基礎編・理論編

洞察を通じた自律的進化 | テクノファ

投稿日:2022年5月10日 更新日:

今回はキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
洞察を通じた自律的進化
もしわれわれが文化を不確実性と不安感を軽減するために学んだ防衛メカニズムという風にとらえたとすると,われわれはその文化に伴う強味と弱味をその組織が自己評価することを支援し,さらに組織の生存と効果的な運用にとってそれが必要となった場合には,その文化の前提認識を修正することを支援できなければならない。組織メンバーは,彼らが協力して自己の文化を検討し,その認知的側面の一部を再定義できれば,グループ全体で洞察をつかむことが可能となる。このような再定義には,前提認識に含まれるコアのセットの範囲内で優先順位を若干変える,ないしは障害となっている前提認識そのものをより高位の前提認識に吸収させることによって,その前提認識を破棄するという方法が含まれる。

たとえばチバ・ガイギーでは「われわれは決して人材をくびにしない」という前提認識を保持していたけれども,その事業部門のいくつかで大規模な人員削減の必要が生じた。チバ・ガイギーは,彼らのより高位の前提認識,つまり「われわれは人材を大切にし,すぐれた処遇を提供する」という前提認識に沿ってこの人員削減を遂行したのだ。つまり,再訓練の機会,早期退職者に対する手厚い退職パッケージ,パートタイムの仕事の提供,すぐれたキャリアカウンセリング,さらに職を失った人たちが自分たちはなお価値の高い人間なのだ,と感じさせるそのほかの手段を惜しみなく提供し続けたのだ。

しかし上記は成熟した中年期組織において実現したことであり,若く,成長途上の企業ではとても実現しえなかったということを理解すべきだ。何故ならその成長のプロセスにおいて文化は,そのアイデンティーの形成の一部として切り離せないものになっているからだ。DECにおいても,市場の状況が変化し,コスト削減への圧力が積み上がってくると人材をレイオフすることに対するプレッシャーが強まってきた。しかしDECは,人材が一度採用されれば家族の一員となり,決して強制退職させられることはないという前提認識に縛られていた。そこで「成長がすべてを解決する」というより高位の前提認識が思考を支配することとなった。

DECにおいて長年にわたり実行されてきたインターベンション(改革)の数多くは文化に対する洞察を生んだ。たとえば企業の望ましくない業績が議論された年次ミーティングでは,沈滞したムードがシニアマネジメントを覆い,その状況は「ケン・オルセンか誰かがはっきり方向を決めて,われわれの進むべき道を示してくれたらわれわれももっと業績を向上できるのに」と自分たちの気持ちを明確に表明していた。DECの文化に詳しいわれわれの多くは,これを現実的な要求というよりは魔術的解決への願望というように聞き取った。このミーティングで私自身短いスピーチを行う予定になっていたので,その機会をとらえて次の質問を投げ掛けた。「この企業の歴史とここに存在するマネジャーや人材を考えると,もしここにケン・オルセンが乗り込んできて,みんなにこの方向に進んで欲しいと告げたとしたら,みなさんはそれに付き従うだろうか?」長い沈黙が続いたあと,数人のしたり顔の苦笑が続き,そのあとにもっと現実的な議論が開始された。結局のところ,このグループは,個々人の責任と自律性に関する会社の前提認識を再認識し,再評価し,補強し合ったのだ。しかし同時に将来の行動についての指針に対する願望は,組織内にもっと規律があったらよいという願望につながって行き,またこの規律はシニアマネジャー間のより頻繁な交渉とより厳しい調整によって自分たちのレベルで実現が可能であることに気づいたのだ。

ここでDECのマネジャーは文化こそ重要なモチベーターであり,統合のための力であることを再認識した。さらに彼らは新人が理解を高めるための「新入社員訓練キャンプ」を設立し,併せてたくさんの社内文書を発表した。これらの文書ではDECの文化が明確に説明され,会社の長所として奨励されていた。また彼らが作り出した文化の前提認識や規範は,強力なコントロールのメカニズムとして活用可能であることも再認識した。

上記の洞察にもとづいて,深いところに存在する前提認識と一貫性を保ちながら新しい規範を作ることが可能になる。ときによっては,これらの規範がどのように実際に機能するかをたしかめるだけで十分であることも多い。つまりその影響が現実的に評価可能になるからだ。もしこれらの規範の運用にはコストが掛かり過ぎると考えられる場合には,各人は補完の行動を取ることができる。たとえばDECにおける規範,つまりすべての意思決定はその実施に先立って横断的に関連部署によってチェックを受ける,あるいは賛成を勝ち取るという規範は,その意思決定が正しいものかどうかを知っていないという不安感に対する防衛メカニズムとしても機能していた。しかし企業が大きくなると,このような防御策を運行させるためのコストが急騰した。というのは意思決定を下すまでにますます長い時間が必要になったばかりか,DECで育ってきていない人材,さらにその分野に専門知識を有しない人材とチェックを行っても問題解決に至らないことが多くなったからである。

