基礎編・理論編

組織の成熟と潜在的な衰退傾向 | テクノファ

投稿日:2022年5月13日 更新日:

今回はキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
組織の成熟と潜在的な衰退傾向
成功が続くと,文化の変革をさらに難しくする組織のふたつの現象が生じてくる。(1)数多くの基本的前提認識がより強力に保持される,(2)組織は信奉する価値観や自らに対する理想像を築くけれども,これらは組織が運用される際に使われている現実の前提認識とはますますかけ離れたものになる,というふたつの現象だ。もし社内と社外の環境が安定性を保っていれば,強力に保持されている前提認識はむしろ優位性を生む。しかしその環境に大きな変化が生じれば,これらの共有される前提認識の一部が,その強さ故に組織にとって不都合を生むこととなる。

もし組織が自分自身と環境に関する前提認識にもとづいて,長い成功の歴史を築いてきたとすれば,これらの前提認識にチャレンジし,再検討することは望まないはずだ。たとえこれらの前提認識が意識に上ってきたとしても,メンバーたちは,これらが過去を正当化し,彼らの誇りと自己尊厳の源となっていることから,その前提認識にしがみつこうとする。そのような前提認識はいまやフィルターとしての役割を果たしており,主要なマネジャーが生存と再生のための代替的な戦略を理解することを難しくする。たとえばDECは,コンピューター市場が,他社から調達した部品を使って安価に,効率的に製造される消費財の方向にシフトしていることは十分に理解していた。しかしこの方向にかじを切り換えるためには,製造のために今までとは全く異なるアプローチが必要となり,かつ技術のイノベーションに伴う楽しみと興奮に対するDECのコミットメントを断念することが求められた。したがって,成長の継続とイノベーションがコストに伴う問題をすべて解決してくれるのだ,と正当化する方法がもっとも簡単な道であった。

組織が成熟するに連れて,その組織は前向きの理念と,いかに経営するかについての神話的な通念の数々を生みだす。つまりその組織は,自我像,いわゆる外向きの「顔」を作るのだが,これらは彼らが遂行している最高のものを表現する形で作られる。個人と同じように組織も,自己の尊厳や誇りに対するニーズを抱いていることから,彼らがこうありたいと願っていることを語りはじめることはそれほど珍しいことではない。しかし同時に,彼らの実際の経営は,自分たちの本来の仕事を遂行する際の現実の姿をより深く反映したものになってくる。したがって信奉された価値観は,さまざまな程度で,成功を続ける日常の実践から形成された実際の前提認識,さらにさまざまなサブカルチャーから生まれてきた前提認識の一部とは逸脱したものになってくる。

たとえば,ある組織で信奉された価値観が,離れた事業所への異動を行う際には各個人のニーズを考慮するというものであったとする。しかし実際の前提認識は,「従業員はほかの資源と同じようにマネジされるべき資源にすぎない」,あるいは「このような異動を拒否する人材は忠誠心に欠け,昇進リストからはずさなければならない」というものであるかも知れないのだ。もうひとつの例として,ある組織の信奉された価値観は,新製品を開発する際には,マーケットリサーチにもとづいた合理的な意思決定手段を用いる,というものだったとする。しかし実際の前提認識は,「もしわが社のエンジニアが好むものであれば,その製品はすぐれたものなのだ」というものであるかも知れない(DECで抱かれていた前提認識に近い)。またある組織はティームワークに伴う価値を信奉しているかも知れない。しかし実際の経営はきわめて個人主義的で,競争重視の傾向が強いものであるかも知れない(HPのコンピューター事業部のケースのように)。あるいはある組織では従業員の安全に対する関心を信奉しているかも知れない。しかし実際の経営は,競争力を維持するためにコストを最小に抑えるという前提認識に促され,その結果安全を損なう方法が巧妙な形で奨励されることになっているかも知れない(テキサス市の精油所の爆発事故を発生させたブリティッシュ・ペトロリアム(BP)の例に見られるように)。もしその組織の歴史のなかでこの種の不一致を暴く事態が一度も起こっていない場合には,信奉された価値観を支持する神話的通念が生みだされ,その結果現実の姿とは全くかけ離れた評価さえ生みだされることもある。1990年代のもっとも典型的な例は,数多くの企業で唱えられた神話,つまりこれらの企業は決して人材をくびにしないという神話であった。もうひとつの例は2009年に起こったもので,銀行,金融,自動車メーカーは住宅バブルが招いた混乱を乗り越えて生存できるという神話的な信念である。成熟した企業で文化の変革をきわめて困難なものにしている原因は,その文化がますます強力になってきて,信奉された価値観こそその組織をどのように運営するかを決めているという幻想に求められるのだ。ほとんどの経営幹部が,「燃えさかる舞台」,あるいは重大な危機こそが本格的な評価と変革のプロセスを後押しすると発言することはまず間違いない。

