセルでこの種のグループダイナミックスのワークショップを最初に実施した。彼らがベセルを「文化の島」と名づけたのは偶然とは言えなかった。ここでは参加者たちは,学習グループのマイクロカルチャーのなかに生まれてくる新しい規範やルールを学ぶために,すでに存在している社会的秩序について彼らがすでに学習してきたルールの一部を一部棚上げするように求められた事実を強調するために「文化の島」と名づけられたのだ(Bradford,Gibb & Benne,1964;Schein & Bennis,1965;Schein,1999a,1999b)。
小グループの詳細な分析を進めるに当たって私は,グループの現象が自動的に組織の現象のモデルとして取り扱うことができると主張しているわけではない。全体組織には,小グループでははっきり観察することができない複雑性や新しい現象の付加的なレベルが持ち込まれるからだ。しかしすべてこの組織もまず小グループからスタートしており,また部分的にはその組織内に存在するさまざまな小グループを通じて機能し続けることもたしかなのだ。したがって小グループにおける文化の形成を理解することは,小グループのサブカルチャーや組織内の小グループの相互作用を通じて,大規模組織のなかにいかに文化が生まれてくるのかを理解することにも役立つのだ。
<組織創設と重要な出来事を通じたグループの形成>
すべてのグループは,「創設のための何らかのイベント」を伴ってスタートする。つまり(1)環境における事故(たとえば,無秩序な群集に突然の脅威が襲い,全員に共通の反応を要求した),(2)何らかの目的に向けて,「創設者」が数多くの人々を集結させることを決定した,(3)広告のイベント,あるいは共通の経験がたくさんの個人を引きつけた,といったケース等のきっかけだ。上記の人間関係訓練グループは第3のケースとしてスタートした。つまり,多数の人たちが,自分自身,グループ,リーダーシップをさらに学習するという広告に盛られた目的に引かれて,1~2週間のワークショップに自発的に集まってきたのである。このワークショップは通常遠隔地の,孤立した場所で開催され,24時間の完全な参画が求められた。その意味で「文化の島」であったのだ(Bradford,Gibb&Benne,1964;Schein & Bennis,1965;Schein,1993a)。
まずこのワークショップのスタッフ(通常10~15人の参加者に対してひとりの「トレーナー」が担当した)が集合して,数日間にわたり,レクチャー,グループミーティング,リーダーシップとグループの行動について必要なポイントを引き出すようにデザインされた,焦点を定めた「演習」,さらに休み時間等の構造のプラニングに取り組んだスタッフは,自分の担当するグループを最初にガイドする際には,自らの前提認識,価値観,行動パターンにもとづいてセッションをスタートさせた。その結果そのあとグループに芽ばえてくる文化にバイアス(偏向)を与えることは否定できない。しかしこのT(トレーニング)グループには間違いなく独自の文化が形成され,それが各ワークショップの主要な部分となったことは間違いない。Tグループは10~15人の見ず知らずのメンバーによって構成され,ひとりかふたりの担当スタッフとともに毎日4~8時間のミーティングを持った。このようなグループは数日のうちに,独自のマイクロカルチャーを生みだすことがつねであったから,この種のグループでどのようなことが進行しているのかを観察することが文化の形成プロセスを理解するうえで不可欠なものとなった。
グループが最初に集まったときにグループ全体が直面するもっとも基本的な課題は,「われわれはどうしてここにいるのか,何がわれわれにとってのタスク(課題)なのか」といった課題であった。同時に各個人は,基本的な社会的生存の課題にも直面した。たとえば,「私はこのグループに受けいれてもらえるだろうか」,「何か演ずる役割がでてくるのだろうか」,「ほかの人たちに影響を及ぼしたいという私のニーズは満足されるのだろうか」,「私のニーズに応える親密レベルにわれわれは到達できるのだろうか」といった課題であった。これらは,この小さな世界で,アイデンティティー,権威,親密に対する中心的課題となった(これらについては文化の内容を論ずる第6章と第9章でさらに詳しく検討されている)。
グループが決められた場所に集まると,参加者は,新しい,曖昧な状況に対応すべく自分自身の対応スタイルを示しはじめる。一部は何かがはじまるのをじっと静かに待つ。一部は即座にほかの人たちと連携を生むことに努めはじめる。さらに一部は,自分はこのような状況にどう対応するかを理解していると告げて,それに耳を傾けてくれる人たちに話しかけることによって自分自身に確信を感じたいと願う。「自分自身についてもっと学ぶ」という目的は訓練の資料にも,ワークショップのパンフレットにも,全体グループに対する導入レクチャーのなかにも盛り込まれており,またグループを進行させるスタッフによっても表明される。一部の参加者たちは以前に同類のグループに参加した経験を持っていたかも知れない。しかし最初の段階では,どの参加者も,スタッフの次のような発言がいかに曖昧に響くかを痛感する。つまり「これはわれわれTグループにとって第一回目のミーティングです。われわれのゴールは,自分自身に対してわれわれ全員が学ぶことができる環境を生みだすことです。これを達成する唯一絶対の方法は存在しません。まずわれわれはお互いに知り合い,それぞれの個人的ニーズと目標がどのようなものかを見つけだし,われわれのグループがこれらの目標やニーズを満足できるようにこのグループを築いていくことに取り組みます。
スタッフとしての私自身の役割は,私自身としてもできる限り,このプロセスが進むことを支援することです。しかし私はこのグループの公式的なリーダーではありませんし,どうプロセスを進めるかについて正しい答えを持っているわけでもありません。また公式的なスケジュールもありません。ではスタートしましょう」と述べて,あとは沈黙を保つ。個人ごとの目標がいかにグループの重要課題になるのか「グループらしさ(groupness)」や文化の形成を理解するための一般的なモデルは,その形成の初期段階においていかに個人がさまざまな行動を発揮したか,さらにその種の行動の直後にグループからの反応としてどのようなことが示されたかを身近に観察する方法である。もしAという人物が提案し,Bが不同意を唱えたとすると,これはグループのふたりのメンバーが論争しているように映る。しかし感情的な側面では,ほかのメンバーたちもこの論争を目撃しており,各人はこの論争に加わるかどうかについて自分自身の判断を下そうとしているのだ。たしかにふたりの人物しか発言していないけれどもグループはこれに対してすでに反応し,グループとして行動を示したことを自覚しはじめる。
(つづく)平林