基礎編・理論編

リーダーはいかに褒賞と地位を配分するのか | テクノファ

投稿日:2022年4月11日 更新日:

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。その中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われるところを紹介します。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
(5)リーダーはいかに褒賞と地位を配分するのか
どの組織のメンバーも,昇進についての自らの経験,その業績評価,さらにその企業では何に価値が認められ,何が罰せられるのかについての上司との話し合いからいろいろ学習している。褒賞される行動と罰せられる行動の特徴,さらに褒賞,罰則そのものに伴う特性がメッセージとして込められる。リーダーは褒賞と罰則を彼らが関心を寄せる行動に結びつけることによって,自らのプライオリティー,価値観,前提認識を迅速に伝えることができる。

私はここでは,信奉され,公表され,説教された方法ではなく,実際に実施されている実践の方法を指している。たとえばゼネラルフーズ社(GF)のプロダクトマネジャーたちは,自らが担当する製品に対する効果的なマーケティングのプログラムを開発することが期待されており,その18か月後によりすぐれた製品に結実させることによって褒賞されている。しかし18か月の間にそのマーケティングのプログラムの成果をはっきり確かめることは不可能なので,そこで褒賞が与えられるのは,そのマネジャーが「すぐれた」マーケティングのプログラムを作ったという功績(これはそのプランを承認するシニアマネジャーに対してプランを売り込む能力によって評価される)に対してであり,マーケットにおけるその製品の最終的な実績に対してではないのだ。

ここでの暗然の前提認識は,シニアマネジャーのみがマーケティングプログラムを正確に評価する側面で信頼できるというものだ。したがってプロダクトマネジャーがその製品に対して技術的な結果責任を負っていても,実際にはその高額のマーケティングのプログラムを実施するために本当の遂行責任を負うのはシニアマネジャーなのだ。ジュニアレベルのマネジャーがここで学ぶべき点は,シニア経営陣の視点から見て適切な特性とスタイルを備えたプログラムをいかに作りだすか,という点なのだ。

もしジュニアレベルのマネジャーがマーケティングに関する意思決定を行う側面で真の独立性を保持しているという幻想を抱いている場合には,成功を収めたマネジャーに与えられる実際の褒賞の相対的な無意味さに目を向けるべきなのだ。つまりすぐれた業績をあげたマネジャーはよりすぐれた製品をマネジする,やや大きなオフィスを与えられる,やや高い昇給を受ける。とはいえ彼らはなおシニア経営陣のレビューを受けるために自分のマーケティングプログラムをプレゼンテーションしなければならない。またかなりシニアのプロダクトマネジャーも含めて,毎年そのプレゼンテーションの練習に4,5か月間を当てなければならない。かなり大胆にプロダクトマネジャーたちにパワーを委譲しているように見える組織においても実際にはマネジャーの権限をきわめて厳しく制約しており,かつ彼らをシニアマネジメントと同じように思考するようにシステマティックに訓練しているのだ。

基本的なポイントを要約すると,もし創業者やリーダーが自分の価値観や前提認識が学習されることをたしかなものにしたいと目指すのであれば,彼らの前提認識と一致するように褒賞,昇進,地位のシステムを作り上げることが求められる。最初はこのメッセージはリーダーの日頃の行動を通じて広がっていくけれども,長期的には昇進といった重要な褒賞がこの日常の行動と合致する形で配分されているか否かによって判断されることとなる。

たとえばアルファパワーの安全プログラムは,社員によって信じられていた褒賞と実際の褒賞との間に緊張が生じ得る好例のひとつであった。全社で職務上の安全を尊重する行動を褒賞することに取り組んでいたし,従業員ももし危険を知らせる兆候を発見したら作業を止めるように奨励されていた。その場合には判断のためにただちに専門家が招へいされた。このやり方は時間もかかり,生産性を低下させたとはいえ,安全こそもっとも重要だという認識を高めた。従業員とスーパーバイザーのレベルでは安全を守る行動に褒賞が与えられたが,中間管理者は彼らのキャリアはどれほど彼らが生産的であるかに懸かっていると感じていた。この結果,スーパーバイザー,あるいは監督者層は,不明確で,混乱したインセンティブ(刺激給)配分の状況に置かれていた。彼らはまず第一に安全を守ろうと願っていたけれども,同時に彼らの上司はたしかに安全を標榜しながらも,彼らの業績上の信頼性と生産性にもとづいて褒賞を決めている事実も十分に理解していたのだ。

ほとんどの組織はさまざまな価値観を信奉している。しかしそのうちのいくつかは内部的に矛盾を含んでいる。そのため新入社員は,一体何が褒賞されるのかを自らで解明しなければならない。それが顧客満足なのか,生産性なのか,安全なのか,投資家に対するリターンの最大化なのか?実際の昇進や業績評価レビュー等を観察することを通じてのみはじめて新入社員は,組織が機能することを支えている根本的な前提認識が何であるのかを理解できるのだ。

