実践編・応用編

「我が子の進学について」相談される機会 | テクノファ

投稿日:2022年3月30日 更新日:

このコーナーは、活躍しているキャリアコンサルタントからの近況や情報などを発信しています。今回はキャリアコンサルタントのS.Sさんです。

最近、あるクライエントに「我が子の進学について」相談される機会があったのだが、一緒にいろいろと調べてみた結果、私だけではなく相談者である母親までもが大笑いすることになってしまった。一流・・二流・・そして三流大学という表現は昔からあったが、なんと現在ではSランクから数えてXランクまでの階層的分類があるという。SABCDEFGH・・X、つまりSランクを「超一流」とした場合、Xは「十流」ということになる。相談に来たクライエントの息子は、地元の大学か、または東京の大学を狙うかのどちらかで迷っていたのだが、私が「う~ん、こちらが六流で、そちらは八流となっていますねえ・・」と答えたものだから、母親は「え~、大学って三流以下もあるんですねえ・・」と驚きながら苦笑していた。

また、息子がそんな六流大学になんとか受かったとしても、四年もの時間と1000万円以上にも及ぶ学費&生活費に果たして価値があるのだろうか・・と悩み始めてしまった。ちなみにFランクはフリーという意味もあり、ただ名前さえ書けば合格となる大学であり、Gランクは定員割れで存亡の危機にある大学。Hランクは知名度が低くどこにあるかさえ知られていない大学、そしてXランクは・・もはや大学とは名ばかりで入ってはいけない大学だという。

戦後、高校への進学は言うまでもなく、大学の進学率が上がったこともあって、今は「自分は大卒だ!」などと胸を張れる時代ではなくなってしまっている。どうしても自慢したいのであれば、なんとか努力してBランク圏内に入ることである。さらに、学生自身が自分の将来像をまったく描くことができず、「何が目的で進学するのか?」と誰かに問われても答えることができないようだ。せいぜい「大学を出たほうが就職に有利だと思うし、高卒より大卒の方が給料も高いだろうから・・」と言うだけだろう。

だが現実は甘くない。いまどきの企業は、こういった大学の実情を知っている。卒業論文といっても、どこかのサイトに載っていた解説をそのままコピペしただけの粗末なものだったり、たとえ卒業に届かぬ赤点しか取れなかったとしても保護者?からの攻撃を怖れて卒業させてあげたりしている現状を知れば、いかに求人に応募して来たとしても欲しい人材ではなかろう。

このような実態を知ってしまえば、「大卒」が価値を失うのも当然である。それゆえ、書類選考で大卒として扱うならば、せめてDランクまで・・と線を引いている企業も多いという。

Eランクは、学歴そのものは無駄にはないかもしれないが、加点評価の対象にはならないとのことだ。そもそも「AO入試」とはユニークな人材を発掘するために生まれたようなものであった。グローバル化が進む産業界や経済社会にあって、企業が生き残るためには「差別化」が欠かせないからである。むろんユニークなアイデアはユニークな人材からしか生まれないというのは道理だと思うが、大学もまたそういった企業サイドからの要求に応えようという意図だけでなく、これからの大学の在り方として新たな展開に期待を寄せてのことだったと思われる。

しかし、今や大学院でさえ「希望の職種に就けなかったが故の残された道」というか、学生である時間を引き延ばそうと目論むものでしかなかったりするし、採用する側でもモラトリアムとして受け取る場合が多いと聞く。これから進学を考える本人はもちろん、親もまたこういった現状を理解しておく必要があるだろう。

そもそも何が目的で進学するのか?そこには、「学びたい」という主体的な想いではなく、「就職で不利にならぬよう」といった強迫観念があり、少なくとも「学歴」や「資格」を採用されるための必要条件として捉えている者が多いことは否めない。これでは、やれランクがどうのこうのと言う以前に、言わば入試の動機自体が不純であり、「無難にうまく世を渡るための手段」でしかない。

果たして、そういった若者たちのことを「学生」と呼んでよいものかは疑問だが、文科省が掲げるスローガンである「生きる力」の解釈が「創造性」や「変革」ではなく、社会適応だと勘違いされてきた結果だと思えてならない。エンプロイアビリティという言葉を初めて聞いたのは、たしか10年ほど前だったと思うが、いま改めて本来の意味を問い、初等教育から始まるキャリア教育に活かすことをやらねば誤解されたまま状況はさらに悪化の一途を辿ることになるだろう。

私が身を置いている義務教育や高校教育の現場においては、あまりに大きい実社会との隔たりに気が遠くなってしまう思いだ。
(つづく)I.K

-実践編・応用編

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