基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 154 | テクノファ

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横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
アップルにおけるウォズアックとジョブズ,IBMにおけるワトソン,HPにおけるパッカードと ヒューレット

私自身上記の3社の創設に関して詳しく理解しているわけではない。しかし創設者についてわれわれが理解していることの視点から文化的な展望を試み,文化を分析することを通じて,これらの企業の文化について直接的な洞察が可能になると考えている。またこの種の分析を通じて,同じようなテクノロジーに属する3つの企業が,何故きわめて異なった文化に至ったのかを理解することが促されるはずだ。

まずアップルは,スティーブ・ジョブスとスティーブ・ウォズニアックによって創設された(ふたりともエンジニア)。その目的は,教育市場で子供たちのための製品を作りだすことであったが,その製品は「ヤッピー」に対して楽しみをもたらし,使い易いものが目指された。ふたりのベースは明らかに技術に置かれていたけれども,DECのケースと同様に,著しく積極的な,個人主義にもとづく「自分のやりたいことを追求する」というメンタリティーとして表明された。アップルがジョン・スカリーをペプシコ社(PepsiCo)から招へいして,さらにマーケット志向を高めようと目指したあと,企業は成長した。

しかしアップル内に存在した技術者集団はこのマーケット志向の経営幹部を承認できないと感じていた。スカリーがジョブスを退職させると,ジョブスは第2の会社を立ち上げた。しかし,のちにスティーブ・ジョブスが呼び戻されたあとアップルが再びそのルーツに立ち戻ったことは注目に値する。もしあなたが2009~10年にアップルが示した方法を観察すれば,アップルが,使いやすく,使って楽しい製品,たとえばiPhone,音楽のためのiPod,テレビ会議のためのiChatカメラ等の製品を生みだすアップル社のルーツに戻ったことが確認できるはずだ。製品の魅力的なデザイン,さらに製品を展示するユーザーにフレンドリーな店の普及からはアップルがいまやきわめてマーケティング志向を強めていることがうかがえる。しかしこの志向は,スティーブ・ジョブスにしかできないこと,すなわち技術スキルと合わせて考えられなければならないのだ。

数多くの人たちは,IBMは1990年代にそのビジネスを再活性化するために,ルー・ガースナーという外部のマーケティング志向の経営者を招へいした際に,きわめてすぐれた実績を収めたと指摘する。では何故アップルにおけるスカリーのケースよりもすぐれた実績が残せたのだろうか?文化の分析がもたらす推論としては,IBMは技術重視の起業家によって創設されたわけではなく,その当初からエンジニアリング主導の組織を築いたわけでもなかったという点が指摘できる。トム・ワトソンはセールス/マーケティングマネジャーであり,IBMを創設するためにナショナル金銭登録機社(NCR)を退職した人物であった(Watson & Petre,1990)。彼はそのキャリアを通してセールスマン/マーケターのように思考したし,彼の息子のトム・ワトソン・ジュニアも同様にマーケターのメンタリティーを身に付けていた。また明確なパブリックイメージこそIBMの顕著な特徴となった。つまり,すべてのセールス担当に紺のスーツに白いシャツを義務づけたことに象徴されるイメージだ。ワトソン・ジュニアは技術的にも強くなるという知恵を備えていたけれども,さらに深い部分に存在する文化的な前提認識は,つねにセールスとマーケティングから生みだされていた。ひとりの卓越したマーケティング志向の経営者が,その企業の競争力を取り戻すことを支援するために,アウトサイダーとして迎えられ,さらに文化を変革するというよりは,文化を再建することに成功を収めたという事実はそれほど驚くべきことであったのだろうか?(Gerstner,2002)。

ではHPはどうだったのか?ふたりともスタンフォード大学の卒業生であったデイブ・パッカードとビル・ヒューレットは,技術系のビジネスを築く意志を抱いていた。最初は測定と機器テクノロジーの分野を目指していた。コンピューターはあとになってこのコアのテクノロジーに付随するものとして導入された。しかしこれらのふたつのテクノロジーに取り組む人材はお互いに異なっており,ある意味ではお互いに相いれないということがわかり,最終的には当初のテクノロジーを追求するアジレント社(Agilent)の分離が法定され,HPはコンピューター,プリンター,その他の関連製品に取り組むこととなった。

HPの成長と成功は,本来は技術リーダーであったヒューレットと,ビジネスリーダーの傾向が強いパッカードとの効果的な分業によるところが大きかった。彼らのお互いに効果的に協力し合う能力は,「HPウェイ」の中核的価値観となっている「ティームワーク」の基盤を形成している。パッカードの経営スタイルとケン・オルセンの経営スタイルとの大きな差異は,HPがその歴史のごく初期から事業部門を作り,公にティームワークとコンセンサスに重点を置いていた点に求められる(もちろんHPにも個人の競争は深いところに隠された前提認識として存続していたけれども)。HPでは企業全体を通じてプロセスの標準化に熱心に取り組んできており,DECに較べてより公式的で,慎重なものとなっていた。それがHPにおけるコンピューターのさまざまなタイプをややなじみにくいものにした理由となっている。