スキャンダルや神話の崩壊を通じた文化の変革
信奉された価値観と基本的前提認識の間に不一致がある場合にはスキャンダルや神話の崩壊が文化変革の重要なメカニズムになり得る。実際に進行している前提認識が,隠したり,回避したり,拒否したりすることができない公の目に見えるスキャンダルを生みださない限り,変化は引き起こされない。この種の変化に対するもっとも強力なきっかけのひとつは,その組織が,スリーマイル島におけるメルトダウン,あるいはスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発やコロンビア航空の飛行機事故,あるいはボパール化学工場の爆発事故,さらにはBPのテキサス市の精油所の爆発,アルファパワーの爆発事故といった危機的状況を経験したときである。ちなみにアルファパワーの爆発事故では,この企業がアスベストの存在を否認し続けていたために,その結果近隣にアスベストを巻き散らす結果を招いた。アルファパワーは刑事罰を問われ,裁判所から環境保全マネジメントの改善を命じられ,その結果,重要な文化変革プログラムがスタートされることとなったのだ。

上記のすべてのケースでは,その企業がオペレーションを続ける基盤を提供している前提認識が,しだいに職務を遂行するのに実行性が高い方向に流れはじめ,この実際の方法が公に宣言されている理念(イデオロギー)からさまざまな程度でかけ離れはじめていることが観察される(Snook,2000;Gerstein,2008)。多くの場合,この傾向を見付けた従業員から経営に対して苦情が寄せられる。しかしこれらの苦情は,企業側がこうありたいと願っている姿からはずれていることから,苦情は無視され,拒絶される。ときにはこの情報をもたらした従業員に罰が下されることさえ起こり得る。従業員を「内部告発」に走らせるほどにこの苦情が強い場合には,スキャンダルに発展し,最終的にその方法が再検討の対象として取り上げられることとなる。

この種の内部告発は新聞社等に告発され,スキャンダラスな事件として報道されることもあるし,またそのスキャンダルが悲劇的な出来事から明るみにでることもあり得る。たとえば,ある企業ではマネジャーに対して,海外勤務の決定に際し本格的な選択の権利を認めているというキャリア開発システムに誇りを感じていた。しかしこの企業は,海外勤務中の経営幹部のひとりが自殺し,その遺書のなかで彼は,彼自身および家族の反対にもかかわらず,この海外勤務を強要された,と述べるという厳しい現実に局面した。その信奉された価値観のレベルでは,このシステムを理想的なものとして信奉していた。しかしこのスキャンダルは,暗然のうちに彼らが運用していた,深いところで共有されていた前提認識を暴きだしたのだ。この企業では,シニア経営陣が望んでいる任地に有無を言わせずに人材を赴任させていたのだ。この両者間の不一致が認知された結果,このキャリア任命システムに信奉された価値観と実際の前提認識をさらに統合された形で織り込むことにより,新しい改善されたプログラムがスタートした。

もうひとつの違った例では,ある製品開発グループは,意思決定は研究と詳細な市場分析にもとづいて行うとする信奉された価値観をもとに運営されていた。しかし現実にはひとりのマネジャーがすべての意思決定において主導権を握り,完全に直観にもとづいて部内を運営していたのだ。やがて彼が強く主張した製品のひとつが取りかえしのつかないほどの失態を招き,何故その製品が市場に導入されたのかの筋道が公にされた。このプロセスにおいてそのマネジャーが担った役割がそれに不満を抱くひとりの部下によって暴かれ,これはスキャンダルだ,と名指しで非難されたのだ。このマネジャーは職位を追われ,時を移さずもっと公式的な製品開発と導入のプロセスが設定された。

公に広がるスキャンダルは,シニア経営陣に対してそれまで当たり前のものと認められ,また明確な自覚から運営されてきた規範,慣行,前提認識を見直すきっかけをもたらす。危機やスキャンダルは自動的に文化の変革を促すわけではない。しかしこれらは,強力な不当性を証明する力となる。これを拒絶することはできないので,その結果,公の自己評価と変革プログラムに類する方策をスタートさせることに結びつく。米国におけるこのような公の再検討は,エンロンやその他の企業で疑惑に満ちた会計処理をしてきたことを受けて発覚した公のスキャンダルを通じて,財務と金融の職業文化に関連して開始されている。政府の監視プログラムもバーニー・マドフ(Bernie Madoff)のスキャンダルのあとを受けて目下再検討されているし,自由な企業を標榜する資本主義システムに関わる,きわめて基本的な前提認識でさえ,2009年の深刻な経済不況故に再検討の対象となっている。これらの再検討は新しいやり方に誘導することはたしかであるけれども,それらが自動的に新しい文化を作るわけではない。何故なら新しいやり方が外部での成長,内部での安定につねに結びつくとは限らないからだ。スキャンダルは,今後誕生してくる新しい方法や価値観の形成に場を提供するけれども,それらがすぐれた成果を生まない限り,文化の新しい要素になることはあり得ない。
(つづく)Y.H

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