実践編・応用編

戦没者遺骨収集事業の抜本的な見直し|テクノファ

投稿日:2022年6月9日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。

1 戦没者遺骨収集事業及び事業実施体制の抜本的な見直しについて
これまでに収容した遺骨の一部が日本人の遺骨ではない可能性があることを2005(平成17年)以降に「戦没者遺骨のDNA鑑定人会議」において指摘されながら適切な対応が行われてこなかったとの報道が 2019年 7月等にあり、同年9月にロシアの9埋葬地の597柱の遺骨について指摘を受けていたことを公表しました。

このことに関し、2020年 5月に「戦没者の遺骨収集に関する有識者会議」から厚生労働省に対し、今後の遺骨収集事業のあり方及び再発防止策に関する提言(「「日本人でない遺骨が収容された可能性が指摘された埋葬地」事案についての有識者会議の意見」(2020年5月14日公表))がなされました。

当該提言等を踏まえ、同月に厚生労働省から有識者会議に対して、ガバナンスの強化、 遺骨収容・鑑定のあり方の見直し、遺骨の鑑定体制の整備等を内容とする今後の遺骨収集事業のあり方及び実施体制の整備についての方針(「戦没者遺骨収集事業及び事業実施体制の抜本的な見直しについて」(2020年 5月 21日公表))を報告しました。

当該方針に基づき、今後の遺骨・収容のあり方について、日本人の遺骨である蓋然性が高い場合に、DNA鑑定に用いる検体(遺骨の一部)を持ち帰り所属集団の判定を行い、 他の部位は未焼骨のまま現地で保管することとするなど、遺骨の収容のプロセスを抜本的に見直しました。
また、遺骨の科学的な鑑定や、鑑定に関する研究等を行う戦没者遺骨鑑定センターを 2020年7月16日に立ち上げ、体制の強化に取り組んでいます。

2 硫黄島及び沖縄における遺骨収集事業の実施
硫黄島では、戦没者約2万1,900のうち未だ約1万1,400柱の遺骨が未収容であることから、政府一体となって遺骨収容に取り組んでおり、2013(平成25)年12月に「硫黄島に係る遺骨収集帰還推進に関する関係省庁会議」で決定された「硫黄島の滑走路地区等の遺骨収集帰還に関する基本的方針」に基づき、2020年度は、滑走路地区東側半面において面的なボーリングによる地下壕探査等を実施しました。また、滑走路以外の地域においても遺骨や壕等の存在が推測される地点の調査を継続して実施し、46柱の遺骨を収容しました。
沖縄県においても、沖縄県や民間団体等と協力して遺骨収集を実施しており、2020年 度は57柱の遺骨を収容しました。

3 旧ソ連・モンゴル地域における遺骨収集事業の実施
約57万5,000人が強制抑留され、劣悪な環境のもと、長期にわたり過酷な強制労働に従事させられ、約5万5,000人(うちモンゴル約2,000人)が死亡した旧ソ連・モンゴル地域については「戦後強制抑留者に係る問題に関する特別措置法」(平成22年法律第45号)に基づき閣議決定された「強制抑留の実態調査等に関する基本的な方針」を踏まえ、関係省庁と連携し、民間団体等の協力も得つつ、遺骨収集を進めており、2021(令和3)年3月末までに 20,251柱の遺骨を収容しました。2015(平成27)年4月には、ロシア連邦政府等から提供された抑留者に関する資料の全てについて、資料の概要と主な記載事項などを公表しました。さらに、同月以降、提供資料のうち、死亡者に関する資料については、2021年3月末までに40,586名(うちモンゴル1,435名)の死亡者を特定し、カナ氏名、死亡年月日などを公表し、日本側資料と照合の結果、身元が特定した者の漢字氏名を厚生労働省ホームページに掲載しています。
なお、今後、調査・収容を実施する予定の埋葬地は旧ソ連地域の 57か所となっています。

4 南方等戦闘地域における遺骨収集事業の実施
近年、残存する遺骨の情報が減少しているため、2006(平成 18)年度から、情報が少 ないビスマーク・ソロモン諸島、パプアニューギニアなどの海外南方地域を中心に、現地の事情に精通した民間団体に協力を求め、幅広く情報を収集しているほか、2009(平成21)年度から、米国や豪州などの公文書館などに保管されている当時の戦闘記録等資料の調査を行うなど、遺骨収集に必要な情報を収集しています。
また、遺骨収集推進法及び基本計画に基づき、海外資料調査が実施され、2017(平成29)年度までに概了しており、埋葬地点を推定できる有効情報は計1,816件となっています。

