基礎編・理論編

変革プロセスは新しい学習を反映する | テクノファ

投稿日:2022年5月30日 更新日:

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
認知の再構築
組織が解凍されたあと,変革プロセスは新しい学習を反映してさまざまな道をたどりながら進められる。たとえば広範に環境をスキャンすることにもとづいて試行錯誤を通じた新しい学習,あるいはロールモデルとの心理的同一化にもとづくロールモデルの模倣を通じた新しい学習といった例である。アモコにおける変革プログラムではエンジニアの役割を再定義することが目的とされたが,ここではエンジニアが,いかにコンサルタントの役割に自らを転換していくかを自らで理解することが求められたという意味で,スキャニング(選択)モデルに分類されるだろう。アルファの環境に対する責任を推進するプログラムは,まず最初は従業員に対し,詳細なトレーニングにもとづいて,決められたプロシージャーをいかに遵守するかを教えることから開始された。これはロールモデルとの同一化にもとづいたプログラムと考えることができる。いずれのケースにおいても新しい学習の中核は,前提認識のセットに含まれるコアの概念の一部の「認知の再定義」によって占められている。たとえば,自分たちは従業員を一生雇い続ける企業であり,これまで一度も従業員を解雇したことがないことを誇りにしてきた企業が,人件費を削減する必要に迫られるという経済的危機に局面した。そこで彼らは,レイオフ(解雇)を認知的に再定義し,「移行期」あるいは「早期退職」と呼び,きわめて潤沢な退職一時金を支払い,従業員が代わりの職務を見つけられるまでに長い期間を与え,周到なカウンセリングを提供し,アウトプレイスメント(再就職支援ビジネス)のサービスも提供した。このすべては「われわれは人材を公平に,十分に処遇する」という,その企業の前提認識を守るための行動であった。このプロセスは決して合理化のためだけのものではなかった。これは,この組織のシニア経営陣の側の純粋な「認知の再定義」に当たるものであり,最終的には「リストラクチャリング(組織再構築)」と解釈された。

ほとんどの変革プロセスでは行動変容のニーズが強調される。この種の行動変容は認知の再定義に地盤を築くために重要であると考えられるけれども,同時にこの行動変容が認知の再定義によって裏付けられていなければその変容だけが長続きすることは期待できない。たとえばアルファパワー社の環境プログラムはルール(規則)の強化から開始されたけれども,従業員が自らの職務と役割,さらにアイデンティティーを認知的に再定義することによって従業員は自分のものとして採り入れたのだ。またアモコのエンジニアの一部は,自分のイメージを素早く再定義することによって,新しい職務内容に適応することができた。

行動変容は変革プログラムの初期にはメンバーに強制することが可能だけれども,認知上の再定義がそれに先行するか,伴っていない限り,その強制力が取り去られたあと長続きすることはない。一部の変革理論(たとえば,Festinger,1957)は,もし行動変容が十分に長い時間強制され続けると,認知構造のほうが発生しつつある行動変容を合理化する方向に適応してくると主張している。しかしこの証明はあまり明確にはなされていない。たとえば以前の共産主義国で見られる最近の状況を見ても,共産主義のもとで暮らしてきた人々が50年以上にわたり強制されてきたにもかかわらず,すべての人々が共産主義者になったわけではないのだ。

新しい概念と古い概念に対する新しい意味を学ぶ
もしある人物が一定の方法で思考するように訓練され,さらに同じような方法で思考するグループのメンバーであった場合,この人物は新しい思考法に変わることをどのように受け止めることができるのだろうか? 前にも指摘したように,ある人物がアモコのエンジニアであったと仮定すると,その人物は,明確なキャリアの方向とつねに同一の上司を持つ,技術の専門職としてその事業部門で働くメンバーであった。中央集権化された新しいエンジニアのグループでは,「一定の価格でそのサービスを販売する」こととなり,この人物は自分はカスタマーにサービスを売るコンサルタントグループの一員であると考えるように求められた。この新しい形ではサービスを購入するカスタマーは,このグループから提示された価格が気にいらない場合には,ほかからのオファーを受けてもよいことになっていた。このような変化を受け入れるためには,この人物はいくつかの新しい考え方を取り入れることが求められた。たとえば「自由契約のコンサルタント」「一定の価格でサービスを販売」「自分の出した価格を下回る提案をする外部の人との競争」といった考え方であった。さらにこの人物は,「エンジニア」であることが何を意味するのか,「アモコの従業員」であることは何を意味するのかという考え方に対する新しい意味を学習することが求められた。つまり,いまや新しい仕事を獲得してくる能力にもとづいて給与が支払われ,昇進が決定されるという,新しい褒賞システムを学ぶことが求められたのだ。さらに自分自身をエンジニアであると同時にセールスマンであると認識することも学習しなければならなかった。また自分のキャリアを別の視点から定義し,さらに違ったタイプの上司と仕事を進めることを学ぶことも求められた。

