基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 163 | テクノファ

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今回はキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインがキャリアコンサルタントのために2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第16章  文化がどのように変化するかについてリーダーは何を知っておくべきか
本章では,組織が成長し,成熟するに連れて文化が成長し,変化していく自然のプロセスを検討する。リーダーはこのプロセスを推進するためにもプロセスをよく理解することが求められる。ここで重視すべきは進化(evolution)だ。後の章でマネジされた変革を検討する。これは,自然の進化によるプロセスが遅すぎたり,間違った方向に向かっているときに,リーダーとして引き起こすことが求められる,マネジされた変革を指す。

文化が変化し,あるいは変革される方法は組織が到達していると感ずるステージ(段階)によって決まってくる。表16-1はこれらの段階を表示し,さらに各段階にもっとも適合したメカニズムを明らかにしている。これらのメカニズムは蓄積されるものであり,後の段階では前段階のすべてのメカニズムがなお機能しているけれども,新しいメカニズムがさらに加わってくるのだ。

表16-1 文化変化のメカニズム
組織の段階    変革のためのメカニズム
創世記と早期の成長期
1.総体的または具体的な進化を通した斬新的な変革
2.インサイト(洞察)
3.文化に存在するハイブリッド人材の登用
中年期
4.選ばれたサブカルチャーからのシステム的な昇進
5.技術的な誘発
6.アウトサイダーの注入
早熟と衰退期
7.スキャンダルと神話の崩壊
8.人材交代
9.合併と買収
10.破壊と再生

創設期と初期の成長段階
新しい組織を創設し,初期の成長を続ける第一段階では,文化の推進力は創設者と彼らの前提認識からもたらされる。しだいに定着してくる文化のパラダイムは,その組織が当初の目的を達成し,生存を続けていれば,その組織の際立った能力,あるいはメンバーのアイデンティティーの基本,さらには組織をひとつに結びつける心理的な「接着剤」となるととらえることができる。初期の段階で強調される点は,その組織が存在する環境,あるいはほかの組織から区分する点だ。つまりその組織は自分の文化を明確にする,文化をできる限り統合化する,新人に対して文化をしっかり教える(あるいは最初の適応に向けて選抜する)といった努力である。

若い企業に備わる際立った能力は通常,創業者の職業的なバイアスを反映してある一定のビジネス機能に向けた偏りを示す。デジタル・イクイップメント社(DEC)では,このバイアスは明らかにエンジニアリングや製造に向けられていた。ほかの機能組織が地位や光栄を獲得することが困難であっただけに留まらず,これらの機能組織に属する専門職,たとえばマーケティング専門職は,企業の誕生からずっと企業に勤めてきたマネジャーたちから「マーケット担当は自分たちが何を話しているのかも理解していない」と批判され続けた。チバ・ガイギー社(Ciba-Geigy)でも同様なバイアスが科学と研究に向けられていることが観察された(この企業はDECよりかなり古いけれども)。R & Dは歴史的にチバ・ガイギーの成功のもとであったから,科学は際立った能力であると認識されていた。もちろん数多くのマネジャーたちは企業の将来はマーケティング,厳格な財務的コントロール,効率的なオペレーションに懸かっているとはっきり認めはじめてはいたけれども。

この初期段階での変化の意味は明らかだ。若く,成功しながら成長を続ける企業における文化は強力に信奉される可能性が高い。何故なら(1)当初の文化を作った人たちがなおそこに存在している,(2)文化は組織が自らを定義することをたすけ,さらに潜在的に敵意に満ちた環境に向けて道をつけることをたすける,(3)組織が自らを築き,保全することに苦闘し続けているときに,文化に備わる幾多の要素は不安に対抗する防衛手段として学習される,といった理由からである。

したがって意識的に文化を内側から,あるいは外側から変えようとする提案は全面的に無視されるか,強い抵抗を受けることが多い。むしろ主要なメンバーや同盟を組む人たちが文化を保全し,補強することを支持する。このような状況に影響を及ぼし得る唯一の力(フォース)は,生存をおびやかすような外界における危機状況である。たとえば成長率の急激な低下,売上げや利益の減少,製品の重大な欠陥,重要な人材の喪失,あるいは無視できない大きな出来事等である。もしそのような危機が生ずると,創業者の信用が損なわれたり,新しいシニアマネジャーが招へいされたりする。逆に当初の組織がそのまま無傷で残れば,文化も存続する。では組織の初期の成長段階でどのように文化の変化は引き起こされるのか?

