「厚労省のキャリアコンサルタント国家資格合格」のまとめです。
厚労省の定める「キャリアコンサルタント3つのレベル」の説明前に、標準レベルになる前の入口レベルについて話します。この入口レベルは資格ではありません。
ただ、入口(導入)レベルは大切なことを含んでいますので最後に説明をいたします。
広い意味でのキャリアコンサルティング(企業における人材育成など)に関する基礎的な知識を持ち、なおかつ実践している人は既にキャリアコンサルタントの入り口にいます。企業における人材育成は、広い意味でのキャリアコンサルティングととらえることができます。たとえば、管理者が行う部下育成は、部下のキャリア開発・形成を支援することと捉えることができます。なぜなら、本来の部下育成とは、部下本人の意思とは無関係に企業が求める型にはまった人材に無理やり仕立て上げることではなく、部下本人の意思を尊重し、部下が自分の将来を自分の問題として考え、仕事を通して自分の将来像を実現できるように支援することだからです。
人は自分がやりたい仕事をやるときには、自分の能力を存分に発揮してできるだけよい仕事をしようとしますが、自分がやりたくない仕事を無理やりやらされるときには自分の能力を十分に発揮しようという気にはなりません。仕事にモティベーションが必要な理由はここにあります。モティベーションを持ってもらうには、部下から「自分はどういう仕事をしたいのか、なぜそれをしたいのか」を引き出し、できるだけ明確にしてあげる必要があります。そうすることによって、1人ひとりにとって仕事をすることが自分の将来のために大切なことになり、主体的で自律的で自立的な人材が育つことになります。このように、「やりたい人でかつできる人に、その仕事をしてもらうこと」、つまり適材適所を実践している管理者は、十分にキャリアコンサルタントの入口レベルと言えるでしょう。
入口レベルに不可欠なスキルとはどのようなものでしょうか。やむをえずやりたくない人にもやってもらわなければない場合や、できない人にもできるようになってもらわなければならない場合もありますが、それはいわば応用問題です。キャリアコンサルタントとして入口に立つには、相手の話をきちんと聴くことができるスキル(傾聴のスキル)が基本的な要件です。この「キャリコンサルタントの知恵袋」でも以前ドラッカーの「傾聴」について取り上げています(23回)が、相手の考えや気持ちをきちんと受けとめることができ、相手のことをきちんと理解することが入り口に立つ不可欠なスキルです。同時に、上司としての本人に対する期待や会社としての期待・考え・方針などをきちんと伝えることができれば申し分ありません。よく聞き良く語り掛けること、すなわち、コミュニケーション能力がキャリコンサルタントの入り口に立つ不可欠なスキルといえます。
しかし、部下や社員のキャリア開発・形成を支援する際に、さらに高い専門知識を基にした、もっと内的な支援が必要であると判断した場合には、自分だけで判断して行わず、標準レベルのキャリアコンサルタントと相談することが求められます。
このように、入口レベルでは人材育成に関する基本的な知識と職場での実践が求められます。そのためには、前述したような主旨の内容となっている企業内の管理者研修や教育機関が実施する管理者研修などを受講していることが推奨されます。ちなみに、大学のキャリアセンターなどにおける就職支援活動も本来はキャリアの支援活動であるべきですが、単に求人と求職をマッチングするだけのことではキャリアコンサルティングとは言えません。企業においても、本人の希望を何ら考慮せず、上司がただひたすら一方的に会社の期待に沿うことだけを部下に求めることは真の人材育成ではありませんし、キャリアコンサルティングに反する行いです。
(つづく)平林良人