本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006年頃来日した時の立役者(JCC:企業人キャリアコンサルタントの集まり)でありました。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
組織デザインと構造
私は,経営幹部が活動している姿を観察したときに,とくに創業者によって導かれている第一世代のグループにおいて,組織デザイン,つまり製品ライン,市場の地域,機能組織の責任等がいかに編成されているかの側面が,高度な熱意を引きだしているにもかかわらず,明確な論理をそれほど引き出していない事実に気づいた。外部環境のなかでいかに生存し続けるかという第一義的な主要な課題から発せられる要求が,社内の関係に関する前提認識,さらに現状の分析というよりは,リーダーの経歴から生まれてくるいかにものごとを遂行すべきかについての強力な前提認識と混同されているように観察されたのだ。もしそれがファミリービジネスである場合には,その組織構造において,主要な家族メンバー,信頼できる同僚や友人に対して十分な余地を設けておかなければならない。また株式が公開されている企業においてさえ,外部からの職務に対する要求よりも,個々のマネジャーの才能を中心にして組織化されている例が多かった。
創業者は,最高の生産性を達成するためにいかに組織を作るべきかについて強力な理念を保持していることが多い。一部の創業者は何が正しいかは究極的に彼らしか判断できないと考えていて,きわめて厳格な階層構造と中央コントロールの組織を築く。またほかの一部の創業者は,彼の企業の強味はその人材に求められ,その結果権限をできる限り組織の下部に委譲するという権限分散の進んだ組織を作る。さらにほかのリーダー,たとえばオルセンのようなリーダーは,彼らの強味は交渉の末のソリューションに求められると信じており,まずすぐれた人材を採用し,然るのちに彼らをお互い同士ソリューションを競わせる構造を築き,その過程でマトリックス組織を生みだした。また一部のリーダーは組織ユニットごとの自由度を増すために相互依存性を最小にする方法に確信を抱いているのに対し,ほかのリーダーはチェック・アンド・バランスを確立することに確信を抱いており,その結果いかなる組織ユニットも独立的に機能することが許されない組織を構築していた。
その組織構造がどれだけ安定的であるべきかについての考え方にも差が見られる。一部のリーダーはひとつのソリューションを求め,それに固執するのに対し,そのほかのリーダーはオルセンのように,つねに変化を続ける外部の状況に発見される問題にさらにフィットするソリューションを求めてその組織にたえず再設計を繰り返していた。組織の最初のデザインとそれに続く時折の再設計は,創業者またはリーダーが彼らの心の奥深いところに抱いている前提認識,つまりタスク,タスクを達成するための手段,人間の本性,あるいは人々の間に生みだされる人間関係の正しい姿に関する前提認識を組織に定着させるための十分な機会をもたらす。一部のリーダーは,何故自らの組織をそのような方法でデザインしたのかをきちんと説明できる。しかし一部のリーダーは後知恵でそれを合理化するに留まり,彼らが用いた前提認識をしっかり自覚できていないように見えることもある。とくに彼らの用いた前提認識が結果から類推できる場合においてさえ,上記のような状況が起こりうる。いずれにしても,組織構造とデザインは,リーダーの抱く前提認識を補強することは可能であるけれども,その前提認識を定着させるための明確な基礎を提供することはできない。何故なら組織構造はその従業員によって,さまざまな方法で解釈されるからである。
組織のシステムとプロシージアー(手続き)
組織のライフのもっとも目につく部分は,毎日、毎週,毎月,毎期,あるいは毎年繰り返されるルーティン業務,手続き,リポート,フォーム,そのほかの遂行されるべき繰り返しのタスクである。そのようなルーティン業務の起源は組織メンバー,ときにはシニアマネジャメントにも知られていない。しかしその存在そのものが,とかくあいまいで,不明瞭になり易い組織の世界に,構造と予測可能性をもたらしている。従ってシステムやプロシージャーも,組織内の生活に予測可能性をもたらし,その結果不明瞭さと不安感を減らすという,公式の組織構造と同じような機能を果たす。従業員は階層構造に伴う息苦しさに不満をもらすことが多いけれども,彼らが不確実で,予測不能の世界から生ずる不安感を回避するためにも繰り返しのプロセスを必要としているのだ。 グループメンバーがこの種の安定と不安感の減少を願っている場合には,創業者とリーダーは自分の前提認識を巡ってシステムとルーティンを築くことによって,自分の前提認識を補強する機会を活かすことが可能だ。たとえばオルセンは,数多くの委員会を作り,そこへ出席することを通じて,真実は論争を通じて到達することができるという彼の信条を補強することに努めていた。スタインバーグのほうは彼の絶対的権威に対する信念を,出席者の発言に短時間耳を傾けたあと,断固たる命令を下すというレビューのプロセスを生みだすことによって補強していた。チバ・ガイギーでは,科学から導きだされる真理についての前提認識を補強するために,重要な意思決定を行う前には公式のリサーチ研究を先行させる伝統を守っていた。アルファパワーでは,電気,ガス,蒸気を送る際の潜在的な危険に関する前提認識を補強するために,どのように行動すべきかについて何百というプロシージャー(手続き)を文書化し,併せてコンプライアンス(遵守)をたしかなものにするために訓練とモニタリングを継続的に実施していた。
