基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 151 | テクノファ

投稿日:2022年4月5日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は満3年になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第13章 創設者/リーダーはいかに組織文化を生みだすのか

組織文化に伴うもっとも不可解な側面ハ,共通の外部環境に属し,同種類のタスクに対して同種類の技術を適用し,同様な経歴を持つ創設者によって築かれたふたつの企業が,年月を経るにつれて,何故全く異なった方法でマネジされているのか,という点だ。第12章で私は,構造が定まっていないグループで発生する自然発生的な出来事に照らしてこのプロセスを分析した。本章では,公式のリーダーがグループを築き,ひとつの組織として確立するときに何が起こるかを考察しながら,上記のプロセスをさらに分析する。

(文化は創設者/リーダーのアクションを通じて生みだされる)
文化は基本的には,次の3つの源から生みだされる。(1)組織の創設者の信条,価値観,前提認識,(2)組織の成長に連れてグループメンバーが獲得する学習経験,(3)新しいメンバーやリーダーによって持ち込まれる新しい信条,価値観,前提認識の3つである。

これらのメカニズムのそれぞれが重要な役割を担うけれども,文化の創造にとってもっとも重要なものは,創設者からの影響だ。これらの創設者は新しいグループが機能しはじめるために,基本的なミッションと環境の状況を選択するに留まらず,彼らはグループメンバーを選び,その結果,自分たちの環境で成功を収め,さらに組織の統合を高める努力のなかでグループが示す反応の仕方を決定する。

いかなる組織も突然,自然発生的に生まれるわけではない。個人のアクションだけでは達成できないことを,統合され,調整された何人かの人たちのアクションによって達成可能だ,と考えるひとり,または複数の人たちによって組織は生みだされる。たとえば新しい宗教に伴う社会的運動は予言者,救世主あるいはそのほかのカリスマ的リーダーによって開始される。また政治のグループは,新しいビジョンや問題解決のための新しい提案を持ち込むリーダーによって創設される。また企業は,適切な人材の協力を得て,市場に対して新しい製品やサービスを生みだすことができるというビジョンを備えた起業家によって生みだされる。

創設者は一般的に,グループがその外部への適応と内部の統合の問題をいかに定義し,解決するかという側面に大きな影響を及ぼす。彼らが創設のアイディアを抱いていたことから,そのアイディアをどのように実現していくかについての自らの文化的背景と性格にもとづく,自らの考え方を抱いていることが多い。一般的に創設者は高いレベルの強い自信と決断力を保持しているだけではなく,まわりの世界の本質,またこの世界でその組織が果たすべき役割,人間の性格と人間関係の本質,さらにいかに真実に到達するか,いかに時間と空間をマネジするか,といった点に対して強力な前提認識を築いている(Schein,1978,1983,2006)。したがって,彼らは生存をかけて創設間もない組織が闘いを続けているときに,彼らの同僚や従業員にこのような視点を強く推奨することにも迷いなく取り組む。さらに,彼らはそのような考え方がもはや機能しなくなったり,グループ自体が失墜し,崩壊するまでこの視点を守り抜く(Donaldson & Lorsch,1983)。

ここでわれわれが検討する例では,いくつかの種類の文化の進化が紹介される。スタインバーグス(Steinbergs)は外部への適応を巡って強力な文化を生みだしたが,創設者自身の葛藤が内部に大きな混乱を生み,最終的には企業の業績を阻害することとなった。スミスフィールド(Smithfield)は,彼の組織に自己を押しつけることを避けた何人かの起業家の一例であり,その結果,彼の部下のさまざまなリーダーたちの仕事としてその文化を自由に育てることを任せた。ケン・オルセンの性格を中心に築かれたDECのストーリーは,成長とイノベーションに適合したきわめて強力な文化,しかしその市場が成熟したあと不適応に陥りながら,企業そのものは経営の実態を停止したあとも,なおも文化は生存し続けるという文化がいかに築かれたのかを物語ってくれる。私自身はIBM社,ヒューレット・パッカード社(HP),アップル社(Apple)についてあまり個人的な関わりを持ってこなかったけれども,文化の起源を考えることによって,今日これらの企業にわれわれが観察する差異の一部がどうして明らかにできるのかを説明したい。

(サム・スタインバーク)
サム・スタインバーグは,両親がモントリオールの街角で食品店を営んでいた移民の息子である。彼の両親,とくに母親はカスタマーに対する基本的な対応の仕方を教え,彼が成功を続ける企業を築くことができるためのビジョンを築くことを支援した。彼は若いときから,もし彼が正しくものごとを実行すれば,彼は成功し,のちには彼と彼の家族に幸福をもたらす大企業を築くことができると信じていた。最終的には彼は大規模なスーパーマーケットのチェーン店,デパート,さらに関連ビジネスを築き上げ,この業界で長い間主要な役割を担い続けた。

サム・スタインバーグは,彼の企業の歴史を通じて理念上の中心となり,70歳後半で死ぬまで彼の前提認識を押し通し続けた。彼は,彼の主要なミッションは,清潔で,魅力的なたたずまいのなかでカスタマーに対して高品質で信頼できる商品を供給することであり,さらにカスタマーのニーズこそすべての重要な意思決定において最大の考慮が払われるべきものだと考えていた。サム・スタインバーグが,若い頃に彼の妻とともに街角の食品店を営んでいるときに,顧客に売り掛けを許し,その結果顧客に対する信頼を示したというストーリーが数多く残っている。彼はわずかでも苦情が寄せられればつねにその商品を引き取った。また商品に対するカスタマーからの信頼を保つために,店にはごみひとつ見当たらないように完全な清潔を保った。これらの態度のひとつひとつがあとになって,彼のストアのチェーン店の重要なポリシーとなり,緊密な個人的な監督のもとに店員に教えられ,補強され続けたのだ。