総体的,あるいは具体的な進化を伴う斬新的な変化
もし組織があまりに強烈な外部からのストレスにさらされていなかったり,創業者やその家族が長い間その組織に留まっている場合には,その文化は,長年にわたりもっとも効果的に機能してきた部分を保持しながら,少しずつ進化を続ける。ここにはふたつの基本的プロセス,総体的な進化と個別具体的な進化が含まれる(Sahlins & Service,1960)。

(1)総体的な進化
次の段階へ向けての総体的な進化には,多角化,複雑性の増大,区別化と統合化のより高度レベルでの展開,新しく,より複雑な形への創造的な融合等が伴う。数々のサブカルチャーの創成,他国マクロカルチャーへの多様化(多国籍化),私有から公営へのオーナシップの移行,または他社との合併や買収等が,新しい構造,新しいガバナンスのためのシステム,文化の新しい秩序に対するニーズを生む。このような文化の進化に対してこれまでに数多くのモデルが提案されてきたけれども,私自身の経験から言っても,これらのモデルのいずれかの妥当性が検証される前に,もっとたくさんのモデルを検討する必要がある(Adizes,1990;Aldrich & Ruef,2006;Chandler,1962;Gersick,1991;Greiner,1972;Tushman & Anderson,1986)。

この種の進化のプロセスに伴う普遍的な原則は,企業の総体的な文化は,外部環境や内部構造のさまざまな変化に適応を続けるというものだ。基本的な前提認識は保全されるにしても,その表現の形は変化する。つまりその基本的前提認識の特徴を最終的には変化させる新しい行動パターンが生みだされる。たとえばDECにおいては,人材は「論争を通じて真実を見つける」,さらに「つねに正しいことを実行する」という前提認識が激しい論争のなかで行動として表明されてきた。この論争の場においては,経営委員会のメンバーたちが,提案されたアイデアや行動のコースをテストするためにそれぞれの論理のパワーを駆使して論戦を続けた。ここではつねに理由と論理が重視された。しかしDECが成熟して大企業になってくると,経営委員会のメンバー,またはその後継者の各人には,大規模なグループのリーダーとなり,自らのグループの利益に対して責任を持つという気持ちが高まってきた。たしかに経営委員会における論争は以前と同じように盛り上がっていたけれども,その理由と論理は程度の差はあったにせよ,自らのグループを守る方向に傾いていく様子を私自身も感じ取った。DECの初期の文化では,各個人が自分の論理にとどまることが可能であった。しかしDECがたくさんのパワーグループを抱えるコングロマリットに成長すると,かつてと同じ人材が,自らの率いるグループやプロジェクトの代表者として,あるいは防衛者としての立場から発言するケースがますます増加していった。たしかに「正しいことを実行する」,「論争を通じて真実をつかむ」という前提認識はなお信奉されていたけれども,さらに新しい前提認識である「自分の領域を守る」という前提認識にもとづく政治的なプロセスへの傾斜を強めていったのだ。これは「総体的な」進化と呼ぶことが妥当だろう。というのは成長と区分化の避けがたい結果として生じた進化であったからだ。

(2)個別具体的な進化
個別具体的な進化には,組織内の個別のユニットごとの自分たちの環境への適応,さらにそれに続く文化の多様化のコアの企業文化への影響が含まれる。これはさまざまな産業に属する組織がその産業ごとにさまざまな文化を生みだすケースと同様に,サブグループが独自のサブカルチャーを生みだすことを促すメカニズムとしてとらえることができる。したがってハイテク企業は高度に洗練されたR & Dのスキルを開発し,食品や化粧品といった消費財製造会社が高度に洗練されたマーケティングスキルを開発することが説明できる。それぞれのケースでその差異は,世界の本質やその企業の実際の成長の経験に関する,重要な底を流れる前提認識を反映したものとなる。さらに組織内のさまざまな部門はそれぞれ違った環境に存在しているので,各部門はその独自の環境に適応する方向で進化を遂げることとなる(前章参照)。

サブグループが区別化され,サブカルチャーが形成されてくると,そのあとにさらに大規模な文化変革の機会が到来する。しかし初期の段階では上記のような差異が許容され,かつ差異を最小に保とうとする努力が継続する。たとえばDECにおけるサービス部門はかなり専制的に運営されていたけれども,だれもがサービス部門は,カスタマーがタイムリーな,効果的なサービスを望んでいる限り,部門内に厳しい規律が行使されていても仕方がないと認めていたからだ。「正しいことを実行する」というより高位の原則が,さまざまな部門における,経営に含まれる多様性を十分に許容していたのだ。
(つづく)Y.H

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