今回は、キャリアコンサルティングに活用できる技法として、前回の1.BFTの理論的背景で記した(4)を反映する治療的会話法を紹介します。
ただ、その前に、本連載のテーマ「キャリアコンサルティングに必要なカウンセリング技法」でいう技法とは何かを少し再確認しておきたいと思います。理由は、本連載の3で紹介しました國分康孝1996年『カウンセリングの技法は理論・哲学・パーソナリティが三位一体となって具象化した反応のことである』の意味を確認していた方が、BFTのスムーズな理解に繋がると思われるからです。以下、國分康孝1979「カウンセリングの技法」誠信書房※5を引用(本文では『 』※5で記してあります。)・参考にして確認を進めます。
(カウンセリング技法の意味)
國分はカウンセリングを『言語的および非言語的コミュニケーションを通して行動の変容を試みる人間関係である』※5と定義し、そして、カウンセリング技法について、『言語的および非言語的コミュニケーションを効果あらしめるもの』※5と述べます。
この定義におけるカウンセリングの目標は行動の変容ということになりますが、國分は、行動の変容について、心の中の反応と外的に観察しうる反応のそれぞれの仕方に多様性が出てくることと見立てます。そのうえで、このように行動の変容を目指すカウンセリングの手段として言語的および非言語的コミュニケーションを位置づけ、これらのコミュニケーションを効果あらしめるカウンセリングの技法とは『自己の伝え方と相手のつかまえかたが主たる内容』※5と結論づけます。したがって、『カウンセラーは自分の考え・感情の伝え方と、来談者の考え・感情のつかまえ方を学ばなければならない。』※5と。そして、的確なコミュニケーションには技法だけでなく両者間のリレーションの重要性とこの作り方におけるカウンセラーのパーソナリティの作用を説き、カウンセリングをひとつの人間関係であると締めくくっています。
さらに、『カウンセリングは会話術ではない。(途中省略)そこにはひとつの哲学(大前提)があるからである。』※5と述べます。この哲学は、客観的・科学的な事実、自分の主観的・内的感覚によって自分が意識性と責任制をもって自己決定するカウンセリングの価値観を支え、このうえに『カウンセリング理論が構成され、その理論展開のためにカウンセリング技法が工夫されている。』※5と言及しています。
なお、國分はカウンセリング理論の捉え方として7つの事項を含んだ知識体系として捉えています。キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを学ぶ時の一つの視点となりますので参考のために記しておきます。(①~⑦は引用です)
①人間をどうとらえるか(人間観)
②性格はどのように形成されるか
③問題行動はどのように発生するか
④治るとは何か(治療目標)
⑤その目標達成のためにカウンセラーは何をなすべきか
⑥クライエントは何をすべきか
⑦その方法の長短は何か
2.治療的会話法
BFTで重視されている面接での会話(質問)のうちキャリアコンサルティングの場面で使用可能な質問について、前回同様、日本家族カウンセリング協会研修会での長谷川先生の講義内容と若島孔文 長谷川啓三2018「新版よくわかる!短期療法ガイドブック」金剛出版※3から主だった箇所を引用して紹介します。
(1) 開始の質問
・この質問によりゴールやその方向性を捉える
『今後、どのようになったら、今日ここにきてよかったなと思えますか』
(2) 差異に着目した質問
・行動の相違、変化に着目させる
『問題がなくなったら、何が違ってきますか』『問題がひどくなってきたら、何が違ってきますか』
(3) 尺度化の質問
・動機づけの高さについて尋ねる
『問題を解決したいとどれくらい思っていますか』『課題をどれくらい実行する見込みがありますか』
・差異の質問へと導く
『最もよくなかったときを0として理想の状態を10とすると、今はいくつくらいですか』
『あがったら、何が違ってきますか』
(4) 奇跡の質問
・例外を探索する質問
『仮に寝ている間に奇跡が起きて問題が全て解決したら、あなたは次の日の朝、どのように気づきましたか』
(5) 再帰的質問
① 未来志向の質問
『どんな仕事に将来就きたいの』『それを成し遂げたら一番驚くのは誰でしょうか』
② 観察者の視点からの質問
『そんな気持ちを引き起こさせた状況についてあなたはどのように解釈しますか』
③ 対立的内容探索の質問
『あなたが気分良く過ごしたとき最後のときはいつだった。そのとき何をしていましたか』
④ 提案が埋め込まれた質問
『あなたがやる気を出るのはいつですか』『あなたがやる気が失うのはいつですか』
⑤ 規範との比較の質問
『あなたが希望する仕事に就くにはどんな経験が必要かな』
⑥ 区別を明らかにする質問
『仕事のため?自分のため?何が最も重要ですか?』 など
3.BFT統合モデル
これらの質問は、1.BFTの理論的背景で記した(4)『MRIコミュニケーション理論―コミュニケーションとは全ての行動がなり得るものである。コミュニケーションには常に命令的機能が内在する。コミュニケーションは人の行動に制限という形で影響を与える。コミュニケーションは論理階段の理解によって整然とする。』※3を背景にさらに発展させた統合モデルを具体化したものですので、以下、簡単に統合モデルについて紹介します。
(1) コミュニケーションによる相互拘束
コミュニケーションの命令機能は、常に「すべき」あるいは「すべきではない」という制限として働く。また、コミュニケーションは相互作用のため、相互に制限、拘束し合う。
① 相互拘束の方向性は、家族や職場、学級、仲間通しなどの持続関係にある人々においてパターンとして固定化されていく。暗黙のルールがこのパターンを支えるようになる。
② 暗黙のルールを破ろうとする働きが生じると、それを復元・修正しようとする対処行動が行われる。
(2) 相違による切断(do different)
① 「比較的良いとされるときがあるか?」という質問に対して「ない」という回答の場合
② 問題が維持される家族や職場、学級、仲間通しなどの持続関係にある人々においては、対処行動自体が問題を支えるコミュニケーション循環となっている可能性がある。
③ したがって、問題解決を図るには、この問題を支えるコミュニケーション循環(偽解決的行動パターン)を断ち切るようなアプローチを行う。
(3) 良循環の拡張(do more)
① 「比較的良いとされるときがあるか?」という質問に対して「ある」という回答の場合
② 問題が維持パターンによる拘束から漏れる拘束(例外的行動パターン)がある。すでに個人や集団の構造にフィットした解決行動を自ら経験している。
③ したがって、問題解決を図るには、例外的行動パターンを拡張するようなアプローチを行う。
(続く)
キャリアコンサルタント 1級技能士 上脇 貴