(6)リーダーは人材をいかに選抜し,昇進させ,退社させるのか

リーダーの抱く前提認識を定着させ,広げていくための目に見えにくいけれども,きわめて強力な方法は,新しい人材を採用するプロセスである。たとえばオルセンは,組織を築く際のもっとも効果的な方法は,きわめて頭がよく,発言力を備え,タフで,自律的な人材を採用し,然るのちに大きな責任と数多くの自律的行動を割りつける方法だと考えていた。これに対してチバ・ガイギー社(Ciba-Geigy)では,すぐれた教育を受けてきた,頭のよい人材,かつ

企業が100年間を越えて築いてきた,より組織化の進んだ文化にフィットする人材を採用していた。

文化を定着させるメカニズムは,ほとんどの企業で無意識のうちに進められることから外からは見えにくい。創業者やリーダーは,そのスタイル,前提認識,価値観,信条において現役メンバーと似通った,魅力に富んだ志願者を選ぶ傾向が強い。このような人材は採用すべき最高の人材と認められ,かつその採用を正当化するための特性が認められる。誰か組織外の人がこの採用のプロセスに深く関わらない限り,社内で保たれている暗然の了解事項が,採用担当者の応募者に対する認識にどれほど大きな影響を及ぼしているかについては全く知りえない。

もし企業が人材サーチ会社を採用プロセスで使っている場合には,そのサーチ会社が,社内で保たれている暗黙の採用基準をどれだけ理解できているか,という興味深い疑問が浮かび上がってくる。サーチ会社はもちろん採用を目指す企業の文化環境の外部で活動を続けているわけだから,サーチ会社が暗然のうちに当該企業の文化を再生するのか,あるいは変えるのか? サーチ会社はこの側面における彼らのパワーに気づいているのだろうか? 企業の基本的な前提認識はこの採用プロセスに加えて,誰が昇進し,誰が昇進しないのか,誰が早期退職していくのか,誰が企業を去るのかを通じて補強される。従業員が企業から去るケースとしては,企業を解雇される場合,さらにあまり重要でないと認識されている職位に異動させられる場合が含まれる。とくに高いレベルの人材が閑職に追いやられるケースは,「2階に追いやられてはしごをはずされる」と表現されている。DECでは,あまり優秀でない人材,アイディア論争ゲームでしっかり発言できない人材,あるいは自説にこだわり過ぎる人材はすぐに壁で囲まれてみんなから遮断されるか,ないしはおだやかであるけれども,なお一貫した方法で無視され続けるプロセスを通じて外部へ放逐されていた。チバ・ガイギーでも同様な隔離が行われていた。人材が企業,製品,シニアマネジメントに対して十分に関心を示さなかった場合である。両社とも,不正または道徳にもとる行為を犯したとき以外,人材を解雇することはなかったけれども,上記のような隔離または仲間はずれが追放と同等の意味を持っていたのだ。

第一義的な定着メカニズム:まとめのコメント
これらのメカニズムはすべて,リーダー自身の信条,価値観,前提認識が一貫している限り,お互いに影響を及ぼし合い,補強し合っている。私はこれらのカテゴリーを分類することによって,リーダーが自らの原則をコミュニケートできるさまざまな方法が存在することを示すことに努めてきた。組織に参加してくる新入社員は,リーダーの本当の前提認識を解釈するために彼らが活用できる豊富なデータを持っている。したがって社会化のプロセスの大部分は,その組織の日常の仕事の進め方のなかに定着しているとも言える。新入社員は,重要な文化の前提認識を学ぶために特別の訓練や導入教育のセッションに出席する必要はない。これらの前提認識はリーダーの日頃の行動に明らかに示されているからだ。

第二義的な明確化と補強のためのメカニズム
まだ若い組織においては,デザイン,構造,仕組み,習慣,ストーリー,公式的な声明は文化を補強するものであって,文化を創造するものではない。さらに組織が成熟し,安定してくると,これらのメカニズムが将来のリーダーにとって制約をもたらすものともなる。しかし成長途上にある組織では,これらの6つのメカニズムは,これまで検討してきた第一義的なメカニズムと合致するときにのみ機能するという意味で,第二義的メカニズムと呼ぶべき存在となる。もしこれらに一貫性が備わっているときには,組織のイデオロギー(理念)を築きはじめ,その結果当初から非公式的に学ばれてきたことのほとんどを公式のものに転換できる。しかしこれらに一貫性が欠けている場合には,忘れ去られるか,もしくは組織内部のあつれきの源になりがちだ。

すべての第二義的メカニズムは,文化における人工の産物ととらえることができる。これらはきわめて可視的であるけれども,リーダーの実際の行動を観察することから得られるインサイダーの知識に欠ける場合には,これらを解釈することが困難になる。組織が成長段階にあるときには,まず最初に促進的前提認識と制約的前提認識が表明されることが一般的だ。またこれらの前提認識は,記述された文書,あるいは可視的なデザイン,仕事の進め方,慣習,ストーリーといった,公に発表された理念等から類推されるものではなく,リーダーが自らの行動を通じて表明することにもっとも明確に表わされる。しかしわれわれがのちに学ぶように,これらの第二義的メカニズムが,さまざまな前提認識を広く浸透させる過程で非常に強力に働くことも起こり得る。たとえば,新しいリーダーが成熟した組織で既存の前提認識を変革したいと試みるときなどにだ。
(つづく)平林

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