基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 155 | テクノファ

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横山先生の思想の系譜

私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認証を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしました。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第14章 リーダーはいかに文化を定着させ,伝承するのか

第13章では組織の創設者が新しいグループに自分自身の前提認識をうえつけることによって,いかに文化形成のプロセスをスタートさせるのかを検討した。本章では,リーダーたちがグループが組織に成長していく過程で,自分たちの信条,価値観,前提認識の導入を促すために彼らが活用することができる,数多くのメカニズムを検討する。組織がその主要なタスクを達成することに成功すると,リーダーの抱く前提認識が共有され,組織文化の一部として取り込まれる。新しいメンバーはこれらの文化の前提認識を,所与の,いまや疑問を差しはさむ余地のないもの,つまり「ここではものごとを遂行するためにこのような方法を取るのだ」というものとして受け止める。リーダーの見方からすると,親,教師,上司の別を問わず,新しいメンバーがそのメッセージを受け取ることをたしかなものにするためにどのようなメカニズムが活用可能なのだろうか?

リーダーはその信条,価値観,前提認識をどのように定着させるのか
リーダーがいかにそのメッセージを伝播するかについてもっとも簡単に説明する方法は,彼らは「カリスマ性」を通じてメッセージを伝えるという考え方だ。カリスマ性とは部下からの関心を引きつけ,鮮明で,明確な方法で主要な前提認識や価値観をコミュニケートする神秘的な能力を指す(Bennis & Nanus,1985;Conger,1989;Leavitt,1986)。カリスマ性は文化の形成にとって重要なメカニズムのひとつである。

表14-1 定着のためのメカニズム
第一義的な定着メカニズム
・リーダーが定例的に関心を寄せ,測定し,コントロールしていること
・重要な出来事,組織の危機にいかにリーダーが反応するか
・リーダーはどのようにリソースを配分しているか
・意識的なロールモデリング,ティーチンク,コーチング
・リーダーはどのように褒賞と地位を配分しているか
・リーダーは人材をいかに採用し,選考し,昇進させ,退職させているか

第二義的な明確化と補強のためのメカニズム
・組織のデザインと構造
・組織のシステムとプロシージャー
・組織の伝統と慣習
・物理的なスペ一ス,様式,建物のデザイン
・重要な出来事や人物に関するストーリー
・組織の哲学,信条(creeds),憲章(charters)などの公式的な記述

しかし,組織または社会の視点から見れば,定着と社会化のための信頼できるメカニズムとは言い難い。何故ならカリスマ性を備えたリーダーは少数であり,しかもその影響を予測することが困難だからだ。歴史家であれば昔を振り返り,あの人物はカリスマ性を備え,偉大なビジョンを抱いていたと言えるかも知れない。しかしその当時に彼らがどのようにそのビジョンを伝えたのかは定かではない。しかし一方で,カリスマ性を備えていない組織のリーダーたちも,彼らのメッセージを伝えるための数々の方法を備えており,この章の焦点もこれらの方法に当てていきたい。表14-1に定着を促す12のメカニズムを表示した。これらの方法を主要なものと二義的なものに二分した。これはリーダーが行動として示すもっとも強力な日常的行動と,主要なメッセージを支援し,補強するためのさらに公式的なメカニズムとの差異を際立たせるための工夫である。

第一義的な定着のためのメカニズム
表14-1に示された6つの第一義的な定着のためのメカニズムは,リーダーたちが組織に対して,いかに自分自身の信念にもとづいて認識し,思考し,感じ取り,さらに行動するかを教えるためにリーダーたちが活用できる主要な「手段」である。これらは便宜上順番に説明されるけれども実際には同時並行的に表われてくる。これらは成長途上の文化に備わる,目に見える人工の産物(antifacts)であり,通常組織の「風土(climate)」と呼ばれるものを直接的に生みだす(Schneider,1990;Ashkanasy,Wilderom & Peterson,2000)。

(1)リーダーが関心を示し,測定し,コントロールすること
創設者,リーダー,マネジャー,両親にとって,彼らが信じ,大切と思っていることをコミュニケートする際のもっとも効果的なメカニズムは,彼らがシステマティックに関心を寄せていることそのものなのだ。ということは,彼らが目をとめることから,彼らが測定,コントロール,褒賞することに対してコメントする行動までのすべて,さらにシステマティックに対応するほかの方法までを含めたすべての方法を意味する。さらにある領域に対してつねに発せられるコメントや質問であっても,公式のコントロールや測定のメカニズムと同等の効果を発揮し得る。

もしリーダーがこのプロセスを理解していると,ある対象に対してシステマティックに関心を示すことが,その行為に込められたメッセージをコミュニケートするための強力な方法になることは間違いない。とくにリーダーが自分自身の行動においてつねに,一貫性を保っているときにその効果も著しく高まる。逆にリーダーがこのプロセスに伴うパワーに気づいていない,もしくは彼らが関心を示す対象が一貫していない場合には,部下や同僚は,そのリーダーの行動が本当に何を示しているかを判断するために,混乱した時間とエネルギーを費やすこととなる。あるいはリーダーには何の動機も伴っていないのに,敢えて動機を推量しようとする。このメカニズムは,「あなたが願っていることはともかく獲得できる」という表現に適切にとらえられている。 ここでは,関心を寄せる際の強度ではなく,一貫性が重要だ。具体的な例を紹介すると,ある製造業の業界で最近安全に関する会議が開かれたが,アルコア社(AIcoa)から参加していたスピーカーが次の話を紹介した。アルコアの前CEOのポール・マクニールは安全がいかに重要かを従業員に徹底したいと考えており,それを実現するために,すべての社内のミーティングの最初の議題として安全の課題を持ってきていると紹介した。またアルファパワー社(Alpha Power)では,マネジャーの職務報告の話題として,まず彼らが遭遇した安全の問題を真っ先に取り上げている。どの組織にもたくさんの安全保全のためのプログラムが準備され,シニアマネジャーも安全の重要性を強調しているけれども,このメッセージは彼らが日頃安全についてつねに質問を投げることを通じてもっとも効果的に伝わるのだ。