これに対応する解決策としては,(1)このメカニズをあきらめる案だ。しかし短期間に発生してくる不安感を抑えるためのほかの方法を発見しない限りこの方法の実行は困難だ(たとえば不安感を取り除いてくれる強力なリーダーを見つけだす),(2)補完的なメカニズムをデザインする(たとえば,1回当たりのミーティングの時間を長くしてミーティングの頻度を減らす,または意思決定の重要度に応じて議題を分類,整理する,そのうえで一定の種類の意思決定にのみコンセンサスを求める,あるいはミーティングをスピードアップする方法を見付ける,(3)企業そのものを,コンセンサスのプロセスが運用可能な小規模なユニットに分解する。このような小さいユニットでは人材は仕事を通じてお互いに知り合っており,効果的なコンセンサスのプロセスも築きやすい。DECの進化の過程では,上記のメカニズムのすべてが議論され,試めされた。しかし小規模ユニットに分割するプランは十分に実施に移されることはなかった。というのは逆効果を生む,グループ間の交渉が増えることを回避したかったからだ。

ハイブリッドを通じた,斬新的な進化
ここまでに紹介したふたつのメカニズムは,現在存在している文化を維持し,補強することに貢献する。しかし環境における変化が,組織に対して大規模な変革を迫るというような不均衡を発生させることも多い。つまり文化のパラダイムに伴う,深いところで抱かれている前提認識の一部にチャレンジするような根本的な変革だ。しかし自分のアイデンティティーに強くコミットしている若い組織においてそのような大変革をいかに進めることができるのか?漸進的で,少しずつ増加させる変革を可能にするメカニズムのひとつは,内部人材のシステマティックな昇進の方法の活用である。この種の人材の抱く前提認識は,新しく生まれてきた外部の現実に効果的に適応できなければならない。また彼らがインサイダーであることから,企業の文化の核心部分のほとんどを理解しているし,社内でも信頼を築いている。しかし彼らの性格,それまでの人生の経験,あるいはそれまでキャリアを積んできたサブカルチャーの違いによって,彼らが企業の基本的なパラダイムとは若干異なった前提認識を抱いており,その結果組織を新しい思考と行動の方向に向けて少しずつでも導いていくことができる。このようなマネジャーが組織の重要なポジションに就任すると,彼らはほかの人たちから,「この組織を変えるような方法でこの人が行動している点は好きになれないけれども,少なくとも彼はわれわれの一員であることは間違いない」という感情を引きだすことが多い。

このメカニズムが稼働するためには,まず最初に企業のシニア経営陣の一部が,何を変革するのか,その文化に何が欠けているのか,何が変革を妨害しているか,といった点に洞察を持たなければならない。彼らは,公式的な文化の評価活動に取り組んだり,あるいはほかの組織のリーダーたちに会うことができる教育プログラムに参加することを通じて,上記の洞察をつかむことが可能だ。この種の活動に共通する点は,そのリーダーが自らの文化の外部に一歩踏みだし,自分の文化をより客観的に見ることを可能にしてくれる点だ。リーダーがそこで変革へのニーズを感じ取ると,彼らは重要なポジションに「ハイブリッド人材」を登用しはじめる。つまりシニア経営陣が導入したい,あるいは補強したいと願っている新しい前提認識に対して好感を示す社内の人材を探しだすのだ。

たとえばDECでは,その歴史のある段階で,たくさんの組織ユニットの努力を調整する能力を失いつつあることに気づいた。オルセンとその経営ティームは,主要なポジションに外部の人材を就けるという提案は拒否されるだろうと考えていたので,製造部門の現場で育ってきたマネジャーをいくつかの重要なポジションに就けることをだんだんに進めた。製造現場ではより厳しい規律と中央集権化が進んでいたからだ。これらのマネジャーはたしかにDECの文化の枠内で仕事を進めていたけれども,徐々に中央集権化と規律を強化しはじめていた。しかし最終的にはこの方法は功を奏さなかった。というのはDECの文化のパラダイムがなお強力であったために,これらの人材の努力が抑圧されたからだ。しかしこの動きはDECの歴史のなかで,この時点では適切な戦略であったことはたしかである。これらのハイブリッド人材のいく人かは,彼らの努力が繰り返し冷遇され,フラストレーションを感じて会社をやめていった。

同様にチバ・ガイギーでは,もっとマーケティング重視に向かうニーズを感じ取ったときに,製薬事業部で育っていたマネジャーを上級ポジションに任用しはじめた。製薬事業部でははじめからマーケティングの重要性が認められていたからだ。このプロセスはチバ・ガイギーをよりマーケティング志向の強い企業にしただけに留まらず,戦略的に製薬部門を重視する企業に転換させた。その結果サンドとの合併が実現し,ノバルティス社(Novartis)の誕生に結びついたのだ。

組織の成長と生存のためにシニアリーダーが重要であると考えている信条,価値観,前提認識を備えた人材によって主要なポジションを埋めるという方法は,たしかにもっとも一般的な漸進的な文化変革のメカニズムであり,私自身もあらゆるタイプの組織において見聞してきた。何故この方接が強力なメカニズムになるかと言えば,昇進したインサイダーはある意味で文化からの逸脱者であるとはいえ,なおその企業文化を理解しており,したがっていかに必要とされている変革を推進できるかも理解していた。外部からやってきたアウトサイダーは必要とされる価値観や前提認識は備えているかも知れないけれども,望まれている変革をどのように進めるかについての理解を促す,文化への洞察が彼らには決定的に欠けているのだ。
(つづく)Y.H

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