システムやプロシージャーは,「関心を寄せる」というプロセスを公式のものにすることが可能であり,リーダーが本当に大切に思っていることについてのメッセージを補強することができる。この理由から先に紹介した社長が経営開発プログラムを切望していたことから,彼の四半期ごとのレビューにおいて各部下のエクゼクティブが人材開発の分野でどのようなことを達成したかを尋ねることを公式プロセスにすることによって自らの目的を効果的に達成したのである。公式的な予算とプラニングのルーティンは,プランや予算を実際に作るという側面よりも,部下に何に関心を寄せるべきかを思い出させる手段を提供する側面に貢献する。
もし創業者やリーダーが補強のメカニズムとしてのシステムやプロシージャ―をデザインしないと,文化の中に歴史的に形成されてきた矛盾を表出にドアを開くこととなり,さらには最初から発せられてきた彼らのメッセージを弱める結果を招く、したがってオルセンと同様に,ラインマネジャーは自分の部門のオペレーションをおフルにコントロールしていかなければならないと信じている強力なCEOは,その組織の財務コントロールのプロシージャ―がこの信条と合致していることを確かなものにしなければならない。もしこのリーダーが強力な中央集権的な本社財務組織が生み出されることを容認し,かつこの組織が生み出すデーターに関心を寄せ続ける場合には,マネジャーたちには自らの部門の財務をしっかりコントロールすべしという前提認識とは一致しないシグナルを送り続ける結果を招く。その結果,ライン組織には一つのサブカルチャーが生まれ,本社の財務部門にはさらに違った種類のサブカルチャーが生まれることとなる。そして二つのグループがお互いに争いはじめると,これは二つの部門のマネジャーたちの性格や競争心から生まれた結果ではなく,むしろ最初のデザインの論理に含まれた矛盾,あるいは不一致から直接的に生みだされたものとなる。
組織の儀式としきたり
文化を専門とする一部の学者は,組織に備わる儀式としきたりの特別なプロセスを,文化の前提認識の解釈とコミュニケーションのための中心的な存在と考えている(Deal & Kennedy,1982,1999;Trice & Beyer,1984,1985)。儀式としきたりは一部の前提認識を公式化するための象徴的な方法であり,観察の対象となる重要な人工の産物である。しかし儀式やしきたりから学べる教訓は必ず市も簡単に解釈できるものではない。したがって私自身は,これらを第一義的な定着のためのメカニズムとは考えていない。むしろこれは主要な文化の前提認識の重要な補強要因,とくにこれらの前提認識が第一義的な定着のためのメカニズムによって明確にされた時の補強メカニズムであると考えている。
たとえばDECでは,重要な長期の戦略的課題を話し合う毎月の「森のミーティング」は,本社を離れた場所での打ち解けた雰囲気のなかで,地位の差を考慮しない平等な立場で,対話を重視する形で開かれていた。このミーティングには通常2日からそれ以上の時間が費やされた。さらにハイキングとか山登りといった運動の活動がつねに繰り込まれていた。オルセンは,インフォーマルな雰囲気で楽しいことをみんなで一緒に行うことによって,人材はお互いを信頼し,よりオープンに接することを学習するということを固く信じていた。DECがさらに大きくなると,さまざまな機能組織の部門もこのミーティングの形を採用したので,この本社を離れたミーティングはDEC企業の伝統となっていた。各部門はさまざまな名前,場所,独自のインフォーマルな方法にもとづいてミーティングを開いていた。
チバ・ガイギーでは,年次総会につねに参加者が驚く余興のイベントを含めていた。参加者の全員がそれらがあまり得意ではなかったので,それらには地位の差を越えて参加できた。参加者はまずリラックスし,ベストを尽くし,失敗をし,和気あいあいの雰囲気のなかでお互いの成功と失敗を笑い合った。
「われわれはいつもまじめな科学者であり,経営者だけれど,ゲームを楽しむことを知っている」という事実をグループ全体で証明しようと頑張っているようにも見えた。そのゲームのなかには,公式の職場では決して実現しないインフォーマルなメッセージが伝わり,厳格な階層組織を何らかの形で償なっているようにも見えた。
アルファパワーでは,とくに環境保全と安全の活動においてティームワークの価値観が,「われわれの働き方」という毎月開かれる特別の昼食会で象徴的に取り上げられていた。このミーティングには,その期間内に卓越した業績を収めた3つから4つのティームのメンバー,さらにシニア経営陣が出席した。各ティームは全体グループに対して,自分たちがどのようなことを,どのように達成したかについて発表することが求められた。各ティームの写真が社内報に掲載され,追加の褒賞と公表の機会として役立っていた。さらにこの企業には安全分野の成果に対してあらゆる種類の賞が準備されていた。
ほとんどの企業で伝統的な活動や公式化された儀式の例を見いだすことができる。しかしそれらは,組織文化を形作っているさまざまな前提認識のごく一部を反映しているにすぎないことが多い。したがって伝統的行事の研究を重視し過ぎることには危険も伴う。結局のところ,文化の一部分は適切に解釈できるかも知れないけれども,実際に何が起こっているのかについて,あるいは全体像のなかでそれらの伝統的活動がどれだけ重要であるのかを決定するための基本的データは提供されていないからだ。
(つづく)平林