実践編・応用編

過労自殺について | テクノファ

投稿日:2022年4月26日 更新日:

このコーナーは、活躍している「キャリアコンサルタント」からの近況や情報などを発信いたします。今回はキャリアコンサルタントのT.Fさんの便りです。

(過労自殺について)
就労支援の現場では、キャリアコンサルタントとして精神疾患に罹りながら就労を目指す方との面談を頻繁に行いますが、精神疾患に悩まされている方の多さに驚かされます。最近、社員が過労から自殺したニュースが報道されることが時々あります。”うつ病”の発症による自殺とみられています。亡くなられた方は新入社が多いのですが、将来に夢を持たれて社会人をスタートされたことを思うと言葉がありません。日本を代表する企業において、このような自殺が繰り返されていることが残念でならないのと同時に”うつ病”の恐ろしさを再認識させられます。せめて、”うつ病”に対して職場の管理者を含め働く人達が正しい認識をもっていたら、自殺は未然に防げたのではないでしょうか。

話は変わりますが、日本における自殺者はどのような状況なのかご存知でしょうか。平成10年に3万人を超えた自殺者はその後14年間多少の増減をしながら3万人台で推移します。そして、様々な対策が効を奏してか平成24年に2万人台に減少し昨年は2万4千人余りとなっています。自殺者は確実に減少してきましたが、企業の中でも労災として認定される自殺は減少しているのでしょうか。

調べてみると、平成27年の精神障害による自殺者(未遂を含む)は労災請求199人に対し、93人が支給決定され、10年前に比べて倍以上に増加していました。行政によりメンタルへルス対策の指針が出されたりワークライフバランスが叫ばれ、今般企業に義務付けられたストレスチェックの実施などが進められても、企業では未だ問題は解決していないのが実態のようです。コスト削減で社員が少ない、グローバル化で企業競争が一層厳しい、全ての仕事にスピードを要求される、IT含め技術革新の進展・・・、人を大切に育成する余裕もなく、業績を上げることに主眼が置かれ社員に目が届いていないのかもしれません。

もし、企業に所属する方がいましたら自分の職場をチェックしてみてください。働く人達の”うつ病”に対する認識はどうでしょう。”うつ病”は心の病気ではなく脳の病気であり、過剰なストレスにより脳内の神経伝達物質の減少が原因です。そして、この病気は誰にでも罹る可能性があると言われています。”うつ病”に罹りやすい人は真面目、几帳面、責任感が強い等の性格傾向があり、総じて”頑張りやさん”と言ってよいでしょう。私は今まで沢山の”うつ病”に罹った人に接してきましたが、怠け者でいい加減な人に会ったことがありません。企業は、そもそも、”頑張りやさん”を好んで採用しているはずです。誰でも”うつ病”を発症する可能性があると言われるのはこのような理由からです。

そして、恐ろしいのは、そんな性格の人が仕事を任され頑張りすぎてメンタル不全に陥った時です。皆さんは”うつ病”に罹った人に対してどのようなイメージをお持ちですか。この病気に罹る人は、「弱い人」「仕事ができない」…と、かつてはネガティブなものばかりでした。最近は研修などで正しく認識されるようになりましたが、誤った知識で “うつ病”に罹った人に接している人が多いのも現実です。

そのために、不幸にも”うつ病”に罹った人は、「弱い」「仕事ができない」といった烙印を押されたくない一心でこの病気を隠し深刻化してしまう傾向があります。その対策に客観的に把握できるツールを活用し病気に気付いて専門医を受診できる仕組みをつくったり、周囲の人が気づいてあげて”うつ病”の渦から引っぱり出してあげる必要があります。

企業で亡くなる新入社員が高学歴の人が多いようですが、不安を抱えながらも周囲の期待に応えようと一生懸命仕事に向かい、ヘルプを出したくても出せなかったのではないでしょうか。”うつ病”は心のカゼと言われますが、決して軽視できる病気ではなく、意欲や興味を失わせ自殺をも想起させる危険な病気です。「病気について知ったところで仕事が減るわけでもないだろう」という方もいると思いますが、ヘルプを出せば打つ手はあるかもしれません。