HPとDECにおけるティームワークに対する見解は,「ティームワーク」といった抽象的概念の定義は文化の分析においては,きわめて注意深く行うことの大切さを示してくれている。HPにおけるティームワークは,コンセンサスがほかの方向で決まりかけている場合には,自分の見解を通すために論争を続けるのではなく,合意に達するように歩み寄ると定義されている。これに対してDECにおけるティームワークは,ほかの人たちを説得し切るか,ないしは自分の考え方を完全に変えるまで自らの見解を主張し,闘い続けるものと定義されている。

アジレントの分離のあと,HPの歴史におけるもっとも重要な出来事は,アウトサイダーのカーリー・フィオリーナをCEDとして迎えたことであった。HPをコンピューター関連のマーケットで成功を続ける,グローバル規模の企業にするという彼女の戦略は,コンパックとの大規模合併を推進し,その過程でコンパックに残っていた多数のDECの従業員も併せて獲得するものであったと思慮される。コンピューターの市場が消費材のマーケットに変容していたため,そこでプリンターやインクといった消費財の効率的で,低コスト製造企業になることは戦略的に優位性を保つことに結びついたけれども,同時に「HPウェイ」に伴う元々の価値観の一部を放棄することも求められた。われわれは,フィオリーナはこの変革プロセスをスタートさせるためにアウトサイダーとして招へいされたものと推察する。しかし数年あと,彼女の後継者としてHP育ちの経営幹部が選ばれた事実は,HP文化にある側面での変化が生じているけれども,なおHP文化の大部分を保ち続けようとする願望が反映されたものと考えられる。

本章の要約と結論
本章で紹介された幾つかのケースでは,強力なリーダーとして機能する創業者のアクションを通じて,いかに文化が形成されはじめるかが明らかにされている。たとえ成熟した企業においても,その企業の数多くの前提認識は,創業者や初期のリーダーの信念や価値観にさかのぼることが可能であることを認識することが大切だ。これらのリーダーが担う特別な役割は,若いグループが,いかに組織を内部,外部において運営するかについて抱く疑問に対して最初の答えを提供する役割である。もし何も提案されなければ,グループが潜在的なソリューションをテストすることは不可能となる。あるリーダーがそのグループを活性化させたあとにはじめて,そのアクションが環境内でそのグループを効果的に機能させるという問題,さらに安定した内部システムを作りだすという問題を解決できるか否かを決定することが可能になる。そのあと強力なグループのメンバーによってほかのソリューションが提案され,その結果文化の学習のためのプロセスが拡大される。いずれにせよ,いかなるグループプロセスにおいても,その誕生期におけるリーダーシップの重要性を見逃すことは許されない。

私自身リーダーたちが意識的に認識し,思考し,感じる方法を,新しく形成されたグループに教えることをはじめよ,と提案しているわけではない(もちろん,一部のリーダーはそのように行動することはあり得るけれども)。むしろ,何を遂行し,どのように遂行するかについて強力なアイディアを抱くことは,起業家の思考法に本来的に備わっているものと考えている。創業者はいかにグループが働くべきかについて,正確に説明できる自分自身の理論を備えていることが多い。また彼らは同僚または部下として,彼らと同じように思考すると思われる人たちを選択する傾向が強い。この創業者と新しいグループメンバーは,グループの形成のプロセスに熱心に取り組み,さまざまなソリューションを探し求める。したがってリーダーからの提案は,グループ形成のこの段階で特別の関心を集めることが一般的となる。

グループの誕生期では,不明瞭さと意見不一致に対して寛容でない態度が示されがちだ。どのような組織であってもその初期の段階では,同じように思考しないパートナーや共同創業者が対立に陥り,その結果どちらか一方がその組織を去り,残された人たちの間に以前よりも同質性の高い風土が生みだされる,といったケースを数多く目にしている。もし当初の創業者が問題解決のための提案を持っていないと,グループに不安が生じ,ほかの強力なメンバーが立ち上がることになって,創業者ではないリーダーが生まれることとなる。本章で検討したケースではこのような状況は観察されなかったけれども,私自身このような状況が発生したケースを数多く見聞してきている。ここで認識しておくべき重要なポイントは,グループの形成期に発生する不安感がきわめて高いために,グループ機能の数多くの領域においてグループメンバーによってリーダーシップの発揮が強く求められる,という点だ。もしその創業者がグループの不安感を軽減することができないと,グループによってほかのリーダーがかつがれることとなる。

創業者であり,かつリーダーである人物は,どのようにものごとを遂行するかについて強力な理論を抱いていることが多いことから,彼らの理論はごく初期にテストされる。もし彼らの前提認識が間違っている場合,そのグループは歴史のはやい内に幕を閉じる。逆に彼らの前提認識が正しい場合には,その文化が当初の前提認識を反映しながら強力な組織を築き上げる。また環境が変化して,これらの前提認識が機能しなくなると,その組織はその文化の一部を変える方法を見付けなければならない。このプロセスは,もしその創業者がなお組織をコントロールしている場合には,著しく困難なものになる。このような変革は,創業者であり,リーダーである人物が,組織のさまざまな仕事の進め方のなかに彼らの前提認識を定着させることに数多くの機会を持っていたときに,とくに困難が増す。このようなプロセスがどのように起こってくるかは第14章で詳しく検討する。
(つづく)平林

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