基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 168 | テクノファ

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今回はキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインがキャリアコンサルタントのために2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。
横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
転換を通じた文化の変革
スキャンダルあるいは危機が基本的な前提認識をわれわれが目に見える形で明確化し,かつそれが機能不全に陥っていると評価されると,われわれにはいわゆる「転換(turnaround)」の方法として次のふたつの選択が可能となる。第1は,組織にもう一度適応性を回復させるように文化の一部を迅速に転換する方法,もうひとつは,合併,買収,倒産手続きの遂行等を通じて完全な組織再編成を進めて,その組織と文化を一度こわす方法だ。いずれのケースにおいても,強力な変革マネジャーや「トランスフォーメーション(大変革)リーダー」が,組織を解凍し,変革プログラムを定着させるために必要となる(Kotter & Heskett,1992;Tichy & Devanna,1987)。

文化変革のメカニズムとしての転換は,数多くの先行するメカニズムの組み合わせであり,強力なリーダーまたは変革エージェントのティームによって単一のプログラムに統合されたものだ。転換の状況は,主要なポジションを内部のハイブリッド人材,あるいは外部の人材によって置き換えることと,テクノロジーにおける大規模な変化との組み合わせが変革プロセスの中核的要素として活用される(詳しくは後に続く,マネジされた変革の章で検討する)。

転換には通常,組織のすべてのメンバーの参加が求められる。現在の文化の機能不全の部分が誰の目にもはっきり見えるようになるからだ。新しい前提認識の形成のプロセスには,教育,コーチング,必要に応じた構造とプロセスの変革,新しい方法の学習の証拠に対する一貫した関心の表明,褒賞を通じた新しい価値観とゴールの定義が含まれる。さらに新しいスローガン,神話,慣行の創成も含まれる。加えてほかの方法で新しい行動の導入に人材を導くことも可能だ。また前に紹介した,すべてのメカニズムも活用されるけれども,転換にとって鍵を握るのは,それを強制することもいとわない人材の強い意志なのだ。

転換をマネジするために,基本的に異なった,リーダーシップのためのふたつのモデルが提案されている。ちなみにこの転換のためのモデルは「トランスフォーメーション」という,さらに人気のある言葉で知られるようになっている。第1の強力なビジョンモデルでは,リーダーがその組織が最終的にどこに到達するかについての明確なビジョンを抱いており,さらにいかにそのビジョンに到達するかの手段を具体的に示し,またその方向へ進む努力をつねに褒賞する(Tichy & Devanna,1987;Bennis & Nanus,1985;Leavitt,1986)。このモデルは,将来がかなり容易に予測でき,またビジョナリーリーダーが存在しているときに成功を収め易い。しかしこれらのふたつの条件が満たされないときには,組織は第2のよりあいまいなビジョンのモデルを活用することが可能だ。ここでは新しいリーダーが現状はとても我慢できないところまで来ており,業績もある期間内に向上させなければならないということを強力に宣告するけれども,その後にどのようにそのビジョンに到達するかについての新しいビジョンを作る点ではその組織に委ねる(Pava,1983)。このうち「われわれには変革が必要だ」というメッセージは強力に,繰り返し,組織のすべてのレベルに伝達されるけれども,ここでは「われわれはあなた方からの協力を必要としている」というメッセージがつねに補足される。またソリューションに向けてのさまざまな提案が組織全体で生みだされる。リーダーはそのうちでもっとも納得性の高いものを選んで,その提案を支援する。

このモデルは転換担当マネジャーが外部からやってきており,したがって当初その組織に何ができるかについて理解していない状況において,活用の可能性が高まる。さらに将来がなお荒れ模様であり,そこでのモデルが組織に訓練を施して,組織に対してその継続する適応プロセスの一環として自らの前提認識をいかに変革していくかの自覚を促すような状況で適用が可能だ。この転換は通常の場合,新しい学習を支援し,新しい前提認識を定着させることをたすけるための長期的な組織開発プログラムによって補強される必要がある。成熟した組織に新しい前提認識を定着させることは,若い成長途上の組織に新しい前提認識を定着させる場合よりも数等大きな困難が伴う。何故なら組織の構造とプロセスのすべてが再検討され,ときによっては再構築されなければならないからだ。

合併と買収を通じた文化の変革
ひとつの組織がほかの企業を買収したり,あるいはふたつの組織が合併したときには,文化の衝突が避けられない。何故ならふたつの組織が同一の文化を築いていることはあり得ないからだ。ここでリーダーが担うべき役割は,この衝突をいかに上手にマネジするかを判断することに求められる。まず第1に,ふたつの文化をそのままの形で残し,それぞれの方法で成長を続けさせることもできる。さらによく起こり得るシナリオ(筋書き)は,ひとつの文化が主導権を握り,もう一方の文化のメンバーを徐々に変える,または放逐する方法だ。第2の方法は,新しい組織のためにふたつの文化から適切な要素を選びだして,ふたつの文化をブレンドする方法だ。この際には新しい学習プロセスを作り,稼働させるか,あるいはお互いの組織の主要プロセスのためにお互いの文化から意図的に適切な要素を選択し合う,という方法が考えられる(Schein,2009b)。