ダグラス・マクレガー(McGreger,1960)は,ある企業が彼に対して人材開発プログラムを開発することを支援してくれるように依頼してきたときの話を,次のように紹介している。この企業の社長は,マクレガーがどのようなプログラムを作り,どのように実施するかをきちんと提案してくれることを期待していた。しかしマクレガーはこの社長に対し,彼が真剣にマネジャーを発見し,開発することに関心を寄せているかどうかを尋ねた。この社長が本当に関心を抱いていることをたしかめたあとマクレガーは,開発をモニターするきちんとした方法を設定するように提案した。言い換えると,社長がこの過程に十分に関心を寄せることをスタートさせるべきだということを助言したのだ。この社長はこれに合意し,彼の部下たちに,今後シニアマネジャーの年間ボーナスの半分は,前年度に各シニアマネジャーが直属の部下の開発にどのような成果を収めたかによって決定されると告げた。さらに加えて,彼自身は何も具体的なプログラムを持っていないけれども,各四半期ごとに,各シニアマネジャーが人材開発の分野でどのようなことを達成したかを尋ねるとも告げた。さまざまなプログラムを導入するうえで,シニアマネジャーにとって年間ボーナスが最大のインセンティブだと考える方が多いかも知れない。しかし実際には定期的に,何を成し遂げたかを報告しなければならなかったことのほうがさらに効果的だったのだ。シニアマネジャーたちはさまざまな活動の数々を実行に移し,さらに企業内でそれまでばらばらに実施されていた活動をひとつにまとめ上げた。その後2年間にまとまりのあるプログラムが生みだされ,この企業に多大の貢献をもたらしている。社長も四半期ごとのレビューを欠かさず,年末には各マネジャーが部下の開発の分野で何を達成したかを評価し続けている。結局彼は社内に具体的なプログラムを押しつけることはなかったけれども,人材開発に対して一貫した関心を示し,その前進を褒賞し続けることを通じて,組織に対して彼が人材開発を重視している事実を明確に伝えたのである。

この対極の例として,デジタル・イクイップメント社(DEC)の一部のマネジャーの例を紹介しよう。このケースではマネジャーの一貫しない,焦点の定まらない関心の示し方こそ,部下がシニアマネジメントが望むことに対する関心をなくすことを助長し,その結果部下を間違った方向に導くことになることが明確に示されている。たとえば,ある技術グループの頭のよいマネジャーが重要なプロジェクトを開始して,部下からの全面的な協力を要請していた。しかしその2週間後に彼は全く新しいプロジェクトを開始した。しかしそのとき彼は,部下が古いプロジェクトを忘れてよいかどうかについて明確な指示を出さなかった。組織内のふたつか3つ下のレベルの部下たちは,このマネジャーの行動を支離滅裂のものととらえ,その後自分たちが実際にやっていることに対しては自己の判断に頼るようになっていった。

創業者やリーダーが関心を寄せていることに対するもっとも重要なシグナルは,プラニングや予算編成に関わるミーティングやそれに関連する活動において伝えられる。それ故にプラニングや予算編成がきわめて重要な経営プロセスになっているのだ。部下に対して,各課題に対してシステマティックに質問を投げることによって,リーダーはその問題をどのようにとらえるべきかについてのリーダー自身の見方を伝えることができる。プランに含まれる最終的な内容そのものは,プラニングのプロセスで達成される学習を上回って重要であるとは言い切れないかも知れないのだ。

たとえばスミスフィールドは(第13章参照),プラニングに当たっての彼の方法においては,部下に対して,部下の担当する部門においては自律性と遂行責任を自らで保ちながら,財務的な結果責任は必ず果たすべきことを明言していた。つまり財務上の結果に焦点を絞ることによって,彼のメッセージをしっかり伝えていたのだ。これに対してサム・スタインバーグとケン・オルセンは,そのプラニングのプロセスにおいてのほとんどすべてのことについて細かい質問を投げた。スタインバーグの示した,店舗をきれいに保つという過剰とも言えるこだわりは,彼がつねにこのことについてコメントを繰り返し,彼の基準からの逸脱を敏感に見付け,さらに将来店舗をきれいに保つために何ができるかをつねに尋ね続けた行為によって明確に伝えられた。オルセンの抱いた前提認識は,すぐれたマネジャーは自分のところの状況をつねにコントロールしていなければならないというものであったが,これは彼の将来のプランに対する質問,さらにそのプランが製品とマーケットの課題に対する詳細な知識を示していないときに示される彼の怒りのなかにつねに明瞭に示されていた。
(つづく)平林

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- 傾聴と相互理解の難しさ - テクノファは、「組織マネジメントシステム教育」と「人モチベーション教育」の2大テーマを車の両輪のごとく強力に駆動させ、組織経営という車を着実に運転していただけるようになることを念じながら、日頃の研修をさせていただいております。社会に貢献するためには、知ることだけではなく、できること即ち実践できるようになることが重要であると考え、研修の大きな目標を「システムという枠の中に実体を入れる」ことを目指してきました。 市場経済至上主義が行き過ぎた結果、利益追求がすべてに優先する社会になっていますが、新型コロナウイルスの世界的疫病蔓延で、表面的な利益追求でなく本質的な幸福追 …