5 戦没者遺骨鑑定センターにおける取組
2020年度は、戦没者遺骨鑑定センターにおいて、戦没者遺骨の鑑定方法の見直しや新たな鑑定技術の活用等について議論を行うために、法医学、人類学等の専門的知識を有する者で構成された「戦没者遺骨鑑定センター運営会議」を開催し、当面の検討課題や DNA鑑定の進め方、遺骨の所属集団の判定方法等について議論を行いました。また、同会議の下で、日本人の遺骨であるかを判断するための「所属集団判定会議」及び遺族に返還するためにDNA鑑定の結果等を勘案して身元を特定する「身元特定DNA鑑定会議」を定期的に開催し、その結果を公表するとともに、有識者会議への報告等の対応を行っています。

6 遺留品等の手掛かり情報がない戦没者遺骨の身元特定のためのDNA鑑定の実施
収容した戦没者の遺骨については、遺留品等から身元が判明した場合には遺族に返還しています。2003(平成15)年度より、遺留品や埋葬記録等から遺族を推定できる場合などであって遺族が希望する場合は身元特定のためのDNA鑑定を実施し、2021年3月末までに、1,200件の身元が判明しました。
また、遺留品や埋葬地記録等の情報がある場合は限られていることから、201年度よ り、沖縄県の一部地域において、広報を通じて戦没者の遺族と思われる方からの身元特定のためのDNA鑑定の申請を募り、遺留品や埋葬記録等の手掛かり情報がない場合であっても、身元特定のためのDNA鑑定を試行的に実施してきました。

2020年4月からは、硫黄島及びキリバス共和国ギルバート諸島タラワ環礁の手掛かり情報がない戦没者の遺骨についても、公募により身元特定のためのDNA鑑定を実施し、2020年8月及び 9月にキリバス共和国の戦没者遺骨2柱について、同年12月に硫黄島の戦没者遺骨2柱について、それぞれ遺族との間で身元が特定されました。
この結果を踏まえ、手掛かり情報がない遺骨について身元特定のためのDNA鑑定を地 域を限定せずに、公募により実施することとし、2021年 10月を目途に受付を開始する こととしています。

(2)慰霊巡拝等
戦没者の遺族の要望に応え、主要戦域や戦没者が眠る海域での慰霊巡拝や、戦没者の遺児と主要戦域などの人々が相互理解のため交流する慰霊友好親善事業を実施しています。
2020(令和2)年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により関係国へ の入国が制限されたため、海外での慰霊巡拝や慰霊友好親善事業の実施を見合わせました。
また、戦没者の慰霊と平和への思いを込めて、1970(昭和45)年度以降、主要戦域に戦没者慰霊碑を建立(硫黄島と海外14か所)したほか、旧ソ連地域には個別に小規模慰霊碑を建立(15か所)しています。

3 戦傷病者、戦没者遺族等への援護
厚生労働省では、先の大戦において、国と雇用関係又はこれに類似する特別の関係に あった軍人軍属等のうち公務傷病等により障害の状態となった者や、死亡した軍人軍属等の遺族に対して、国家補償の精神に基づき援護を行っています。具体的には、1952(昭和27)年に制定された戦傷病者戦没者遺族等援護法や、1963(昭和 38)年に制定された戦傷病者特別援護法に基づき、本人に対しては障害年金の支給、療養の給付などを、遺族に対しては遺族年金や葬祭費の支給などを行っています*6ほか、都道府県ごとに設置される戦傷病者相談員や戦没者遺族相談員による相談・指導を実施しています。

また、戦没者等の妻や父母、戦傷病者の妻などに対して、国として精神的痛苦を慰藉するために、各種特別給付金を支給しているほか、戦後何十周年といった特別な機会をとらえ、国として弔慰の意を表すため、戦没者等の遺族に対して特別弔慰金を支給しています。