サム・スタインバーグは,個人による模範と緊密な監督こそ部下の適切な業績を保つことに役立つと信じていた。彼は店に予告なしに姿を現わし,きわめて細部まで目を光らせた。そして個人的な模範,ほかの店では発見された問題をどのように解決したかについての訓辞,ルールの明確な説明,あるいは説教を通じて,店員がどのように行動すべきかを「教え」込んだ。彼はしょっ中かんしゃくを起こし,彼が説明したルールや原則に従わない店員を厳しくしかりつけた。また店のマネジャーがつねに可視的な存在であることを望み,さらに彼らがしっかり自分たちの仕事に専念し,スタインバーグ自身と同じ方法で部下を指導し,部下が「正しい方法」で仕事を進めるように教育し,すぐれた模範を示してくれるように求めた。

この企業の創業グループのメンバーのほとんどはサム・スタインバーグの3人の兄弟から構成されていたが,ひとりの「将校」は家族メンバーではなく,初期に外部から採用され,創業者に仕えて主要なリーダー,文化の伝播者に育っていった。彼は創業者の打ち立てた「目に見える経営」の基本的前提認識に共感し,この原則が経営の実際の姿の基本になるように公式のシステムを築き上げた。サム・スタインバーグが亡くなったあと,この人物がCEOとなり,創業者の残した経営の方法を定着させることに取り組み続けた。

サム・スタインバーグは,市場においてはつねに高度に革新的であり,技術的にもつねに先頭を走っていない限り,勝利できないと確信していた。したがって彼はマネジャーたちにつねに新しい方法を試すように奨励し,さらに人材マネジメントで新しい方法を提案しているたくさんのコンサルタントを招へいし,またほかの企業がはじめるずっと以前から採用と開発プログラムにアセスメントセンター(人材評価開発センター)の方法をスタートさせていた。さらに新しい技術的なイノベーションが発表されている会議やほかの企業に頻繁に足を運んだ。イノベーションに対するこの熱意から,スタインバーグはバーコード技術をスーパーマーケット業界で最初に導入した企業となったし,またストアマネジャーの選抜にアセスメントセンターを最初に活用した企業のひとつとなった。スタインバーグはビジネスを向上させるためには実験と試行をつねに歓迎した。真実と現実に対する彼の見解は可能な限り,それらを必ず見つけださなければならない,というものであった。したがって自分の周囲に対してつねにオープンさを保ち,また自分がすべての解答を保持しているとは決して考えてはならない,というものであった。ものごとがうまく行ったら,サム・スタインバーグはこの方法を採用するように奨励し,うまく行かなかったらやり直すように奨めた。彼は彼と同様な前提認識にもとづいてマネジしているマネジャーのみを信頼し,大きな権限を委譲することができる信頼できるマネジャーを選別し続けた。

その組織のパワーと権限は強力に中央集権化されており,サム・スタインバーグと彼のチーフ将校が何の相談もなしにうむも言わせない形で,事業部門やそのほかの部門のマネジャーが行った意思決定を覆がえすことがあったし,あり得ることを組織内の誰もが理解していた。経営決定権の究極的な源,あるいは株の所有数に応じた投票の権利は,サム・スタインバーグとその妻によって独占されていた。そのため彼の死後には妻がこの会社のコントロールの全権を握ることとなった。

サムはたしかに組織内全体ですぐれたマネジャーを育成することに興味を示したけれども,彼がストックオプションなどを提供して彼の会社の所有権をほかの人たちと分かち合うことはなかった。彼は主要なマネジャーたちに高給を支払っていたが,彼の抱いた前提認識は,企業の所有権は間違いなく家族のみに属するべきものだ,と言うものであった。したがって彼のチーフ将校,親しい友人,また企業の共同創設者にも株を譲渡することはしなかった。

サム・スタインバーグは彼の家族の数人を会社に入社させ,重要な経営のポジションに就けていた。企業が多角化を進めるに連れ,これらの家族メンバーは事業部の長に任命されたが,彼らはほとんど経営の経験を積んできていなかった。もし家族メンバーのひとりの業績が芳ばしくないと,すぐれたマネジャーが彼の下に派遣される形で彼を支援した。ここで業績が回復すれば,その家族メンバーの功績として認められた。またそれでも業績が回復しない場合には,その家族メンバーは異動させられたが,そこにはさまざまな顔を立てる言い訳が準備された。またサムはすべてのメンバーの間にオープンなコミュニケーションと高い信頼関係が育つことを望んだけれども,彼の抱いた家族の役割に対する前提認識とマネジする際の正しい方法に対する前提認識との間にはかなりの程度の隔りが見られた。彼自身は彼のなかのこの隔りと矛盾を認識していなかったので,企業のベストの若きマネジャーがその高い処遇にもかかわらず,ときに会社を退職してしまうのかが理解できなかった。彼自身は,若きベストの人材をモティベートできていると考えていた。しかしこの企業の政治的風土,ストックオプション制度の欠如,家族メンバーに対する曖昧な処遇等がこれらの若きキャリア人材に不安感を生んでいることには気づいていなかった。サム・スタインバーグは,このような事態が起こると当惑し,ときには怒りを爆発させた。しかし若きマネジャーを非難するばかりで,彼の前提認識とそれに伴う矛盾は改めなかった。
(つづく)平林

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