実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 152 | テクノファ

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このコーナーは、活躍しているキャリアコンサルタントからの近況や情報などを発信しております。今回はキャリアコンサルタントのS.Sさんからです。

今回は「グリーフケア」について、あれこれ考えてみた。
「グリーフ」とは、悲嘆・・深い悲しみなどを意味する言葉であり、たとえば肉親や大切な友人など、「自分にとってかけがえのない存在を失った際に生じる喪失感」を指す言葉として解釈されているようだ。

そこには、手放したくない想い 残念な気持ち 離別による大きな悲しみ、そして心にポッカリと穴が空いてしまったかに感じられる空虚感などがあり、場合によっては生きていく気力を失ってしまうことさえある。

その対象は、特に人間だけにかぎったことではなく、可愛がっていたペットや大切にしていたモノであっても、それが失われた場合には苦しい感覚に襲われる。また、特に相手が亡くなった場合や、なにかを失ってしまったときだけではなく、大好きだった友人や恩師とのお別れ、つまり卒業式や退職などの場面でも似たような気持ちになることは誰もが経験しているが、手放せないという意味においては「執着」として理解することもできるだろう。

定年退職で職場を去る時にも似たような気持ちになると思われる。このように、モノや人に限らず、立場や場所(住み慣れた家など)にも当てはまることだと思う 失うといえば、「失恋」などは典型的な例と言える。

もう逢えないという状況においては、相手が亡くなってしまったことと同意であろうし、失ったのは相手というよりも「関係」である。

さて、これら諦めきれない感覚、または名残惜しい気持ち・・これらはどこから生じるのだろうか。 馴染んだもの・・慣れ親しんだ環境・・または使い慣れた道具・・日課となっていた作業・・いわゆる「愛着」に類するすべての人、モノ、習慣に至るまで、どうにも手放したくなかったにもかかわらず不可抗力的に避けられない事態となった場合、その出来事が気にならなくなるまでには長い時間を要するものである。

ちょっと軽い例で考えてみたい。毎度のことなのだろうが、昔の朝ドラ(たとえば「あさが来た」)が終わってしまったとする。毎朝欠かさず観ていたドラマなので、最終回を迎えてしまったことが何とも名残惜しく、心情的に手放すことができない。よく言われる「ドラマロス症候群」である。

これは、最終回にはありがちな感覚的体験過程である。 このような感覚は、「まれ」から「あさが来た」に移行する時もそうだったし、その前の「マッサン」から「まれ」に移るときにも同じように繰り返されたはずである。

朝ドラは、その意味でいえば「出会いと別れを繰り返す体験学習」のようなものかもしれない。過去の関係、または馴染んだ関係に執着を持つ傾向が強い者ほど、想い入れが強いほど、なかなか次回作を受け入れることができないわけだ。

過去の栄光を手放せずに落ちぶれていく芸能人も多いと聞くが、懐古的な想いに耽ることが好きな者はいつまで経っても過去を引きずってしまい、未来に向けて第一歩を踏み出すことが苦手かもしれない。

過ぎ去ったことにいつまでも執着することなく、「過去の奴隷」から「いま此処」より先を見据えて生きていくためには過去を断ち切る必要があるわけだが、だからといって本当は手放したくないのに無理やり頑張って諦めようとすれば、かえって長引いてしまうことになる。

絶望的になっている者に対して「あきらめろ」とか「しっかりしなくっちゃね」などという無責任な声がけは、傷に塩を刷り込むようなものだし、刃物で突き刺すのと同じであるので、やめたほうがよかろう。

また、多くの葬儀の場で観られる光景だが、肉親を亡くして失意のどん底にある者に毅然とした態度を求める風潮は如何なものだろうか?と僕は以前から思っていた。僕が父親を亡くしたのは18歳(大学の1年生)だったが、母や姉がいるにもかかわらずなぜか長男と言う理由だけで喪主を任された。(今にして思えば、男尊女卑的な慣習の典型だな。変だと思う。)

喪主は泣くことなど許されない。しっかりと挨拶をこなし、弔問客には礼を尽くし、葬儀が終了しても直会(なおらい。※:忌みの状態から、平常に直ることの意で、そのしるしの飲食。もともとは神事で行なうものだったが、今やそんな意味も知らずに節操なく行なわれる状態となっている。)の席に座ってなくてはならない。

こんな状況下では、個人的な感傷に耽ることなどできないし、亡くなった父の友人から「毅然としていて立派だったぞ!うんうん!えらかったな!よしよし!」などと、僕にとっては何ら意味のない主観的評価まで寄せられてしまう始末。 このように、泣くことまでが禁止されては感情を抑圧するしかないし、泣けなかった分だけ長引くことになってしまうのだ。

まずは、感情を解放し、表出し、喪失感に任せて思い切り落ちることである。これをせねば現実として受け入れることは困難ではないだろうか。これについては個人によりけりだが、丁寧に時間をかける必要があるだろう。 次に「起こってしまった出来事は元に戻せない」と現実を認めることである。これができなくては何も始まらない。ここが不充分だと後に幾度も揺れ戻しに襲われることになる。

それがしっかりと為された後に取り組むべきは「心の整理」である。 整理とは、必要のないものを廃棄処分する意味で遣われることが多いが、この場合は意志的に手放す意味として用いることにする。(少し脱線するが、よく整頓と整理を混同して遣っている人がいるが、整頓とは整理した後で使いやすいように片づけておくことであり、これらは同意語ではない。)

意志的と言うからには、決意とか覚悟を伴った「自己決定」でなくてはならない。平たい言い方を借りれば「心の踏ん切り」ということになるのだろうが、言わば「不可抗力的に否応なく、そうさせられてしまった自分(受動的)」から、「そのようにする自分(能動的)」への切り替えである。となれば、「ようやく踏ん切りがついた」というよりも、「思い切って踏ん切りをつけることにした!」という決意表明的な言い方が正しいだろう。

仏教では、正しく生きるためには執着を手放すことが何よりも大切だと説く。なぜなら、この世は常に流転し続けており、ひとつひとつの刹那(いま、この瞬間)をしっかりと味わうためには、「無常」を理解しなくてはならないからである。過ぎ去った過去に執着を持っていては「今」を生きられないし、「今」に生きていない者は、即ち思考に同一化している状態(囚われの中に在る)ことになってしまうからである。

これでは自在に生きることなどできない。 しかしまあ、言うは容易だが簡単に克服できることではない。これについては、幾度も痛い目に遭いながらも体験的に学び、精進するしかない。

話を戻すが、3・11の津波被害で多くの人命が失われ、残された人々の心のケアが求められたことがきっかけとなり、いまグリーフセラピー(グリーフケア)が注目されてきている。

意外にも既に葬儀屋さんの仕事の一部にさえなっていたりする。心の整理には時間がかかると言われるが、かといって単に時間だけが癒してくれるわけでもなく、そこに寄り添い支持的に関わる支援者がいてくれたほうが回復も早いということである。

だが、先にも述べたように、これはあくまでも自己決定でなくてはならない。今日を生きるために、未来を見据えるために、過去を整理し精算する必要があるのだ。 但し、自己決定は本意でなくてはならない。 どんなときでも笑顔を忘れない・・とか、明るく元気に・・とか、不自然なことをやっていては、いつまで経っても立ち直れないことを知っておいてほしい。 偽りの自分に決定権はないのである。
(つづく)K.I

-実践編・応用編

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