新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。
第6章 医療関連イノベーションの推進
第1節 データヘルス改革の推進
我が国では、世界に先駆けて超高齢社会に直面しており、健康寿命の延伸や社会保障制 度の持続可能性の確保という問題に国を挙げて取り組む必要がある。ICTの活用は、これらの課題の解決につながる可能性があります。
このため、厚生労働省においては、2017(平成29)年1月に、厚生労働大臣を本部長とする「データヘルス改革推進本部」を設置し、健康・医療・介護分野におけるICTの活用について検討を行っています。個人や医療・介護等の現場によるデータの活用や最先端技術の導入により、国民がメリットを感じることができ、必要なコストとのバランスを踏まえたICTインフラの整備等を進めるため、2017年7月に「データヘルス改革推進計画」を策定し、2018(平成30)年7月には工程表を策定しました。これらは、2020(令和2)年度の実現を目指したものであることから、2019(令和元)年9月には、2021(令和3)年度以降に目指すべき未来と、それらの実現に向けた2025(令和7)年度までの工程表を策定しました。現在、この工程表に沿って、ゲノム医療・AI活用の推進、自身のデータを日常生活改善等につなげるPHR(Personal Health Record)の推進、医療・介護現場の情報利活用の推進、データベースの効果的な利活用の推進等の取組みを進めています。
(新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン)
2020年6月には、「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」として、 「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」、「電子処方箋の仕組みの構築」、「自身の保 健医療情報を活用できる仕組みの拡大」の3つのアクションプランを今後2年間で集中的に実行する旨とその工程を公表しました。2020年度の具体的な取組みは以下のとおりです。
○ゲノム医療の推進について、2019年12月に策定した全ゲノム解析等実行計画に基づき、一人ひとりの治療精度を格段に向上させ、治療法のない患者に新たな治療を提供するといったがんや難病等の医療の発展や、個別化医療の推進等、がんや難病等患者のより良い医療の推進のため、全ゲノム解析等を推進してきました。がん、難病において、日本人のゲノム変異の特性等を明らかにしつつ、引き続き体制整備を進めます。
○AI活用の推進について、医療従事者の負担軽減及び医療の質の向上等を図るため、 AMEDにおいて、画像診断を支援するAI開発の取組み等を進めたほか、保健医療AI 開発加速コンソーシアムにおいて、AI開発段階に応じたロードブロック(障壁)解消に向けた工程表等を2020年6月に取りまとめました。AI等による医療技術等に適切に対応 する医療機器の承認制度の導入を含む医薬品医療機器等法の改正は2020年9月に施行 されました。
○自身のデータを日常生活改善等につなげるPHR(Personal Health Record)の推進について、マイナポータル等を通じた個人へのデータ提供に関しては、2020年6月から乳幼児健診情報の提供を開始し、遅くとも2021年10月までに特定健診等情報の提供を開始します。また、2021年10月から薬剤情報、2022(令和4)年度からその他の検診等情報の提供開始を目指しています。
○医療・介護現場の情報利活用の推進について、経済財政運営と改革の基本方針2020 (令和2年7月17日閣議決定)等に基づき、患者の保健医療情報を患者本人や全国の医療機関等において確認できる仕組みの構築を進めており、特定健診等情報について遅くとも2021年10月から確認できるようシステム改修等を行っています。また、薬剤情報も2021年10月からの稼働を目指してシステム改修等を行っており、レセプトに基づく手術等の情報についても2022年夏を目途に稼働させることを目指しています。
重複投薬の回避にも資する電子処方箋の仕組みについては、2020年度にシステム設計に当たっての整理や制度上の論点整理を進め、2021年度にシステム開発に着手し、2022年夏を目途に運用を開始する予定です。
なお、電子カルテ情報及び交換方式の標準化については、「健康・医療・介護情報利活用検討会」及び「医療等情報利活用ワーキンググループ」において、医療現場の有用性を考慮し、技術の発展に対応できるような国際的なデータ連携仕様等に基づいて標準化を進めるため、HL7FHIR*1の規格を用いることを検討することとされました。
○オンライン資格確認について、医療保険の被保険者番号を個人単位化し、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認」のプレ運用を2021年3月から開始しました。遅くとも同年10月から本格運用を開始します。また、医療情報化支援基金を活用し、医療機関及び薬局のシステム整備を着実に進めており、2023(令和5)年3月末までに概ね全ての医療機関及び薬局にシステムの導入を目指しています。
○データベースの効果的な利活用の推進について、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)や介護保険総合データベース(介護DB)の連結解析を2020年10月 から本格稼働し、行政・研究者・民間事業者等の利活用を可能としました。介護データの利活用については、自立支援等の効果が科学的に裏付けられた介護を実現するため、高齢者の状態、ケアの内容などのデータを収集・分析するデータベース(CHASE)の運用を2020年度に開始しました。CHASE情報については、2021年4月以降、NDB・介護DBと連結して利活用することが可能となります。さらに、2021年度介護報酬改定において、CHASE等を一体的に運用する科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出とフィードバックの活用によるPDCAサイクルの推進とケアの質の向上に向けた取組みについての評価を創設しました。
また、医療等分野における識別子については、NDBや介護DB等の医療・介護情報の連結精度向上のため、オンライン資格確認等システムを基盤として、社会保険診療報酬支払基金等が被保険者番号の履歴を活用し、正確な連結に必要な情報を安全性を担保しつつ提供できるようにすることと等を盛り込んだ地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)の施行に向けた準備を着実に進めており、2021年度中の運用開始を目指しています。
*1 医療情報システム間における情報交換のための、国際的標準規約の作成、普及推進に寄与することを目的とする非営利の任意団体である HL7(Health Level 7)Internationalによって作成された医療情報交換の次世代標準フレームワーク。