このような新しい考え方に伴って新しい評価の方法ももたらされた。以前の構造では,おおむねその人物の仕事のクオリティーにもとづいて評価されたが,いまや,その仕事は何日間で仕上げるのか,その時間内にどのようなレベルのクオリティーが達成できるのか,もし以前のようなハイクオリティーの仕事を達成するとしたら,いくら余分のコストがかかるのかといったことを正確に予測することが求められた。ここでは,どのように予測し,どのように正確な予算を計上するかという全く新しいスキルのセットが要求されたのだ。

もし基準が変わらないと,問題も解決されない。たとえばIBM社のPCと競争できる製品を設計しようと努めていたデジタル・イクイップメント社(DEC)のデザイナーたちは,カスタマーが何を望んでいるかを評価するための彼らの基準を決して変えようとしなかった。その結果,あまりに数多くの付属的な仕組みを組み込んで,規格を大きく上回る製品を設計してしまい,価格の高騰をまねいたのだ。

模倣と同一化に対するスキャニング(選択)と試行錯誤の学習
本章の最初に述べたように,われわれが新しい考え方,古い考え方に対する新しい意味,さらに評価のための新しい基準を学ぶ際に,基本的にふたつのメカニズムが適用可能だ。第1にわれわれはロールモデルを模倣し,あるいはその人物に心理的に同一化を図ることによって学習する。第2に何らかの方法で成功を収めるまで自分自身の解決法を追求する。変革マネジャーとしてのリーダーは,どちらの方法を進めるかについて,次の選択肢を活かすことができる。まず模倣と同一化の方法は,(1)新しい仕事の進め方がどのようなものかがはっきりしている,(2)教えられる考え方自体が明確であるときにもっとも効果的に機能する,たとえばそのリーダーは,望まれている新しいロールモデルを自らが示すという意味で,「言行一致」の行動を示すことができる。トレーニングプログラムの一環としてリーダーは,ケース資料,映像,ロールプレイ,シミュレーション等を通じて,ロールモデルを提供することも可能だ。またすでに新しい方法を身につけた学習者を招いて,彼らがどのように新しい方法を修得したのかをほかの人たちに推奨してもらうことも可能だ。このメカニズムはたしかにもっとも効果的であるけれども,学習者が学んだことがその性格に適合しない,あるいは属するグループには受けいれがたい,といったリスクも伴う。ということは新しい学習が個々人に内面化されないこともあるからだ。さらにその強制力が取りはらわれると学習者がまた元の行動に戻ってしまうこともあり得る。

もし変革リーダーが,われわれの性格に合致する形でわれわれが学習を進めることを願うのであれば,われわれは自分の環境を吟味し,われわれ自身の解決法を見つけ出すことを学ばなければならない。たとえばアモコは,いかにコンサルタントに変身するかについての訓練プログラムを作り,さらにすでにその変身に成功したエンジニアを中心にほかのエンジニアを育てることができたはずだ。しかしシニア経営陣は単に構造とインセンティブ・プログラムだけを作り変えたに留まり,個々のエンジニアに,いかに新しい種類の関係を築いていくかについては自分たちで解明するように求めたのだ。この結果,ある一部の人材は企業を去っていった。しかし自らの経験からいかにコンサルタントになり得るかを学習したエンジニアたちは,彼ら自身の全人格に統合を図った新しい種類のキャリアに本格的に取り組むことができたのだ。

ここで確認される一般的な原則は,変革マネジャーとしてのリーダーは最終的ゴールを明確にしなければならないという点だ。つまり達成すべき新しい仕事の進め方というゴールである。さらに誰もが同じ方法でそのゴールに到達するわけではないことも理解しておかなければならない。学習者の参加とは,学習者はその最終ゴールの選択は許されていないけれども,最終ゴールに至る手段についての選択は許されていることを意味する。
(つづく)Y.H

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