たとえばHPとコンパック社(Compaq)の合併においては,数多くの人々はHP主導による買収ととらえていたけれども,実際には合併促進ティームが双方の組織のそれぞれのビジネスプロセスを検討し,効果的に見えるプロセスを選択し,即座に相手方に導入したのである。この方法を通じてお互いの文化の諸要素が交換されたのだが,このプロセスを通じてHPのリーダーはHP文化で機能不全に陥っていると感じていた諸要素を除去することに成功を収めたのだ。企業が益々グローバル化を進めると,さまざまな形の合併企業のなかで,さまざまな形の異文化の融合が起こってくる。このようなマルティカルチャ一企業でどのように文化変革が促されるのかについては第21章で取り上げる。

破壊と再生を通じた文化の変革
このプロセスについてはあまり多くのことが知られてないし,理解されていないので,本書でもあまり多くを語ることができない。とはいえ,文化,少なくとも文化の一部は,その文化の伝承者を放逐することを通じて破壊することが可能だ,ということは間違いない。転換推進マネジャーがその組織のトップのひとり,ふたりの人材を追放し,新しい前提認識を備えた新しい人材を採用する。これはケン・オルセンが解雇され,強力なハイブリッド人材であったロバート・パーマーがオルセンを継承した際に起こったケースにはぼ該当する。パーマーは,かなり以前に半導体業界からDECに招かれていた。オルセンからトップの座を継承すると,彼は主要な経営幹部をアウトサイダーの人材によって交代させはじめた。この時点でDECを離れた人たちは例外なく,パーマーこそがDEC文化を破壊したと論評している。

企業が買収されたときにも,上記と同じようなプロセスが発生する。つまり買収された側のすべての主要な人材を自分の側の人材によって置き換えることによって自分の側の文化を相手方に移すことができる。この破壊を生む,第3の方法は,倒産手続きの過程を通じて実行できる。つまりこの過程では取締役会(ボンド)が,全く新しい経営陣を招き入れ,労働組合の認証を取り消し,機能組織を再編成し,新しいテクノロジーを導入し,さらにさまざまな方法を通じて本格的なトランスフォーメーションを推進する。そのあと新しい組織が稼働しはじめ,それと同時に新しい文化が築かれはじめる。このプロセスは強制的な治療を伴うものであるために計画的な戦略として使われることは少ない。しかし企業の存続が危機に瀕しているときには適切な方法となるだろう。2009年の経済不況の際には,数多くの金融機関と自動車メーカーがこのような破壊的な手続きを踏んだけれども,どのような形で「再生」が実現するのかについてはなお予測不可能である。過去の産業界におけるトランスフォーメーションの歴史の研究においても,大きな危機に遭遇したときでも,きわめて小規模な変革しか実現しなかったケースと,大変革が進んだケースの両方が報告されている(Tushman & Anderson,1986;Gersick,1991)。

本章の要約と結論
本章で私は,文化を変革するためのさまざまなメカニズムとプロセスを紹介した。さまざまな組織は,さまざまな段階で文化からさまざまなサービスを提供される。したがって文化に関わる課題は各段階で異なったものとなる。組織の創成期では,文化はポジティブな成長を促す力として機能することが多い。この力は詳しく検討され,開発され,解明されなければならない。組織の中年期には,文化は多様化し,数多くのサブカルチャーが形成される。文化のどの側面を変革し,どの側面を保持すべきかを決定することが,リーダーたちが出会う,もっとも難しい戦略的課題のひとつとなる。しかしこの時点でリーダーは,前提認識を変革するための数多くの選択肢が与えられる。つまりさまざまなサブカルチャーに対してさまざまな形で褒賞を与えることが可能になるのだ。組織の成熟期と衰退期には,文化は部分的に機能不全に陥り易いので,スキャンダルや転換といった,さらに急進的なプロセスによってのみ変革が可能となることも多い。

文化は,新しい前提認識を備えた人材の組織への参加,さらに組織の違った部門において,さまざまな経験を積んだ人材を通じて進化が実現する。全体組織は数多くのサブカルチャーに組織を分割し,区分化する。またそれぞれのサブカルチャーはそれぞれの独自の環境に自らを適応させる過程で進化を遂げる。リーダーは多様性を促進し,サブカルチャーの創成を促すパワーを保有する。逆にリーダーは,採用と昇進を通じて多様性を減少させ,その企業が文化的に成長を目指す方向を操作することも可能なのだ。その環境が荒れ模様であればあるほど,組織が多様化を進めることが益々重要になってくる。

組織の中年期における文化の変革は,さまざまなサブカルチャーの成長を可能にする多様化に伴う優位性を意図的に活かしていくことにはかならない。組織が真の危機に陥っていない限り,その主要な進化のためのメカニズムとして,ハイブリッド人材の計画的な昇進やテクノロジーの誘発の方法を活かす時間が取れるはずだ。もしリーダーがこのプロセスのスピードを速めたいときには,この文化変革をさらに計画的に「マネジする」ことが求められる。このプロセスについては,後に続く数章で検討する。
(つづく)Y.H

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