4 中国残留邦人等への支援
1945(昭和 20)年 8月 9日のソ連軍による対日参戦当時、中国の東北地方(旧満州地区)や樺太に居住していた日本人の多くは、混乱の中で現地に残留を余儀なくされ、あるいは肉親と離別し孤児となって現地の養父母に育てられたりしました。厚生労働省では、こうした中国残留邦人等の帰国支援や帰国後の自立支援を行っています。
(1)中国残留孤児の肉親調査
厚生労働省では、1975(昭和50)年より、中国残留孤児の肉親調査を行っており、 2000(平成 12)年から、日中両国政府が孤児申立者、証言者から聞き取りを行い、報道機関の協力により肉親を探す情報公開調査を行っています。これまで2,818名の孤児のうち、1,284名の身元が判明しました。

(2)中国残留邦人等の帰国支援、自立支援
中国残留邦人等の永住帰国にあたっては、旅費や自立支度金を支給し、親族訪問や墓参等の一時帰国を希望する者には、往復の旅費や滞在費を支給しています。
永住帰国後は、中国残留邦人等や同行家族が 円滑に社会生活を営むことができるよう、首都 圏中国帰国者支援・交流センターにおいて、定着促進のための日本語教育、生活指導などを6か月間実施しています*7。地域定着後は中国帰国者支援・交流センター(全国 7か所)で日本語学習支援などを行っています。

また、中国残留邦人等は、帰国が遅れ、老後の備えが不十分であるという特別な事情にあることに鑑み、2008(平成20)年4月から、老後生活の安定のため満額の老齢基礎年金等を支給するとともに、世帯収入が一定基準を満たさない場合には支援給付を支給するほか、2014(平成26)年10月からは、死亡した中国残留邦人等と労苦を共にしてきた永住帰国前からの配偶者に対して配偶者支援金を支給しています。

さらに、中国残留邦人等やその家族が地域社会でいきいきと暮らせるよう、地方自治体が中心となって、日本語教室、自立支援通訳の派遣、地域交流などの事業や中国残留邦人等の二世に対する就労支援事業を行っています。また、中国残留邦人等の高齢化に伴い、介護需要が増加していることを踏まえ、中国残留邦人等が安心して介護サービスを受けられるよう、2017(平成29)年度から、中国帰国者支援・交流センターにおいて、中国語等による語りかけボランティアの派遣などを行っています。このほか、次世代へ中国残留邦人等の体験と労苦を継承するため、証言映像公開及び戦後世代の語り部育成・講話活動事業を行っています。
*7 国内唯一の宿泊研修施設であった「中国帰国者定着促進センター」は、建物の老朽化や帰国者の減少などを踏まえ、2015(平成27)年度をもって閉所したが、2016(平成28)年度からはその機能を「首都圏中国帰国者支援・交流センター」に統合し、同様の支援を継続しています。

第6節 旧優生保護法一時金支給法について
旧優生保護法(昭和 23年法律第 156号)は、1948(昭和23)年に議員立法により制定され、遺伝性疾患を理由とした優生手術(不妊手術)や人工妊娠中絶等について定めた法律です。この旧優生保護法は、平成 8年に議員立法により優生手術に関する規定等は削除され、名称も母体保護法に改正されました。

2018(平成30)年1月に、旧優生保護法下で不妊手術を強制されたとして国家賠償請 求訴訟が提起されたと等を契機に、同年3月に与党旧優生保護法に関するワーキング チーム及び優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟が設立され、その 検討を踏まえ、議員立法により、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(平成31年法律第14号。以下本節において「法」といいます。)が 2019(平成31)年4月24日に成立し、同日に公布・施行されました。

法制定の趣旨について、前文において、①旧優生保護法の下、多くの方々が生殖を不能にする手術・放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くお詫びすること、②今後、これらの方々の名誉と尊厳が重んぜられるとともに、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものであること、③国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、この法律を制定することが明らかにされています。また、同日、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律の成立を受けての内閣総理大臣の談話」を発表し、政府としても、旧優生保護法の下、多くの方々が生殖を不能にする手術・放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、真摯に反省し、心から深くお詫びすることを表明しました。

法に基づき、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた方に対しては、一時金(320万円)が支給されます。支給に際して、厚生労働大臣は、請求者が一時金支給対象者であることが明らかな場合を除き、審査会に審査を求めなければならず、その審査の結果に基づき認定を行います。2019(令和元)年6月25日に「旧優生保護法一時金認定審査会」を設置し、第1回を同年7月22日(月)に開催しました。2021(令和3)年4月 1日現在での認定件数は 899件となっています。
(つづく)K.I

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