私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
ステップ3:グループの自己診断に対して適切なセッティングを選ぶ
グループミーティングでは,普段かくれている認識,思考,感情を引きださなければならない。したがってミーティングが行われる部屋は快適さが保たれ,人々が円型に座ることができ,文化についての討議の結果を書き記すため,たくさんの模造紙をとめた台が準備されていなければならない。さらにサブグループが作業できる討議のための小部屋も準備されるべきだ。とくに全体グループが15人を越える場合には小部屋の準備が不可欠となる。
ステップ4:グループミーティングの目的を説明する(15分)
ミーティングは,その組織のリーダーシップまたは権限を持つと認められている人物による,ミーティングの目的の説明から開始されるべきだ。それによって議論に対するオープンさが促される。組織の変革の問題が明確に述べられ,記述され,そのあと質問と議論が続く。このステップの目的は,何故このミーティングが持たれたのかをあきらかにするだけでなく,プロセスにグループを参画させはじめることに求められる。
次に社内の人材がプロセスコンサルタントを紹介する。ここでは,「われわれが発見した問題を解決し,課題に取り組むなかで,この組織の文化がわれわれを支援しているのか,妨害しているのかのアセスメントを実施する際にわれわれをたすけてくれるファシリテーターである」というふうに紹介される。このプロセスコンサルタントは外部の人材であってもよいし,社内でコンサルティングのサービスを提供することに取り組んでいるスタッフグループの一員
である,社内の人材であってもよい。あるいは他部門のリーダー,つまりいかに文化が機能するかを理解しいる限り,グループプロセスにも詳しい他部門のリーダーが担当しても構わない。
ステップ5:文化についてどのように考えるか,についての短いレクチャー(15分)
文化は人工の産物,信奉された価値観のレベルで自らを表明する,しかしここでのゴールは意識のより深いレベルに横たわる,共有された,かくされた前提認識を分析することだ,ということをそのグループが理解することがもっとも重要だ。コンサルタントは,前提認識,信奉された価値観,人工の産物の3つのレベルのモデル(第12章で紹介した)を示し,さらにすべての参加者が文化とは,あるグループで共有されている歴史にもとづいて生まれた「前提認識の学習されたセット」であることを理解することを促す。またこれからグループがアセスするものは彼ら自身の歴史の産物であり,かつ文化の安定性はその組織の過去の成功によっていることを理解することが大切なのだ。
ステップ6:人工の産物の記述を導きだす(60分)
プロセスコンサルタントはグループに対して,彼らがまず文化に含まれる人工の産物(artifact)を通じて文化を記述することからスタートすることを告げる。これを開始するための有効な方法のひとつは,もっとも最近このグループに参加した人物を見つけて,この人物に,この組織にはいってどのように感じたか,またはいった瞬間にどのようなことにもっとも強く気づいたかという質問をする方法だ。この人物の発言のすべてを模造紙に書き留め,1ページがいっぱいになったらそのページを切り離して壁に張りだす。みんなが絶えずすべてを見えるようにするためだ。
もしグループが活発に情報を発表しているときには,ファシリテーターはあまり発言しなくともよい。しかしグループが後押しを必要としているときには,ファシリテーターがさまざまなカテゴリーを紹介すべきだ。たとえば服装の決まりごと,上司に話しかけるときの望ましい行動の形,職場の物理的レイアウト,時間と場所はどのように使われているのか,どのような感情の表出が目立つのか,人材はどのように褒賞され,罰せられるか,どのような人材が昇進するのか,どのように意思決定が行われるのか,対立や意見不一致はどのように解決されるのか,仕事と家庭生活のバランスはどのように保たれているのか,といった項目だ。またファシリテーターは,その組織でどのようにものごとが遂行されているかという側面がきちんと議論されることを促すために,本書の第5章と第6章で検討した分類をもう一度レビューしておくとよいだろう。しかしグループの自発的な議論がはじまる前に上記の分類のリストを配付すべきではない。そのようなリストは,何が重要であるかに関するグループの認識にバイアス(偏見)をもたらす怖れがあるからだ。コンサルタントは,文化のどの部分が顕著であり,適切であるかを理解できていないわけだから,上記のチェックリストを配ることによってグループによる分析のプロセスにバイアスをもたらしてはならないのだ。議論が進んだあとに,どの項目においてグループが自発的に意見を出さなかったかを検討することによって,重要でありながら,参加者が議論しにくい文化の側面を指し示す情報を入手することも可能だ。
このプロセスは約1時間,あるいはグループが意見を出し切ったと思われるまで続けられるべきだ。さらにこの議論を通じて,グループ内の生活にまつわるさまざまな領域をカバーする,人工の産物の長いリストが作られるはずだ。彼ら自身が生みだした人工の産物のリストに囲まれることは,グループのメンバーが共有している前提認識はどんなものかを考える,深いレベルの思考を促すための必要条件となる。
ステップ7:信奉された価値観をあきらかにする(15~30分)
人工の産物を導きだす質問は「ここでどのようなことが進行しているのか」である。それに対して信奉された価値観を導きだす質問は「何故われわれがやっていることを続けているのか」という質問だ。実際には人工の産物の議論の際に信奉された価値観がすでに指摘されていることも多いので,このステップで出された議論は別の模造紙に記録するべきだ。またもっと数多くの価値観を導きだすために私自身は,グループの興味をあきらかに引いている「人工の
産物」の項目に焦点を当て,参加者に「何故このようなことをやっているのか」と尋ねている。たとえばそのグループがその職場はとてもインフォーマルで(固苦しくなく),地位の象徴もほとんど存在しないと発言すると,「何故ですか」と尋ねる。この質問は「われわれは公式の権限よりも問題解決を重視しているからだ」とか,「コミュニケーションを頻繁に行うことはとてもよいことだ」といった価値観についての発言を導きだすことができる。ときには「上司は部下たちより大きな権利を持つべきではないと考えている」といった発言も飛びだす。
価値観や信条が表明されると,私はコンセンサス(意見一致)をたしかめる。もしコンセンサスが得られた場合には新しい模造紙にそれらの価値観や信条を書き写す。もしメンバーが同意しない場合には,何故かを追求する。たとえばさまざまなサブグループがそれぞれの価値観を抱いているのか,それとも本当にメンバーの各人が違った意見を持っているのかをたしかめる。もし後者であれば,その記述を?マークの付いた模造紙に書き写し,さらに検討を続けると告げる。さらに私は,彼らがあきらかにした人工の産物リストのすべてに目を通し,どのような価値観が導きだされるかを検討するように求める。もし私が,彼らが表明していない価値観に気づいたら,それをひとつの可能性としてグループに提案する。もちろんその提言は,彼らのデータの内容分析を進める専門家の立場からではなく,共同で探求している立場から行われる。価値観のリストが完成したら,底を流れる前提認識の分析に進む準備が整う。
(つづく)平林