我々キャリアコンサルタントはその支援者として、身動きが取れず悩みもがいている人を渦の中から助け出す役割も担っており、今後この役割は更に重要度を増すことでしょう。真に命を賭してやらねばならない仕事ってどんな仕事でしょう?
皆さんの目の前にそのような仕事は存在しますか?
(つづく)K.I

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

旧友との関係を断つ勇気|テクノファ

テクノファは、あなた自身が輝いて働く(生きる)ためのトレーニング・講座をご提供しています。何よりも、自分の人生を自分で計画し切り開いていく、そのための自分自身が、何になりたいのか? そもそも自分は何者なのか? どうやったらなりたいものになれるのか。一つ一つを明確にすることで、地面が揺らいだときにも、急に会社の方針が変わったとしても、しっかりと地面をつかむことができ、自分の働き方をつかむことができるのです。常に成長し変化している人の成長を支援することがキャリア開発支援です。 キャリアのカウンセリング・コンサルティング・ガイダンスや、キャリア教育、人材育成など、人の成長にかかわっている方々や、部下 …

キャリアコンサルタント実践の要領 75 | テクノファ

このコーナーは、テクノファキャリアコンサルタント養成講座を卒業され、現在日本全国各地で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報などを発信しています。今回はS.Sさんからの発信です。 先日、ある記事を見つけた。 「これでいいのか、現代社会」と題された記事の内容は、JR山手線で起きた人身事故において、多数の野次馬がホームに押し寄せ、スマホを片手にシャッターを切っていたという異様な光景に対するものだった。しかも、笑顔で撮影している者も多数いたという。 これが事故なのか、または自殺による飛び込みなのかは定かではないが、いずれにしても仮にも人の命がかかっている現場にもかかわらず、まるで他人 …

キャリアコンサルタント実践の要領 19 I テクノファ

テクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業し、キャリアカウンセリングの実践で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報、及び実践の様子などをお伝えします。今回はM.Iさんです。 私が活動しているNPO法人キャリア形成支援センターでは2ヶ月に一回勉強会を開催しています。会員の皆さんのご希望もあり今回のテーマは「ロジャーズ」について再確認することになりました。 キャリアコンサルタントが本格的にロジャーズについて学ぶとしたら膨大な時間になるのですが、今回は2時間という限られた時間であるため、ロジャーズの足跡をたどりながら、その理論や哲学の変遷を確認していこうということにしました。 …

キャリアコンサルタント実践の要領 5 I テクノファ

キャリアコンサルタント実践の要領 1に続く記事です(「・・・実践の要領」は話題があちこちに飛び読みづらいかもしれませんがご容赦ください)。キャリアコンサルティングはカウンセリングではありませんが、来談者の問題や、来談者の内的キャリアをより深く理解できなければ良いキャリアコンサルタントになれません。キャリアコンサルティングの質を高めるために、あるいはより効果的なキャリアコンサルタントになるためには、キャリアカウンセリング実践の基本を理解しておく必要があります。 「キャリアコンサルタント実践の要領 1」では、1.精神分析アプローチ、2.来談者中心アプ口-チ、3.認知的アプローチを説明しました。その …

キャリアコンサルタント養成講座11 I テクノファ

今回は、職業相談の奥深さについて振り返ってみようと思います。当然ですが、職業相談に来られる方の目的は仕事の相談です。相談の目的が明瞭であれば、ご本人の意向や希望に沿ってマッチングや自己アピールの支援等を比較的順調に進めていくことができますが、このような例はごくわずかです。 相談の目的が仕事に関することであっても、具体的なビジョンが描けず、何をやっていいか分からない方が多くおります。ただし、食べていくために収入が無いのは困る、何か仕事はないでしょうかという相談から話が始まります。 インテーク(最初の面接)の中で、そのような心境状態に至った段階を理解するようにします。何をやったらよいか分からないと …