横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
再凍結する
すべての変革プロセスの最終ステップは再凍結(refreezing)の段階だ。レヴィンは,新しい学習は,実際の成果によって補強されるまでは決して安定しないと述べている。アルファの従業員は,彼らが環境災害に対応できるだけでなく,それを実行することによって満足感と充実感が高まることを発見した。というのは,災害にぶつかったときに職務が遅れるにもかかわらず,清潔で,安全な環境はすべての人材にとっての利益に通ずるという態度を全員が自分のものとして内面化していたからである。もし変革リーダーが,変革プログラムを開始するきっかけを作った問題を解決するために,どのような行動が必要とされるかを正確に診断できていれば,その新しい行動がすぐれた成果を生み,みんなに受けいれられるのだ。
しかし,もし新しい行動がすぐれた成果を生まないことになると,この情報は不当性を証明する情報として受け止められ,再び新しい変革プログラムが開始されることとなる。したがって人間システムは潜在的に永続的な流れのなかに存在し,環境がよりダイナミックになればなるほど,ほとんど恒久的な変革と学習プロセスが要求されるのだ。
変革プロセスに関する原則
組織が不当性を証明する情報にぶつかり,変革プログラムを開始するときに,最初の段階では,文化変革が必要となるのか,あるいは文化は変革プログラムを支援するのか,妨害するのかははっきりしていない。この問題を解明するためには,次章で紹介する類の文化のアセスメントのプロセスが適切なものになる。しかし文化アセスメントをはじめる前に,変革のゴールを明確にしておくことがもっと大切なのだ。
・原則3:変革のゴールは,「文化の変革」という脈絡のなかではなく,自分が解決したい問題という脈絡のなかで具体的に記述されなければならない。
たとえばアルファパワーのケースでは,裁判所がこの企業はさらに環境保全に責任を負い,さらにその報告においてももっとオープンになるべし,と命じた。ここでの変革ゴールは,(1)環境災害についてさらに理解を深める,(2)災害は適切な政府機関に対してより迅速に報告する,(3)汚染された状況をどのように浄化するかを学ぶ,(4)汚染やそのほかの災害の発生を最初の段階で防止する方法を学ぶ,であった。そこで変革プログラムを開始したときには,「文化」を変革すべきか否かははっきり理解できなかった。具体的なゴールが明確になってはじめて変革リーダーは,文化の側面がその変革プロセスを支援するのか,あるいは妨害するのかを決定することが可能になったのだ。実際のところ,文化に伴う大きな部分が積極的に活用可能であり,また文化に伴う一部の具体的な側面が変革を必要としているということが判明した。災害をどのように察知し,どのようにその災害に対応するかについては,従業員全員に対して迅速に訓練可能であると確認された。この反応は高度に組織化され,技術重視の専制的なアルファ企業文化の特徴をよく表明する反応であった。結局既存の文化の大部分を活かして,その文化の一部の周辺的な側面を変革したのである。
リーダーが変革プログラムを開始するときに犯しやすい最大のミステイクのひとつは,その変革のゴールをしっかり理解せずに,「文化の変革」が必要だと決めつけてしまう姿勢だ。私に対して「文化変革プログラム」によって支援して欲しいと依頼がきたときに私がまず最初に尋ねる,もっとも重要な問いは,「あなたは文化変革という言葉で何を求めているのですか?『文化』という言葉を使わずにあなたのゴールを説明してくれますか?」というものだ。
・原則4:文化に伴う古い部分は,その部分を「担っている」人たちを除去することを通じて打ち壊すことが可能だ。しかし文化に伴う新しい部分は,新しい行動が人材を成功と満足に導いたときにはじめて彼らが学ぶことが可能になる。
文化が築かれ,さらにその組織が成功と安定の期間を経験すると,組織が崩壊されない限りその企業文化を直接的に変えることは不可能となる。リーダーとしてはものごとを進める新しい方法を植えつけ,新しいゴールと手段を明確にし,さらに褒賞とコントロールのシステムを変えることはできる。しかしものごとを進める新しい方法が実際に効果を上げ,かつ組織メンバーに,最終的には文化変革に結びつく共有された経験の新しいセットを提供できない限り,上記の変革のいずれも文化の変革を促すことはできないのだ。
・原則5:文化の変革は,心理的な苦痛を伴う解凍の期間を要求する,トランスフォーメーショナルな(大規模で根本的な)変革だ。
リーダーがその組織に要求する変革のほとんどは,単に新しい学習を求めるものであることから抵抗に合うことは少ない。これらの学習は,われわれがいずれにしても遂行したいと願っていることをより易しくしてくれる新しい行動の学習,たとえばコンピューターの活用をより効率的にしてくれる新しいソフトウェアのプログラムを修得するといった学習に該当する。しかしわれわれが成人に達し,かつ組織が慣れ親んだルーチンやプロセスを築き上げたあとには,ものごとをより効率的に遂行するために提案された新しい方法は,修得することが難しく,かつさまざまな形でわれわれを不適切な存在と感じさせてしまうものに映る。われわれは現在のソフトウェアに安心感を覚えており,新しいシステムを学ぶことはその努力に値しないと感ずる。したがって変革リーダーは,「解凍」の期間を不可欠の段階として取り込む変革のためのモデルを必要としている。またこのモデルは単に補強だけではなく,トランスフォーメーションに対応できるものでなければならない。
本章の要約と結論
文化の変革には不可避的に解凍と再凍結が含まれる。したがって定義上,トランスフォーメーショナルな大変革となるのだ。今章では,大規模で,根本的なトランスフォーメーション大変革を導入する際にはその初期段階から困難が伴うこと,何故なら新しい学習には不安感が伴うことから困難が生ずることを確認した。この変革プロセスは不当性を証明することから開始される。ここではまず生存のための不安感や罪意識,言い換えると,われわれは変化しなければならないという感情が生まれる。しかし学習することに伴う不安感,つまりわれわれのコンピテンシー,役割やパワーに伴う地位,アイデンティティー,さらにはわれわれのグループへの帰属意識まで変えなければならないと感ずる不安感が変革に対する拒絶と抵抗を生むのだ。このような抵抗を克服するための唯一の方法は,学習者が「心理的に安心である」と感じられるようにすることによって学習に伴う不安感を減らしてあげる方法だ。本章ではこの心理的安心感を生みだす条件を明らかにした。もし新しい学習が進んだ場合には,そこには「認知の再定義」,つまり新しい考え方の学乳 古い考え方に対する新しい意味の学習,さらに新しい評価基準への順応から構成される「認知の再定義」が反映される。このような新しい学習は,ロールモデルとの同一化,あるいは環境をスキャン(診断と選択)することによる試行錯誤の学習を通じて実現する。
変革ゴールはまず解決すべき具体的な問題に焦点を当てるべきだ。これらのゴールが明確になったあとにはじめて,文化がこの変革プロセスを支援するのか,阻害するのかを決めるために文化のアセスメントを実施することの妥当性がたしかめられるのだ。いかに文化のアセスメントを実施するのかについては次章で検討する。
(つづく)Y.H