第2節 医薬品・医療機器開発などに関する基盤整備
1 健康・医療戦略について
政府の成長戦略の柱の1つである医薬品・医療機器産業を含む健康・医療関連分野にお いて、革新的な医療技術の実用化を加速するため、2014(平成26)年5月に、「健康・ 医療戦略推進法」(平成26年法律第48号)及び「独立行政法人日本医療研究開発機構法」 (平成26年法律第49号。現在の法律名は「国立研究開発法人日本医療研究開発機構法」。) が成立しました。また、各省の医療分野の研究開発関連事業を集約し、一体的に実施するた め、同年6月に内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚で構成する「健康・医療戦略推進本部」 が設置されました。
2014年7月には、医療分野の研究開発及び健康長寿社会の形成に資する新たな産業活動の創出・活性化に関し、政府が総合的かつ長期的に講ずべき施策を定めた第1期「健康・医療戦略」が閣議決定されました。また、医療分野の研究開発に関する施策について、基本的な方針や政府が集中的かつ計画的に講ずべき施策等を定めた第1期「医療分野研究開発推進計画」が策定され、①医薬品開発、②医療機器開発、③臨床研究中核病院などの革新的な医療技術創出拠点、④再生医療、⑤ゲノム医療、⑥がん、⑦精神・神経疾患、⑧感染症、⑨難病の9分野で重点的に研究支援をしていくこととされました。
2020(令和2)年3月には、第1期終了を受け、2020年度から2024(令和6)年度までの5年間を対象とした第2期「健康・医療戦略」が閣議決定され、また、第2期「医療分野研究開発推進計画」が策定された。第2期においては、モダリティ等を軸とした6つの統合プロジェクトに再編し、①医薬品プロジェクト②医療機器・ヘルスケアプロジェクト③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクト④ゲノム・データ基盤プロジェクト⑤疾患基礎研究プロジェクト⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクトについて横断的な技術や新たな技術を、多様な疾患領域に効果的・効率的に展開することとされました。
2 研究開発の振興について
各省の医療分野の研究開発関連事業を集約し、基礎段階から実用化まで切れ目のない支援を実現するため、2015(平成27)年4月に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)が設立されました。
厚生労働行政に関する研究開発のうち、医療分野の研究開発は、厚生労働省に加え、文部科学省、経済産業省、総務省の4省に計上された医療分野の研究開発関連予算を AMEDに交付し、AMEDにおいて実施している(2021(令和3)年度医療研究開発推進事業費補助金等約476億円)。
AMEDにおける医療分野の研究開発として、例えば、以下のような取り組みを行っている。
①医薬品プロジェクトにおいては、医療現場のニーズに応える医薬品の実用化を推進するため、創薬標的の探索から臨床研究に至るまで、モダリティの特徴や性質を考慮した研究開発を行う。
②医療機器・ヘルスケアプロジェクトにおいては、AI・IoT技術や計測技術、ロボティ クス技術等を融合的に活用し、診断・治療の高度化、予防・QOL向上等に資する医療機器・ヘルスケアに関する研究開発を行います。
③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクトにおいては、再生・細胞医療・遺伝子治療の実用化に向け、基礎研究や非臨床・臨床研究、応用研究、必要な基盤構築を行いつつ、分野融合的な研究開発を推進します。
④ゲノム・データ基盤プロジェクトにおいては、ゲノム医療、個別化医療の実現を目指し、ゲノム・データ基盤構築、「全ゲノム解析等実行計画」の実施、及びこれらの利活用による、ライフステージを俯瞰した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進します。
⑤疾患基礎研究プロジェクトにおいては、医療分野の研究開発への応用を目指し、脳機能、免疫、老化等の生命現象の機能解明や、様々な疾患を対象にした疾患メカニズムの 解明等のための基礎的な研究開発を行います。
⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクトにおいては、新規モダリティの創出に向けた画期的なシーズの創出・育成等の基礎的研究や国際共同研究を推進する。また、橋渡し研究支援拠点や臨床研究中核病院において、シーズの発掘・移転や質の高い臨床研究・治験の実施のための体制や仕組みを整備します。
第2期においても、医療分野の研究開発の推進に関係省庁と連携して取り組むこととしています。
なお、医療分野の研究開発以外の厚生労働行政の推進に資する研究については、厚生労働省が実施しています(2021年度厚生労働科学研究費補助金等約94億円)。
3 次世代医療基盤法
匿名加工された医療情報の安全・適正な利活用を通じて、健康・医療に関する先端的研究開発や新産業創出を促進するため、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(次世代医療基盤法)が2018(平成30)年5月に施行されました。2019(令和元)年12月及び2020(令和2)年6月、本法律に基づき、主務府省(内閣府、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)において、第1号及び第2号となる認定匿名加工医療情報作成事業者及び認定医療情報等取扱受託事業者の認定を行いました。引き続き、本法律に基づき、国民の理解の増進をはじめ、産学官による匿名加工医療情報の医療分野の研究開発への利活用を推進する措置を実施することとしています。
4 研究者等が守るべき倫理指針について
医学研究の分野では、研究を適切に実施する上で、個人情報保護を含む研究対象者保護の観点から研究者等が守るべき倫理指針として、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(医学系指針)」、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(ゲノム指針)」、「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」等の各種指針を定めています。これらの指針については、医学研究を取り巻く環境の変化等に応じ、必要な見直しを行っています。
近年、ヒトゲノム・遺伝子解析技術の進展に伴い、医学系指針及びゲノム指針の双方が適用される研究が増加してきたことや、両指針で共通して定義される項目に差異があることから、2018(平成30)年8月に医学研究等に係る倫理指針の見直しに関する合同会議を設置し、現在両指針の統合作業を進めています。
(つづく)K.I